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第17巻「マモリワスレの戦い」

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第8章 助け合い

26.救援

 ポポロが守りの魔法をかけた木の下で目覚めたゼンたちは、フルートとポポロがいなくなっていたので、驚きあわてました。

 けれども、ジャングルの木や花たちが怯えて騒いでいることに、メールが気がつきました。騒ぎのほうへ飛んでいくと、木立の間に怪物が見えてきました。象より大きな水牛が、こちらに向かって走ってきます。目を凝らしたゼンは、怪物の前を馬が疾走しているのを見つけました。フルートとポポロが怪物から逃げています。

 ゼンはポチの背中から百発百中の矢を放ちました。矢は木々の間をすり抜けて怪物の眉間に突き刺さり、怪物の突進を止めます。

 こちらを見たフルートが驚いた顔をしたことに、目の良いゼンは気がつきました。フルートは彼らが助けに来たことを意外に思っているのです。こんちくしょうめ、とゼンは考えました。次の矢を弓につがえながらどなります。

「来い、フルート! こっちだ!」

 フルートはすぐにゼンたちのほうへ向かってきました。必死に馬を走らせています。ゼンは矢を引き絞ってまた放ちました。白い矢がフルートたちをかすめて飛び、後ろの怪物にまた命中します。

 メールはルルの背中で両手を上げました。ジャングル中に向かって呼びかけます。

「おいで、花たち! あの牛を動けなくするんだよ!」

 たちまち雨のような音が湧き起こって、花が飛んできました。ジャングルには一年中たくさんの花が咲いています。数え切れないほどの花が集まってきて、怪物を取り囲んでしまいます。

 その間に馬と風の犬は合流しました。フルートがあえぎながらゼンを見上げます。

「どうして来たんだ……ポポロがいたからか」

 ポポロは驚いて振り向きました。フルートは仲間たちがポポロを助けに来たと考えているのです。すると、彼女が反論するより早く、ゼンがフルートをどなりつけました。

「寝ぼけたこと言ってんじゃねえ、唐変木! おまえら二人を助けに来たのに決まってんだろうが! いいから、さっきの木の下に戻れ! あの下で怪物をやり過ごすんだ!」

 フルートは何か言いかけ、すぐにまた行く手に向き直りました。ポポロを乗せたまま、守りの魔法をかけた木の方向へ駆け去ります。

 

 すると、メールが、あっと声を上げました。怪物を包み込んで抑えていた花が色を変え始めたのです。みるみる赤茶色になって地面に落ちていきます。その中から現れた水牛は、鼻の穴からシュウシュウと白い煙を吐いていました。

「あれ、毒だわ!」

「ワン、花が枯れていく!」

 と犬たちが言いました。半分以上姿を現した水牛が、足踏みを始めました。枯れた花を踏みにじって外に出てきます。その頭からゼンの矢が抜け落ちていました。傷も消えてしまっています。

「やべぇ! こいつ、闇の怪物だぞ!」

 とゼンはどなりました。闇の怪物は通常の方法では倒せません。聖なる武器を使うか、頭を切り落として焼き尽くすしかないのです。炎の矢が入った矢筒へ手を伸ばしたゼンは、すぐに舌打ちして、矢を手放しました。ここは木が密集しているジャングルです。こんな中で魔法の矢を使って怪物を燃やしたら、その火があっという間に燃え広がって、ジャングル中が火事になってしまいます。

「メール、しっかりつかまってて!」

 とルルが言って突進していきました。ものすごい勢いで怪物に飛びかかり、ひゅっと身をひるがえします。とたんに、怪物の首から紅い血が噴き出しました。風の刃です。

 けれども、ルルは怪物の頭を切り落とすことができませんでした。怪物が巨大すぎて、風の刃が充分に届かなかったのです。首の傷がふさがると、怪物はブォォォ! とほえて、また突進を始めました。今度の狙いは風の犬のポチとルルです

 ゼンとメールは犬たちに言いました。

「守りの木には向かうな! できるだけフルートたちから引き離すんだ!」

「ジャングルの上にも出ちゃダメだよ! フノラスドが見張ってるんだからね。見つかったら一巻の終わりさ!」

「ワン、でもいつまでもこんなことしてられませんよ!」

「そうよ! それこそ、フノラスドやランジュールに気づかれちゃうわ!」

 と犬たちは言い返しました。そこへ、シュウウ、と白い毒の息が押し寄せてきたので、あわてて右と左へ離れます。

「ちくしょう。あいつをふりきらねえと――」

「ワン、どうやって!?」

 ゼンにも賢い小犬にも、どうやってこの状況から逃れたらよいのかわかりません。

 

