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第18巻「火の山の巨人の戦い」

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10.兄と妹

 白い人間に売られた……とゼンやメールやポポロは、アマニのことばを繰り返してしまいました。意味としてはわかっても、すぐにはぴんと来ません。

 すると、フルートが仲間たちに言いました。

「人間の世界の貧しい場所では、人が売られることがよくあるんだよ。ロムド国でも、五十年くらい前までは頻繁に人身売買が行われていたんだ。特に子どもや女性が売り買いされたらしい」

「ワン、南大陸の人たちは肌の色や体つきが中央大陸の人と違いますからね。それが珍しくて売買の対象にされることがある、って聞いたことがありますよ」

 とポチも言います。

 アマニは大きな溜息をつきました。

「そういうことだったんだろうね……。あたしたちが外のことばを話すようになってから間もなくのことさ。今はもうムパスコから追放されてるけど、ハラムっていうろくでなしの男がいてね、そいつが白い人間にそそのかされて、ムパスコの娘を何人もさらって売り渡したのさ。あたしも縄で縛られて馬車に押し込められた……。ムヴアのことばを使っている頃なら、村の人が魔法ですぐに追いかけて助けてくれたんだろうけど、みんな、もう魔法が使えなくなっていたから、どうすることもできなかったんだ。怖かったよ。狭くて暗い馬車に押し込められてさ、何週間も荷物みたいに運ばれていくんだ。食事は一日に一回で、それもほんのちょっぴりだったし。病気になる子がたくさん出たよ。でも、それも船よりはましだった。あたしたちはルボラスの港に運ばれて、そこから今度は船に乗せられたんだけど、かび臭い寒い船倉に放り込まれたし、船はずぅっと波にゆられていたから、病気だった子はどんどん弱っていっちゃってね……最後には、あたし一人だけしか残らなかったんだ。あたしはもともと丈夫なたちだったし、兄さんがくれたお守りを身につけていたから、病気のほうで近寄らなかったんだ。外の大地に船が着くと、あたしを買った男は、あたしを市場に出したよ。娘がたくさん死んで大損したから、あたしを高く売って元を取るんだ、って言ってね――」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 とルルが急に口をはさんできました。ふさふさの毛並みの頭をかしげて言います。

「村の人たちが助けられなかったのはわかったけど、赤さんは? 妹が誘拐されたのに、やっぱり助けに来なかったの?」

 アマニは苦笑しました。

「兄さんはその時、魔法の修業をするために、ムパスコを離れていたんだよ。ムパスコに戻って初めて、あたしがさらわれたことを知ったんだけど、その頃にはもう、あたしは船に乗せられていたんだ。兄さんはすごく怒って、魔法であたしの後を追いかけて、市場であたしのことを助け出してくれた。でも、その時に市場をめちゃくちゃにしたし、あたしをさらっていった白い人に大怪我を負わせたから、白い人たちが兄さんをお尋ね者にしてね。ムパスコまでやってきて、村の人たちに、兄さんを引き渡せ、って言ってきたんだよ。それで、みんなは兄さんを白い人たちに渡そうとして――」

 どうして!? とフルートたちはいっせいに叫んでしまいました。赤の魔法使いはムパスコからさらわれた娘たちを救いに行ったのです。村のために戦ったはずなのに、それを犯罪者として引き渡そうとした理由がわかりません。

 ふぅっとアマニはまた溜息をつきました。この話を始めてからは、さすがに陽気な表情が出てきません。

「みんな、白い人たちににらまれるのを怖がっているからなんだよ。石を買ってもらえなくなっちゃうからね。それに、兄さんはあたししか助け出すことができなかった。助けに行ったときにはもう、みんな死んじゃってたからなんだけど、その親はそうは思わなかったんだよね。兄さんが見殺しにしたんだ、って怒ってさ。本当に、兄さんを捕まえて、白い人たちに引き渡そうとしたんだ」

 一同は何も言えなくなりました。フルートが、そっと唇をかみます。人々を守り助ける勇者であるだけに、赤の魔法使いの状況は、なんだか人ごととは思えなかったのです。

「自分はもうここにはいられない、って言い残して、兄さんは外へ出て行ったよ。あたしは、一緒に連れていって、って泣いて頼んだんだけど、兄さんは聞いてくれなかった。おまえはムパスコで結婚して生きていけ、って言って、知らせの実をひとつ残して消えていった……。実が白くなったら、兄さんが帰ってきた知らせ。でも、実が急に腐ってしまったら、それは兄さんが死んでしまったって知らせ。だから、あたしは毎日、知らせの実を見ていたんだ。どうか実が腐ったりしませんように、って祈りながら。そしたら今日、それが急に白く変わったから、あたしは本当に嬉しくてさ。大急ぎで兄さんを迎えに上がっていったんだよ」

 アマニの長い長い思い出話が終わりました。

 部屋の中が静かになっても、フルートたちはすぐには口がきけませんでした。何を言ったら良いのか、わからなかったのです。

 赤の魔法使いはその後、ロムド王の下で、城を守るために働くようになりました。その強力な魔法と活躍ぶりから、四大魔法使いの一人に数えられるほど有名になったのですが、一方、故郷に残された妹は、毎日ずっと兄を案じ続けていたのです。赤の魔法使いのほうでも、きっと心の中では妹を想い続けていたのでしょう……。

 

 すると、アマニが窓の外を見て、急にベッドから跳ね起きました。

「いっけない、もうすぐ日暮れだ! 夕飯の支度をしなくちゃね! モージャ! モージャ! 魔法で材料を出してよ! あたしがみんなに食事を作るからさ!」

 と家の裏口から飛び出していきます。赤の魔法使いはそこから裏庭へ出ていたのです。ラ、ワ、クル、と赤の魔法使いがムヴア語で返事をすると、アマニがまた言います。

「だめだよ、あたしが作るってば! 久しぶりでモージャにあたしの料理を食べてもらうんだから!」

 彼女はまた明るい声に戻っていました。

「レ、ラズ、ナ」

 やれやれ、と言うような調子の赤の魔法使いの声も聞こえます。

 フルートたちは互いの顔を見合わせました。やっぱり、何をどう言ったらいいのか、よくわかりません。

 しばらくためらってから、メールが言いました。

「アマニも赤さんも、すごく嬉しそうだよね……?」

 仲間たちはうなずき、兄妹がいる裏庭のほうを黙って見つめました。

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