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第17巻「マモリワスレの戦い」

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37.連携技

 青い頭の蛇は毒を吐く、とランジュールが話す声は、地上近くにいたポポロやルルにも聞こえていました。

「いけない!」

 とルルは言って、ポポロを地面に放り出しました。ポポロが尻餅をつきますが、振り向きもせずに舞い上がって、青い蛇へ突進していきます。すると、蛇がゼンたちに追いついて口を開けました。黄色い毒の霧を吐き出します。

 ルルは霧に飛びつきました。風の犬に変身しているので、ルル自身に毒は効きません。勢いよくつむじを巻き、風の体に霧を巻き込むと、そのまま高く飛び上がりました。上空を吹いていた強い風の中へ毒を流してしまいます。

 んー、とランジュールが言いました。

「キミたちって、ホントに連携がうまいよねぇ。一人ずつも強いんだけど、二人三人って協力し合うから、いっそう強くなっちゃうんだよねぇ。だから、ボクもいろいろ連携技を考えたのさ。キミたちを倒すフォーメーションってヤツ。うふふふふ。いよいよそれを試させてもらうからねぇ」

 ランジュールは本当に楽しそうな表情をしていました。幽霊になっても、彼は魔獣使いです。家来にした怪物を強い敵と戦わせて勝つことで、最高の喜びを感じるのです。

 ポチに乗ったゼンと花鳥に乗ったメールが一箇所に集まりました。風の犬のルルもそこへ飛んできて言います。

「気をつけなさいよ! 闇の国でも猪のフノラスドを相手に連携技を使ったんだから! 強力よ!」

「うふふ、ワンワンのお嬢ちゃん、誉めてくれてありがとぉ。ただねぇ、あの時に戦ったのはヤマタノオロチのはっちゃん。こっちはフーちゃんだし、それを鍛えてまたいろんな力を持たせたから、前とは一味違うんだなぁ――。まずはフォーメーションその一。黒イチちゃん、ワンワンちゃんに破壊の波動! 黒ニィちゃんと黒サンちゃんは闇の波動! 狙いはドワーフくんじゃなくて、ワンワンちゃんのほうだよぉ!」

 とたんにフノラスドの黒い三つの頭が動きました。一つ目が口を開けると、すさまじい衝撃波が襲ってきます。たちまちポチの風の体が空中で飛び散り、ポチは元の小犬に戻ってしまいました。そこへ二つ目と三つ目の頭が闇の波動を繰り出そうとします。魔法解除の胸当てをつけたゼンには効きませんが、ポチはまともに食らってしまいます。

「ポチ!」

 空中から地上へ落ちながら、ゼンは手を伸ばしましたが、ポチをつかむことができませんでした。黒ニィと黒サンの蛇が闇魔法を吐き出します――。

 

 するとそこへルルが飛んできました。落ちてきたゼンとポチを拾って、素早くその場を離れます。飛びすぎた後を闇の波動が通り過ぎて行きました。長く伸びた風の尾が波動に弾け飛んで、ルルがキャン、と悲鳴を上げます。

「ルル!」

 と叫んでポチはまた変身しました。フノラスドへ引き返していくと、黒イチの首元に風の牙でかみつきます。フノラスドは激しく頭を振りましたが、ポチを振り切ることができません。

 すると、ランジュールがまた言いました。

「黒ニィちゃん、黒サンちゃん、ワンワンちゃんを引きはがして!」

 二つの黒い頭がまた動き出して、ポチにかみつきました。蛇の牙が風の体に食い込み、キャウン、とポチが鳴きます。青い霧のような風の犬の血が噴き出すのを見て、仲間たちは驚きました。

「やべぇ、効いてるぞ!」

「フノラスドは風の犬に攻撃できるのかい!?」

「あの黒い頭は魔法の牙を持ってるのよ!」

 ゼンとメールとルルがそう話す間も、ポチは黒い蛇たちに襲われていました。黒ニィが黒イチからポチを引きはがして放り投げます。ポチは青い霧をまき散らしながら大きく飛んで、地面に落ちました。そこで小犬の姿に戻ってしまいます。背中に深手を負っていて、立ちあがることができません。

 ランジュールが笑いながら言いました。

「うふふ、まずは一人目! 青ちゃん、ワンワンちゃんに毒でとどめぇ!」

 フノラスドの青い頭がポチに向かって動きます。

「ポチ!」

「こんちくしょう!」

 メールとゼンとルルはポチのほうへ飛びました。メールが、さっと手を振ると、地上からまた木の葉が舞い上がり、ポチとフノラスドの間に壁を作ります。毒の霧は木の葉の壁でさえぎられました。毒を浴びて赤く枯れた葉が地面に雪のように降りますが、壁が分厚いので破ることはできません――。

 

 ゼンはルルの背中から矢を次々に放ちました。呪符をまいた炎の矢です。大蛇の頭や体に突き刺さっては燃え上がりますが、怪物が巨大すぎて致命傷にはなりません。

「んなろ! それじゃ一つの頭に集中攻撃してやる!」

 とゼンが黒ニィに狙いを定めて射始めると、ランジュールがまた叫びました。

「フォーメーション、その二! 金ちゃん、黒ニィちゃんを守れぇ! 黒ニィちゃん、闇の波動!」

 とたんに火に強い金の頭が動き出しました。黒ニィとゼンの間に割って入り、大口を開けて、飛んできた炎の矢をすべて呑み込んでしまいます。守られた黒ニィはゼンへ闇の波動を繰り出しました。ルルがあわてて身をかわします。