 その時、メールが悲鳴を上げました。メールは花の代わりに木の葉で攻撃しようとしていたのですが、突進してきた怪物からルルが身をかわした拍子に、バランスを崩して転げ落ちてしまったのです。とっさに手を振ると、その下に無数の木の葉が集まって、落ちてきたメールを受け止めます。

 メール!! と仲間たちは叫びました。木の葉のクッションのおかげで怪我はありませんが、メールは怪物のすぐ目の前に墜落してしまったのです。怪物が地響きをたてて迫ってきます。

 ゼンはまた百発百中の矢を放ちました。怪物に次々命中させながらどなります。

「立て、メール! 早く逃げろ!」

 立って駆け出したメールをルルが追いかけて、また背中に拾おうとします。

 すると、そこに向かって水牛がまた白い煙を吐きました。毒がメールへ押し寄せます。ルルはとっさに自分の体に煙を巻き込むと、上へ飛びました。梢を突き抜けて空へ毒を運びます。

「メール!」

 ポチがメールへ飛んでいきました。ゼンを乗せた背中にメールも乗せようとします。けれども、水牛はメールのすぐ後ろまで迫っていました。ポチがメールを拾い上げる余裕がありません。

「んなろ」

 ゼンは歯ぎしりして、また矢を放ちました。白い矢が空を切って、怪物の右目の場所に突き刺さります。とたんに怪物は足を停めて頭を振りました。ブォォォ、とまたほえます。

「ワン、メール!」

 ポチは地面に舞い下りました。ゼンが手を伸ばしてメールをポチの上に引きあげます。

 水牛の頭から矢がまた抜けました。傷が治っていってしまいます。

 牛は、ずしん、と四本足をふんばると、目のない頭で一行を見据えました。ゼンとメールがポチに乗って空に舞い上がり、上空から下りてきたルルがそこに合流したのを見ると、怒りを込めてほえます。

 ボアァァアァァアァァ!!!!!

 それまでとは比べものにならないほど大きな声でした。ジャングルの木という木がびりびりと震え、大地が地震のように揺れます。

 とたんに、バン、バン、と音を立ててポチとルルの体が弾けました。風の体がすさまじい声に揺すぶられて破裂してしまったのです。たちまち犬の姿に戻って地面に転がります。ポチに乗っていたゼンとメールも一緒です。

 水牛がまた地面をかきました。地面に倒れた一行へ突撃しようとします。ゼンたちは、体がしびれてしまって、すぐには立ちあがれません――。

 

 そこへ、ジャングルの中から一頭の動物が飛び出してきました。鞍と手綱をつけたままの馬ですが、背中には誰も乗っていません。

 怪物が迫ってくる状況でしたが、一行はそれに気がつきました。

「ワン、あれはコリンだ!」

「あ、あいつらはどうしたんだよ……!?」

 馬が駆けてきた方向を眺めますが、フルートやポポロの姿は見当たりませんでした。ただコリンだけがまっすぐ怪物のほうへ走っていきます。

 仲間たちは思わず叫びました。

「やめな、コリン!」

「危ないわよ――!」

 けれども馬は停まりませんでした。ゼンたちの横を駆け抜けて、全速力で水牛へ向かっていきます。

 怪物のほうでもそれに気がつきました。足踏みをやめて、ぐっと頭を下げます。角で跳ね飛ばそうというのです。

 とたんに、馬が向きを変えました。右へそれて角をかわし、またすぐに左へ向かって怪物へ走っていきます。コリン!? とゼンたちは驚きました。馬は怪物の巨大な体に沿って走っていきます――。

 その後ろで突然血しぶきが上がりました。怪物の左の前脚から血が噴き出したのです。ブァァァ!! と怪物が悲鳴を上げます。

 続けて怪物の左の後脚からも血が噴き出しました。やはり馬が駆け抜けていった直後のことです。ゼンたちは唖然としました。何が起きているのかわかりません。

 すると、馬が立ち止まりました。足踏みしながら怪物を振り向きます。その背中から声が響きました。

「こっちだ、デカブツ! 悔しかったら追いついてみろ!」

 それはゼンたちがよく知っている声でした。馬の上で薄絹がひるがえり、金の鎧兜を着た少年が姿を現します。右手には剣を、左手には魔法の肩掛けを握っています。

「フルート!!?」

 と仲間たちは驚いて叫びました――。

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