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第17巻「マモリワスレの戦い」

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第11章 危機

36.対決

 ゼンたちは、宿を抜け出したフルートを探して、町の外まで来ていました。ゼンとポポロは風の犬になったポチとルルに乗って、メールは鳥に変身した花に乗っています。

 あたりは夜の闇に包まれていますが、町の西に当たる方角が、ぼうっと明るく光っていました。透視したポポロがフノラスドとランジュールを見つけたので、フルートもそこにいると見当をつけて駆けつけてきたのです。光の方角に向かって、フルートを呼びます。

「フルート、どこにいるのさ!?」

「さっさとこっちに来い!! おまえだけじゃフノラスドとは戦えねえぞ!!」

 どんなに声を張り上げても、フルートからの返事はありませんでした。ポポロの魔法使いの耳にもフルートの声は聞こえてきません。ポポロは涙ぐみながらフルートを探し続けましたが、フノラスドの近くにその姿を見つけることはできませんでした。

 すると、声を聞きつけたランジュールとフノラスドが移動を始めました。

「来るわ!」

 とポポロが叫んだとたん、もう彼らの目の前までやってきます。フノラスドは夜空いっぱいに八本の首を伸ばしてくねらせていました。幽霊のランジュールが細い腰に両手を当て、いつものにやにや顔で言います。

「よぉこそぉ、勇者の諸君。フーちゃんの餌になりに来てくれて、どうもありがとぉ。うふふん、これでやっと戦闘らしくなるねぇ。早く勇者くんも前に出しなよ。キミたちと一緒にいるのはわかってるんだからさぁ」

 ゼンはランジュールをにらみ返しました。

「何言ってやがる!? フルートをどこにやったんだよ!? とっとと返せ!」

「あれぇ、とぼけるつもりぃ? 隠したってダメだよ。勇者くんは時間稼ぎをして、キミたちが到着するのを待ってたんだからさぁ。さあ、ボクのかわいいフーちゃんと決戦だよ。まずは、黒イチちゃん、黒ニィちゃん、黒サンちゃん、行けぇ!」

 フノラスドの三つの黒い頭がゼンたちに襲いかかってきました。一行は空中で身をかわすと、大きく後退して、また空の一箇所に集まりました。

「ワン、ランジュールはフルートの行方を知らないみたいだ」

「あたいたちがフルートをかくまってると思ってるようだね」

「フルートはどこへ行ったのよ?」

 と話し合っているところへ、また黒い蛇たちが襲ってきました。

「散れっ!」

 とゼンがどなったので、全員がまた離れます。

 二匹の風の犬と花鳥が、それぞれがまったく別の方向へ飛んだので、フノラスドの首は三方向へ伸び、伸びきったところで後を追えなくなってしまいました。へぇ、とランジュールが感心します。

「やっぱりキミたちは強いよねぇ。戦いはこうでなくっちゃ面白くないなぁ、うふふ」

 嬉しそうに透明な手をこすり合わせて、フノラスドにまた命じます。

「黒イチちゃん、黒ニィちゃん、下がって! 黒サンちゃんはドワーフくんを集中して追いかけて! 一人ずつ順番に倒していくよぉ!」

 黒い頭が二つ首を縮め、三番目の黒い頭だけがゼンに向かって伸びていきました。ポチが急旋回でそれをかわしたので、ゼンが転落しそうになって、うぉっ、と声を上げます――。

 

 ルルが背中のポポロに尋ねました。

「フルートがどこにいるのか、まだ見つからないの!? あの蛇の後ろから、たくさんの闇の気配が近づいてるわ。闇の怪物もこっちに向かっているのよ!」

 ポポロは泣きながら魔法使いの目でフルートを探し続けていました。彼女にも迫ってくる闇の怪物たちは見えています。地上を走ったり空を飛んだりして、ここへ集まってくるのです。フルートが闇の怪物に襲われそうで、気が気ではないのですが、やっぱりフルートを見つけることができません。

 その時、メールが声を上げました。

「ゼン!」

 ゼンがポチの背中からフノラスドの頭目がけて飛び下りていったのです。巨大な蛇の頭へ向かうゼンは、羽虫のように小さく見えます。

「よぉし、黒サンちゃん、闇の波動! ドワーフくんを吹き飛ばせぇ!」

 ランジュールの歓声と共に、蛇の口から真っ黒な光が波になってほとばしりました。ゼンを光の中に呑み込んでしまいます。

 けれども、波動が通り過ぎたとき、空中にはまだゼンがいました。驚く顔をするランジュールに、にやっと笑ってみせます。

「魔法を使われたって、俺には痛くもかゆくもねえぜ。魔法解除の胸当てを着てるんだからな。これでも食らえ!」

 と蛇の鼻面へ落ちていって、思いきり拳をたたきつけます。とたんに、黒サンの頭は何十メートルも下へ吹き飛ばされました。ジャアア、と声を上げます。

 そこへポチが飛んできました。フノラスドの首の間をすり抜け、まだ落ち続けていたゼンを空中で拾い上げて離れます。黒や赤の頭は後を追いきれなくなって、シュウシュウと悔しがりました。

