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第16巻「賢者たちの戦い」

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97.別行動

 装備を整える間も、フルートの胸は焼けるような後悔で痛み続けていました。

 倒れたポポロを部屋に運んだ後、ポポロが水を欲しがったので、フルートは水差しを取りに貴賓室へ戻りました。その途中で、深刻そうなゼンやメールやポチの話し声が聞こえてきたので、物陰に隠れて一部始終を聞いてしまったのです。

 自分がテトで死ぬとユギルに予言されていたことも衝撃でしたが、それ以上にショックだったのは、ポポロがそんな自分を守ろうと無理に無理を重ねていたということでした。荒れたテト川を下ったときにも、オファへ援軍を呼びに行ったときにも、ポポロはひどく疲れていたのに、絶対にフルートから離れようとしませんでした。あれはそういうことだったのか……とやっと納得します。

 ごめん、とフルートは心の中で謝り続けていました。ごめん、ポポロ。こんなことはもう終わりにさせてくるから――。

 そんなフルートをポチは心配そうに見上げていましたが、口をはさむことができませんでした。ゼンたちへ知らせに走ることもできません。そんなことをすれば、フルートはポチまで残して一人で出発してしまうとわかっていたからです。

 

 すると、入口から女性の声がしました。

「やはり一人で行くつもりか、フルート」

 それはアキリー女王でした。部屋へ入りながら言います。

「そなたがいないと言ってゼンやメールが探し回っている。そなたのことだから、あの状態のポポロに無理させまいとして、自分だけで出発しようとしているのだろうと思ったのじゃ」

 フルートは何も言いませんでした。ただ黙々と鎧の留め具をはめ、マントをはおって剣を背負います。誰が何と言っても止まらないことを、態度で示しているのです。

 それを見て、女王は苦笑しました。

「そなたは本当に頑固じゃ。それに、やっぱりわらわに似ておる。……わらわを一緒に連れて行け、フルート。わらわもガウス領へ行く」

 フルートとポチは驚いて女王を見ました。

「それはだめだ!」

「ワン、危険すぎます! アクはオリバンたちと来てください!」

「彼らがわらわに一緒に来るなと言うのじゃ」

 と女王は口元を歪めました。

「占者殿がまた大きな危険を察知したのじゃ。何が起きるのかは占っている最中だが、オリバンもセシルもわらわに都に残れと言う。それは断じて承知できぬ。グルールとのことは、わらわ自身が決着をつけねばならぬことなのじゃ」

 でも……とフルートたちは困惑しました。女王の気持ちを考えると、ガウス侯との対決に連れていって本当に大丈夫だろうか、と不安になってしまいます。

 すると、女王が重ねて言いました。

「わらわを連れていけ。それに、わらわには思い出したことがあるのじゃ。グルールが言っていた竜の秘宝――そのあり場所がわかるかもしれぬ」

 えっ!? とフルートとポチは声を上げました。

「どこです!?」

「ワン、どこなんですか!?」

「それはガウス領に向かいながら話す。ゼンたちが間もなくここに来るじゃろう。そうなれば、そなたもわらわも出発できなくなるから、まずは出発じゃ」

 それは女王の言うとおりでした。フルートは一瞬迷い、すぐにきっぱりとうなずきました。

「わかった。一緒に行こう、アク」

「よし。わらわを乗せよ、ポチ。そなたはもう、わらわを運べるようになっているであろう?」

 と女王に言われて、ポチは犬の顔で苦笑しました。

「ほんとだ、アクはフルートに似てますよ。妙に押しが強いところもそっくりだ……。ワン、乗せられると思いますよ。アクはもう、ぼくたちの友だちだから」

 すると、女王がにっこりしました。苦笑ではない、純粋な笑顔です。

「この歳になり、しかも女王ともなれば、わらわを友と呼んでくれる者はめったにいなくなる。だが、友だちと言われることは、今でもやっぱり嬉しいものじゃな。行こうぞ、フルート、ポチ。グルールの野望を止めて、テトを救わねばならぬ」

 そこで、フルートは装備を完成させ、部屋のバルコニーの窓を開け放ちました。ポチに言います。

「行くぞ! 行き先はガウス領! 全速力だ!」

「ワン!」

 ポチはバルコニーに出て行ったフルートと女王の後を追いかけ、風の犬に変身しました。フルートたちを背中に乗せて空に舞い上がります。空では星がまたたいていました。東の丘の上では満月が輝いています――。

 

 しばらくして、部屋にゼンとメールがやってきました。空っぽの部屋をのぞいて話し合います。

「あれぇ、ここにもいないよ。フルートったら、ホントにどこいっちゃったんだろ?」

「ポチのヤツも見つからねえよな。あいつら一緒なんだろうか?」

 そのまま、また別の場所を探しに行こうとしますが、その時、風がキィと窓を揺らしました。バルコニーの窓が閉まりきっていなかったのです。とたんにゼンがはっと振り向き、部屋に飛び込みました。ベッドの下をのぞき込んで顔色を変えます。

「フルートの防具や剣がねえ! あいつ、自分だけで出発しやがった!」

 メールも驚いて部屋に駆け込み、ベランダの窓を大きく開けました。夜空は月に明るく照らされていますが、その中にフルートたちの姿は見当たりません。

 どうして……とメールが言うと、ゼンがどなり続けました。

「ポチがあいつに話したんだよ! いや、あいつのほうで気がついて、ポチを問い詰めたのかもしれねえ! とにかく、ユギルさんの予言をあいつは知っちまったんだ! それで――」

「ポチと一緒に出発しちゃったってわけ!? ホントにもう、フルートったらさ!」

 とメールは頭を抱えました。本当に、いつまでたってもどんな経験をしても、相変わらずのフルートです。

「とにかく、ポポロの部屋に戻るぞ! オリバンたちに知らせるんだ!」

 とゼンは言い、メールと一緒にばたばたとポポロの部屋へ駆け戻って行きました――。

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