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第16巻「賢者たちの戦い」

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第17章 作戦会議

56.作戦会議・1

 女王と共にテト城に入ったフルートたちは、城の内装のみごとさに目を見張りました。壁は一面青い模様タイルでおおわれ、床には色の違う石を組み合わせた幾何学模様がはめ込まれています。その上に光と影を落としているのは、青い竜の模様が描かれたガラス窓です。ここは異国なのだと強く感じさせる、美しい空間でした。

 集まってくる家臣の数は増え続けて、その頃にはもう三十人あまりの男たちが女王を取り囲んでいました。誰もが女王から話を聞きたがりましたが、女王は手を振って言いました。

「まずガウス軍へ偵察を出せ! それから、わらわと、わらわの恩人たちに風呂と着替えの準備じゃ! 部屋に案内せい!」

 女王の命令はたちまち実行に移され、フルートたちは貴賓室に案内されました。着替えが運び込まれ、隣室には風呂が準備されます。雨にずぶ濡れになっていた一行は、喜んで風呂に入り、服を着替えました。刺繍を施した上着を重ね、ゆったりとしたズボンの上に幅の広い帯を締めた、テト風の衣装です。ただ、ポポロとメールだけは魔法の服を着ていて、濡れてもすぐに乾いてしまったので、前と同じ恰好をしていました。

 そこへ、テトの女王が数人の家臣を率いてやってきました。一同の恰好を見てほほえみます。

「よう似合う。テトに生まれ育った者のようじゃ」

 そう言う女王自身も、みすぼらしい平民の服から、豪華な刺繍を施した衣装に着替えていました。頭には、宝石をちりばめた高い帽子を、王冠のようにかぶっています。

「ガウス侯の軍勢の様子はわかったのか?」

 とオリバンが尋ねると、女王はうなずきました。

「わかった。やはり、この都を目ざして進軍中じゃ。これから作戦会議を開く。そなたたちも来やれ」

 そこで、一行は女王と共にまた移動しました。ポポロはまだかなり疲れた様子をしていましたが、フルートから絶対離れようとはしませんでした。

 

 城の一室で会議のテーブルを囲んだのは、テトの女王とフルートたちの一行、それに十人あまりの家臣たちでした。真っ先に女王が口を開きます。

「ここに集まったのは、我が国の大臣たちじゃ。ただ、モッラだけがおらぬ。モッラは、わらわと共にロムドへ行ったが、わらわが別の道から城へ戻る間、わらわの身代わりを連れて、敵の目をあざむいておったのじゃ」

 大臣の一人がそれに答えました。

「あざむかれていたのは我々も同じでございます。陛下はモッラ殿と共にこちらへ向かっておいでとばかり思っておりました。そこへ突然、陛下が賊に誘拐されたとの情報が入ってきて、確認に大わらわでいたところに、陛下がご帰還になったのです。まさかロムドの金の石の勇者とご一緒とは、想像もしておりませんでした――」

 ところが、そう話す大臣がフルートではなくオリバンを見ていたので、仲間たちはいっせいに苦笑してしまいました。オリバンが仏頂面で言います。

「違う。私は金の石の勇者ではない」

「そう。勇者はこちらじゃ。まだ若いが、実に勇敢で心正しい。わらわは何度も命を救われた」

 と女王がフルートを示したので、大臣たちは仰天しました。いかにも勇者らしく見える青年と、小柄で少女のような顔をした少年を見比べてしまいます。

「で、ではこちらの方は……?」

「私はロムドの皇太子のオリバン・ロムディア・ウィーデルだ。そして、私の婚約者のセシルと、一番占者のユギル。アキリー女王の要請を受けてテトの救援にやって来た」

 とオリバンが答えたので、大臣たちはいっそう驚きました。

「ロムド国の皇太子!?」

「そ、それに一番占者というと、大陸随一と有名な、あの……!」

 すると、ユギルが座ったまま一礼しました。今はテトの服を着ているので、フードをかぶってはいません。整った浅黒い顔の横で、輝く銀髪がさらりと揺れます。

「お初にお目にかかります。ロムド国王陛下のご命令で、勇者殿たちと共に、テト国を守る手助けにまいりました。ですが、敵もこちらの動きを察して妨害を始めております。闇の雲がテトの国をおおってしまったために、誰もが国を占えなくなっていることと存じますが」

 大臣たちはとまどい、互いの顔を見合わせました。ユギルの言うとおり、二日前から城の占者は全員、占うことができなくなっていました。そんな中に女王が誘拐されたという情報や、城を占拠しようとする反逆者が来るという情報が飛び交ったので、確認ができなくて、城内は大混乱になっていたのです。

「だが、ユギル殿はわらわを待ち伏せる罠を見破ってくれた。さすがは大陸随一の占者じゃ。わらわたちは、金の石の勇者やロムドの皇太子、占者殿たちの力を得て、この国をグルール・ガウスから守る。さっそく報告を聞かせよ」

 と女王が命じます。

 

 そこで、軍務大臣が話し出しました。

「皆様方は外国人なので、少し詳しく説明させていただきます――。我がテトの国は東西に長い国で、北と西に高い山々があり、東が低地になっております。ガウス侯は騎兵部隊を率いて、西のガウス山の麓の領地から出撃しております。その数はおよそ二千騎。ガウス山から東へ流れるガウス川に沿って進軍中と、早鳥による連絡が入っております。現在は、都から馬で五日ほどの地点まで来ている模様です」

