ポチとルルはガウス侯を追って川岸を走っていました。ガウス侯は谷川から山の斜面へと逃げていきます。その手に握っているのは、フルートから奪ったペンダントです。
「ワンワンワン、待て!」
「金の石を返しなさい!」
ポチとルルが口々に言いますが、ガウス侯は立ち止まりませんでした。木の枝や幹をつかんで斜面をよじ登っていきます。傾斜が急なので、犬たちには後が追えません。
「逃がすもんですか!」
ルルは風の犬に変身すると、木々の間をすり抜けてガウス侯の前に回り込みました。ガウッと風の牙をむくと、ガウス侯が思わず身を引き、その拍子に握っていた枝が折れます。魔王の力で谷の木々を枯らしたために、枝がもろくなっていたのです。候が悲鳴を上げて川岸に転げ落ちます。
そこへポチが飛びかかりました。右腕に牙を立てると、候がペンダントを手放したので、素早くくわえて飛びのきます。
「ワン、フルート、取り戻しましたよ!」
と川辺を振り向いて、ポチは驚きました。ルルも振り向いて風の目を見張ります。石だらけの岸辺にポポロが座り込み、泣きながら叫んでいました。
「フルート! フルート……フルート……!!」
他の仲間たちも血相を変えてフルートを呼んでいました。たった今までいたはずのフルートが見当たりません。
ポチとルルはあわてて駆け戻りました。
「ワン、フルートは!?」
「いったいどうしたのよ!?」
「デビルドラゴンがまだ潜んでいたのさ! アクを助けようとしたフルートが連れていかれたんだ!」
とメールは答えました。他の仲間たちは必死でフルートを呼び続けていますが、やはりどこからも返事は返ってきません。
「ユギル、フルートはどこだ!?」
とオリバンが尋ねると、占者は首を振りました。
「わかりません。勇者殿の存在が感じられません。おそらく、デビルドラゴンによって、この世界とは別の世界へ連れていかれたのでございましょう」
「別の世界とはなんじゃ!? どこのことじゃ!?」
とアキリー女王が問い詰めます。
「それもわかりません。闇の雲は晴れつつありますが、この世でない場所を見ることはかないません」
とユギルは言って、口惜しさに唇をかみます。
ゼンはポチがくわえているペンダントを振り向きました。
「金の石、出てこい!」
すると、彼らの間に黄金の髪と瞳の少年が姿を現しました。いつになく真剣な声で言います。
「デビルドラゴンは最初からフルートを狙っていた。アキリー女王を攻撃すれば、必ずフルートのほうが出てくると承知して、仕掛けてきたんだ」
いつもポーカーフェイスな精霊が、ひどく焦った表情をしていました。守りの魔石の彼も、フルートから引き離されていては、闇からフルートを守ることができないのです。
「フルート! フルート!!」
ポポロは泣きながら懸命に呼び続けていました。どんなに離れていても、彼女にはフルートの声が聞こえるはずなのに、返事はどこからも聞こえてきません。
「ど、どうすればいいんだ……どうすれば!?」
とセシルが言い、一同は呆然と立ちつくしてしまいました――。