大地に深く刻まれた亀裂ムパスコ。その底の川沿いに広がる村で、赤の魔法使いと妹のアマニは村人と対面していました。
そこは彼らの故郷の村なのに、村人たちは赤の魔法使いに友好的ではありませんでした。モージャはお尋ね者だ! 村から出て行け! とわめき、一人が赤の魔法使いへ切りかかります。フルートは思わず彼らの間に飛び出しました。自分の剣で赤の魔法使いを守り、男の剣を弾き返します。
すると、男たちは驚いて、いっそう騒ぎ始めました。
「白い人間だ!?」
「どうしてこんなところにいるんだ――!?」
「この人たちは兄さんの友だちだよ! ムパスコに用があって、外からやってきたんだ!」
とアマニは男たちとフルートの間に飛び込んでいきました。必死で相手を説得します。
友だち!? と村の男たちはますます驚きました。フルートたちと赤の魔法使いを疑わしそうに見比べます。
「モージャに白い人間の友だちだと……? 本当か、モージャ?」
「ダ」
と赤の魔法使いは答えました。妹も他の村人もフルートたちと同じことばを話すのに、彼だけはことばが違います。村人は顔をしかめました。
「相変わらずムヴアにしがみついているな」
「今さら何をしに村に戻ってきた」
「ワ、マ、ロムド、ル。ラ、イ、ウ、シャ」
と赤の魔法使いがまた言うと、男たちは、どっと笑い出しました。
「世界を救う勇者たちだと!? なんだそれは!」
「ロムドってのはどこにあるんだ? ルボラスの近所か?」
アマニと同様、話すことばは違っていても、赤の魔法使いが言う内容は伝わっているのです。
赤の魔法使いと男たちのやりとりはさらに続きましたが、フルートたちは口を出さないようにしていました。相手があまり友好的ではないので、下手なことを言ってこじらせては大変だと考えたのです。それでも、フルートたちが赤の魔法使いの友人とわかってから、男たちの態度は少し和らいでいました。もう剣で切りかかってくるようなことはありません。
かなり長い時間話し合った後、男の一人が念を押すように言いました。
「わかった。おまえは四日後には彼らを連れてムパスコを出ていくと言うんだな? ムートに誓えるな?」
「ウ、ムート」
と赤の魔法使いが言うと、彼らは立ち去っていきました。後には赤の魔法使いとアマニとフルートたちが残されます。
すると、赤の魔法使いが急に歩き出しました。男たちが去ったのとは反対の、東の方角へ向かっていきます。
「ど、どこへ行くんですか?」
とフルートが尋ねると、魔法使いは言いました。
「ワ、エダ。イ、ビオ、ル」
「ワン、赤さんの家があったところへ行くそうですよ。占いの準備を始めるって」
とポチが言って、後を追いかけていきました。フルートたちも急いでついていきます。
それを追い抜いて、アマニが前に出ました。兄に並んで話しかけます。
「怒っちゃだめだよ、モージャ。みんなは、白い人を怒らせて採石場がどうにかなるのを心配してるだけなんだ」
「ラ、ホウ、タ。ワ、イ、ナイ」
と赤の魔法使いが言いました。明らかに怒った声です。
メールがポチにささやきました。
「赤さんはなんだって?」
「ワン、彼らが魔法を使えなくなったのは当然だ、って。それに、自分は犯罪者なんかじゃないって言ってますよ」
「もちろんそうだよ。モージャはただ、あたしを助け出してくれただけなんだから」
とアマニが言っていました。赤の魔法使いはもう答えません。長衣の赤いフードをまぶかにかぶり、畑の間の道を足早に進んでいきます。
フルートたちは足を停めて顔を見合わせました。
「なんだか、ものすごく複雑な事情がありそうなんじゃないの?」
とルルが言い、全員は困惑した表情になりました。このまま、この村にいてもいいのだろうか、と心配になったのです。赤い長衣を着た小さな後ろ姿は、まだ肩を怒らせています。
少し思い悩んでから、フルートが言いました。
「それでも、ぼくたちは手がかりをつかまなくちゃいけないんだよ。竜の宝が何なのかを知らなければ、デビルドラゴンを倒せないんだから。それを承知しているから、赤さんだって、ここに来てくれたんだ……」
赤の魔法使いとアマニの姿は、トウモロコシの畑の陰に消えようとしていました。一行は気後れしながらも、フルートを先頭に、またその後を追いかけていきました。