 一方、メールは花鳥でポチの元へ飛んでいました。木の葉の壁が毒から守ってくれている間に、傷ついたポチを抱き上げて鳥の背に乗せます。

 空中でランジュールがまた言いました。

「花使いのお姫様対策の、フォーメーションその三! 黒イチちゃん、例のヤツを行けぇ!」

 言われて、青い蛇の隣に黒い蛇が頭を並べました。口から黒い霧のようなものが噴き出してきて、また木の葉の壁に激突します。

 すると、何かが壁を突き抜けてメールの頬に当たりました。同じものが次々に壁から飛び出してきて、花鳥や地面にも当たり、大粒の雨のような音をたてます。小石が飛んできたようにも見えますが、それは当たった後で動き出しました。黒い羽根を広げ、ぶぅん、と音をたてて舞い上がります。

 メールは息を呑みました。飛んできたのは黒いバッタでした。黒イチの口から霧のように吐き出されてくると、木の葉の壁に群がり、壁を食い破って、メールとポチが乗る花鳥にまで襲いかかっていきます。メールは大あわてで空に舞い上がりましたが、バッタも羽根を広げて追いかけてきます。

「こんちくしょう! 次から次と、よくも考えやがるな!」

 ゼンが悪態をつきながらルルと飛んできました。たくさんのバッタが群がる木の葉の壁へ炎の矢を構えます。

「ゼン、何を――!?」

 とメールが叫びましたが、ゼンはかまわず矢を放ちました。木の葉の壁が燃え上がり、炎がバッタの群れを呑み込みます。木の葉の壁と一緒にバッタを焼き払ったのです。

 空に舞い上がったバッタは花鳥を追っていましたが、鳥の体に飛びついたとたん、花の間から伸びてきた蔓につかまってしまいました。蜘蛛(くも)の巣に捕らえられたようにぐるぐる巻きにされ、やがてその中でつぶされてしまいます。

 ふぅっとメールは冷や汗をぬぐいました。ゼンがバッタをあらかた排除してくれたからできたことです。これ以上バッタの数が多ければ、蔓で捕まえるより先に、花鳥の方が食われてしまったでしょう。

 

 そこにゼンとルルがやってきて、花鳥に並びました。

「大丈夫か!?」

「ポチは!?」

 と口々に尋ねると、メールの膝でポチが頭を上げました。

「ワン、大丈夫ですよ……生きてます。ただ、もう変身ができないけど……」

 ポチの背中の傷からは血が流れていました。白い毛並みを濡らして、その下の花鳥まで紅く染めます。メールは急いで花鳥の中から止血の薬効を持つ花を呼びました。その花びらをポチの背に載せて、大きな木の葉と細い蔓で包帯の代わりにします。手当をされても、ポチは立ち上がることができませんでした。ぐったりと花鳥の背に横たわったままでいます。

 ちっくしょう! とゼンは言って、空に浮かんでいるフノラスドとランジュールをにらみつけました。黒、白、青、金、赤――五色の頭はそれぞれに特殊な力があるうえに、連携して攻撃や防御を繰り返すので、隙がまったく見つかりません。

 ゼンたちが攻めあぐねていると、ランジュールがあきれたように言いました。

「あれぇ、攻撃はもう終わりぃ? 全然もの足りないなぁ。いいかげん勇者くんを出しなってば。真打ちが登場しなかったら、キミたちが負けるに決まってるじゃないかぁ」

 ゼンは口をへの字にすると、素早くあたりを見回しました。周囲はフノラスドが放つ妖しい光に照らされていますが、木陰に岩陰に、夜の闇は濃く淀んでいます。そこにフルートがいるのではないかと目を凝らしますが、やっぱりフルートは見つかりません。

 すると、ゼンを乗せていたルルが、急に悲鳴を上げて何メートルも下がりました。風の体に長い触手が絡みついて、ルルを地上に引き寄せたのです。見下ろすと、地上にはたくさんの闇の怪物が集まっていました。空にいるゼンたちを見上げて、口々に言っています。

「ギ、キ、あれがきっと金ノ石ノ勇者だゾ」

「下ろセ、下ろセ!」

「願イ石ごと食ってヤル!」

 長い触手を伸ばした怪物の周囲で、他の怪物たちも牙をむき、触手を伸ばしています。

「振り切れないわ!」

 とルルが叫びました。彼女を捕まえた触手には魔法の力があったのです。どんどん地上に引き寄せられて、怪物たちが近づいてきます。

 ゼンは歯ぎしりしてルルの背中に立ち上がりました。触手は彼女の胴の中ほどに絡みついています。腰からショートソードを抜くと、ルルの背中を走って、触手を断ちきります。

 とたんに触手から解放されたルルは空へ跳ね飛ばされました。反動でゼンが地上に転がり落ちます。

「ってぇ……!」

 とゼンは声を上げました。少し頭は打ちましたが、もう地上のすぐ近くまで下がっていたので、怪我はありませんでした。素早く跳ね起きて剣を構えます。

 その周囲には何十という闇の怪物が集まっていました。ゼンは闇の怪物のまっただ中に落ちてしまったのでした――。

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