 あれぇ、とランジュールが言います。

「フノラスドを素手で殴り飛ばすだなんてぇ。キミまた力が強くなったね? いくらドワーフでも、そんなに強いのは反則だよぉ」

「うるせえ! こっちは今、成長期なんだ。力だって成長して当然だろうが!」

 とゼンがポチの上から言い返しました。口喧嘩でも少しも負けないゼンです。

 

 その間にポチはいっそう遠くへ離れ、代わりにメールが前に出てきました。花鳥の上からさっと両手を振って言います。

「木の葉たち、目隠し!」

 すると、ざぁぁぁと土砂降りのような音をたてて、地上から木の葉が舞い上がりました。綿の木の葉です。砂嵐のように飛んでいって、フノラスドとランジュールの周囲を取り囲みます。綿花畑は周囲のあちこちに広がっているので、木の葉の数も尋常ではありませんでした。フノラスドの巨大な体は緑の雲の中に隠されて、尻尾が見えるだけになってしまいます。

 そこへポチが引き返してきました。黒い蛇の尾の一本に、風の牙でがっぷりとかみつきます。そのとたん、黒い頭の一つが悲鳴を上げて木の葉の雲から飛び出してきました。首を尾のほうへくねらせますが、その時にはもうポチはそこにいませんでした。蛇が敵を探して周囲を見回します。

 木の葉の雲からランジュールも出てきました。口を尖らせて言います。

「ちょぉっとぉ、花使いのお姫様。キミは花しか操れなかったはずでしょ? どぉして木の葉まで操っちゃったりしてるのさ。これも反則ぅ! ちゃんと以前のように戦ってくれなきゃ、困るじゃないかぁ!」

 ふふん、とメールは笑い返しました。

「悪いね。あたいもゼンと同じで成長期なんだよ。子どもがいつまでも昔と同じだと思ってたら大間違い、ってことさ」

 と言いながら、すぐにまた後退して安全な場所まで離れます。

 ランジュールはぷうっとふくれました。

「キミたちが子どもだなんて、ぜぇったいに何かの間違いだよ。子どもってのは、もっと弱くて素直で、大人の言うことをよく聞くもんじゃないかぁ」

「あいにくだな。子どもってのはいつも大人には反抗期なんだぜ」

 と言いながら、ゼンが木の葉の雲から飛び出してきました。ポチと一緒に、フノラスドを包む木の葉の中に隠れていたのです。ゼンたちを探してきょろきょろしていた黒サンの頭を、また思いきり殴り飛ばします。

「ワン、大人ってランジュールのことですか? ぼく、それには賛成したくないなぁ」

 反撃してきた蛇の頭をかわしながら、ポチがぶつぶつ言います。

 その間にメールがまた両手をかざして、木の葉の雲へ呼びかけていました。

「綿の葉たち、枝を伸ばして花を咲かて、綿の実をつけな! フノラスドを綿で包むんだよ!」

 それをランジュールが聞きつけて、えぇ? と驚きます。

「お姫様ぁ、キミ、そんなことまでできるようになってるのぉ!?」 ざざっと空中で木の葉がざわめいていました。本当に葉の根元から細い枝が伸び、白い花が丸い実になったと思うと、弾けて綿花が現れます。綿が次々と実から離れてフノラスドに貼り付いたので、蛇の体が白くなっていきました。やがて、全身真っ白になってしまいます。

 すると、メールが言いました。

「ゼン、火だよ! 早く!」

 おっ、とゼンは言いました。メールの作戦を理解したのです。すぐさま背中から弓を下ろして炎の呪符の矢を放つと、矢は綿の塊に突き刺さって燃え上がりました。巨大なフノラスドが炎に包まれて、ジャァァァ、と悲鳴を上げます。

「やったの!?」

 と地上近くでフルートを探していたルルとポポロが振り向きます。

 

 ところが、ランジュールが声を上げました。

「金ちゃん、出番だよぉ!」

 とたんにフノラスドを包む火が動き出しました。一箇所にどんどん集まっていって、フノラスドの体がまた現れます。火を集めているのは、金の頭の蛇でした。大きな口を開けて、燃える綿ごと炎を吸い込んでいたのです。やがて、最後のひとかたまりまで吸い込むと、ばくん、と口を閉じて呑み下してしまいます。

 呆気にとられるゼンたちへ、うふふ、とランジュールは得意そうに笑いました。

「金ちゃんは勇者くん専用に鍛えた頭だから、火にとぉっても強いんだよぉ。炎も食べちゃうんだから、すごいだろぉ? でもって、こっちは毒を吐く頭の青ちゃんねぇ。青ちゃん、面倒だから、ここにいる全員を毒でやっつけちゃってよ。そうしないと、ドワーフくんにみんな頭をコブだらけにされちゃうもんねぇ」

 ランジュールに言われて、青い蛇の頭がしゅるしゅると動き出しました。空中にいるゼンやメールに向かって口を開けます。

「やべぇ、逃げろ!」

 とゼンがどなり、ポチと花鳥は蛇に背を向けて逃げ出しました。全速力で離れようとします。

 けれども、巨大な蛇は、くっと首を伸ばしただけで、もうゼンたちに追いついていました。口をいっそう大きく開けます。その喉の奥から、霧のような黄色い毒が勢いよく噴き出してきました――。

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