「ガウス川というのは、テト川と平行して流れている大河の名前だったな? テト川とはどういう位置関係だ?」

 とオリバンは尋ねました。

「ガウス川はテト川の南を流れていて、テト川とは直接つながってはおりません。ずっと平行して流れ続けて、東の国境にあるニータイ川で合流しています。ただ、当然のことですが、街道のほうはこの都まで続いております。ガウス侯の騎兵部隊は、ガウス川に沿って下っている最中で、おそらく今頃はモンボ山の麓のシャラパ付近を通過中です。この後も街道を下り続け、どこかから侵攻方向を北に変えて、この都へ攻めてくるものと思われます」

 と軍務大臣が答えます。

 彼らの前にはテト国の地図が広げられていました。それを見ながら、女王が言います。

「グルール・ガウスがこの都を襲撃するのは間違いない。問題はどこを通ってここへやって来るか、じゃ。ガウス川の街道から、こちらのテト川の街道へ抜ける横道はいくつもあるし、街道を外れて来る可能性もある」

「こちらに迎撃の準備が整わないうちに襲撃しようと、街道を最短距離で来るのではないのか? 二つの街道は次第に近づいていくから、このフェリボという街から北上するのが、一番都に近いように見えるが」

 とセシルが言うと、軍務大臣が首を振りました。

「その進路は、一番可能性の薄い道です。フェリボの領主は代々テトの王室に仕えてきた、名門中の名門です。高齢になったために大臣の座は引退しましたが、今でも、何事かあればすぐ出撃できるように準備を怠らずにいます。そちらを通ればフェリボ候の軍勢の抵抗に遭うのですから、ガウス侯はフェリボを避けて、もっと手前で北上を始めるはずです」

 ふむ、とオリバンは言って、地図の上の街道を目でたどりました。

「とすると、フェリボに守られているので、都の南と東から敵が現れる心配はない、ということだな」

「左様です。目下、北と西の守りを固めるよう、都の守備隊へ命じているところです」

 と軍務大臣が答えます。

 

 すると、ユギルが言いました。

「その作戦はいかがなものでしょうか……。さきほどから不吉な予感がしております。ガウス侯に裏をかかれる危険性があるようでございます」

 占者は隣に座るオリバンに凶兆を見とっていました。オリバンの剣や全身が、ありえないほど血の色に染まっているのです。単に戦いが起きるだけでなく、その戦闘の中でオリバンが重症を負うという予感でした。都が激戦に陥るのに違いありません。

 裏をかかれる? と女王や大臣たちが顔色を変えると、メールが口を開きました。

「あたいがガウス侯だったら、フェリボを避けるんじゃなくて、逆にそこを攻めるなぁ。放っておいたら、都を守るために駆けつけて来るってわかってるんだもん。だったら、援軍が来ないように、まずフェリボをたたくさ」

 メールは少女でも、渦王の鬼姫と呼ばれる戦士です。冷静にそんなことを言います。

 オリバンは腕組みをしました。

「積極策だな。兵力が充分にあればその戦法も有効だが、二千の騎兵では難しいだろう。街を攻めるには数が足りない」

「でもよぉ、ガウス侯はその騎兵でここを攻めようとしてるんだろう? 街を攻めるのに二千で足りねえなら、都を攻めるのはもっと無理のはずだぞ」

 とゼンが言うと、女王が答えました。

「グルールはサータマンで兵を集めておる。どの程度の人数か、今はまだわからぬが、おそらく数千規模の大軍じゃ。騎兵部隊でまず都を襲撃し、本隊が駆けつけてきたら、一気に都を攻め落とすつもりなのであろう」

 軍務大臣が身を乗り出しました。

「サータマンからの本隊は、おそらく大半が歩兵です。騎兵隊のように早く到着はできないので、その間に我々は国内の諸侯に出動を要請できます。いかにガウス侯でも、国中の諸侯を敵に回せばひとたまりもありません」

 軍務大臣は自信たっぷりの口調でした。ガウス侯の率いる反乱軍に、自分たちが負けるはずはないと信じているのです。

 ユギルは黙って眉をひそめました。不吉な予感はますます強まっていきます。女王たちが言うように、敵の襲撃に備えて守りを堅め、援軍の到着を待っていては、きっと間に合わないという気がするのです。それをどうやって女王や大臣たちに納得させようかと思い悩みます――。

 

 すると、ずっと黙って地図を見ていたフルートが言いました。

「ぼくは、やっぱりガウス侯がまずフェリボを攻めるような気がします。全軍でフェリボを陥落させて、そのまま北上して都を攻めるつもりなんじゃないかな」

 軍務大臣は、むっとした顔つきになりました。戦闘のせの字も知らないような子どもから反論されて、気分を害したのです。馬鹿にする調子で言い返します。

「全軍というと、騎兵部隊と歩兵部隊の両方がフェリボに襲いかかると言いたいのかな? それには騎兵部隊がどこかで立ち止まって、歩兵部隊が合流してくるのを待たなければならない。そうしてくれるならば、なおけっこう。その間にこちらはますます守りを固めることができますからな」

「フルート、サータマンとの国境からここまでは、馬でも七日以上かかる道のりなのじゃ。歩兵部隊はもっと進みが遅いから、おそらく半月以上かかるじゃろう。それを待って無駄に日を過ごすような愚を、あのグルールが犯すはずはないのじゃ」

 と女王も言います。

 フルートは首を振りました。

「ガウス侯の歩兵部隊が到着するのに、そんなに時間はかかりません。彼らはきっと、これを利用します」

 そう言ってフルートがなぞって見せたのは、テトの地図の上を西から東へ走るガウス川の流れでした――。

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