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第17巻「マモリワスレの戦い」

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81.仲間

 飛竜に襲われたキースは、血をまき散らしながら空から落ちていきました。雪崩で埋まった谷にたたきつけられてしまいます。

 そこへまた飛竜が襲いかかりました。背中でサータマン兵が興奮して叫んでいます。

「効いているぞ! 行け! あの悪魔を食い殺せ!」

 雪の上ではキースがうめいていました。その右の肩から血が流れて、雪を紅く染めていきます。飛竜はまた牙をむきました。今度はキースの頭を食いちぎろうとします。

 とたんに、どん、と音がして、竜の背中からサータマン兵が吹き飛ばされました。続いて大きな黒い生き物が竜に襲いかかります。それは青の魔法使いを乗せたグーリーでした。鷲の前脚で飛竜を捕まえてかみつくと、飛竜の頭がちぎれて落ちました。竜の体も谷へ落ちて、雪の上で動かなくなります。

 

 青の魔法使いはキースの隣へ飛び下りました。駆け寄って呼びかけます。

「キース殿! キース殿、しっかり!」

 青年の肩は、黒い服ごと大きく食いちぎられていました。流れ出る血が止まりません。青の魔法使いは、魔法で傷をふさごうと、急いで杖をかざしました。

 すると、キースがあわてたように言いました。

「待った待った……それはだめだよ、青さん……。そっちは光の魔法だからね。そんなものを流し込まれたら、ぼくの体は半分消滅しちゃうよ……」

「だが、その血を止めなくては!」

 と青の魔法使いは焦って言いました。あふれる血は雪を染めていきます。それと反比例するように、キースの顔色は血の気を失って青ざめていくのです。

「大丈夫だよ……」

 とキースは答えると、左手を自分の右肩の上へかざしました。傷が、ぼうっと白い光に包またと思うと、すぐに血が止まり、肉が盛り上がっていきます。ものの一分もたたないうちに、キースの肩は元通りになっていました。血の痕が消え、ちぎれた服も元通りになってしまいます。

 おぉ、と青の魔法使いは驚きました。彼ら四大魔法も、これほど早く怪我を治すことはできません。さすがにキースは闇の国の王子でした。

「闇の石を手放さなかった奴がいたのか。それで雪崩に埋まっても平気だったんだな」

 とキースが立ち上がりながら言いました。

「石と合体していた者がいたということですかな?」

 と青の魔法使いが尋ねます。

「いいや。ただ、なんとしても闇の石を失うもんかと思っていれば、石はそいつのそばから離れないんだ。闇の誘惑と同じさ」

 彼らは周囲を見回しましたが、雪の中から新たに現れる敵はありませんでした。雪の中に潜んでいるのかもしれませんが、外からでは見つけられません。

 

 すると、青の魔法使いが急に、おやという顔をしました。少しの間、耳を澄ましてから、何もない空に向かってどなります。

「大丈夫です、白! キース殿はご無事ですぞ!」

 ロムド城から白の魔法使いが心話で話しかけてきたのです。

「はい、はい、そうです! ご心配なくと伝えてあげてください!」

 と話し続けてから、武僧はキースに言いました。

「アリアンが鏡でずっと我々を見ていたのですよ。あなたが大怪我をしたものだから、泣き崩れてしまったそうです」

「アリアンが?」

 とキースは驚きました。すぐに照れたように人差し指で自分の頬をかきます。

「まいったな……。こんな怪我くらい、闇の国ではしょっちゅうだったから、別にどうってことはないのに」

「しょっちゅうだった?」

 と青の魔法使いは思わず聞き返しました。先ほどの怪我は、人間であれば致命傷です。それがしょっちゅうだったとは――と考えていると、キースの声がいきなり暗い響きをまといました。

「なにしろ連中は闇の民だからね。油断をすればやられるに決まっているのさ」

 青年は血の色の目に怒りを燃やして、じっと何かを見据えていました。グェェン、とグーリーが悲しい声を上げます――。

 

 けれども、キースはすぐにいつもの調子に戻りました。グーリーの体をぽん、とたたいて陽気に続けます。

「さあ、急いで城に戻ろう。さっきも言ったけれど、今日は貴重な休日なんだ。ぐずぐずしていたら日が暮れてしまうよ」

 それから、彼は青空に向かって呼びかけました。

「アリアン、見えているかい!? これから戻るから、部屋にお茶の準備をしておいてくれ!」

 少し間が合ってから、青の魔法使いが言いました。

「わかりました、とアリアンが言っているそうです。ゾとヨは、オレたちも一緒にお茶ができるのか、と騒いでいるとか」

 間に白の魔法使いを挟んで、ロムド城の様子を伝えているのです。キースは笑顔になりました。

「もちろんだ! おいしいお菓子もよろしく頼むよ! ――さあ、グーリー、城に戻ろう。みんなが待っている!」

 そう言ったキースからは、先ほどの暗さが消えていました。いかにも嬉しそうな様子で、翼を広げて空に飛びたちます。

 グーリーと空に舞い上がった青の魔法使いは、先を急ぐキースを眺め続けました。闇の国や闇の民を憎むキースですが、その心を癒すのもまた、同じ闇のものなのかもしれない、と考えます。闇の国に由縁(ゆえん)を持っているのに、心には光を抱く、闇の仲間たちです。

 空から照らす太陽に、キースの大きな翼が反射して白く輝きました――。

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