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第16巻「賢者たちの戦い」

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34.予想

 冷害? と祭りの会場に集まった全員は驚きました。貴賓席にいた王や重臣たちも同じです。ゴーリスがリーンズ宰相にまたささやきました。

「城の占者たちが占った結果は、さっきミントン派の占者が暴露したとおりの内容だったはずだ。いつの間にそれが変わったんだ?」

「存じ上げません」

 と宰相は答えました。

「この冬は例年より寒さ厳しく、その代わりに穏やかな春と夏が訪れて、作物はよく実り、家畜はよく肥えるだろう、というのが、城の占者たちが口を揃えて言っていたことです。誰も冷害がやってくるなどいう話は――」

「では、あれは彼女自身が考えて言っていることか。城の占者たちと同じことを告げてはまずいと思ったのか……?」

 ゴーリスと宰相の会話は、すぐ前の椅子に座るキースにも聞こえていました。アリアン、とつぶやいて、椅子の腕木を握りしめます。

「当てずっぽうを言っているな!?」

 とミントン派の弟子たちがあざ笑いました。

「同じ結果になっては立場がないと考えて、とっさにでたらめを言っているんだな!? そんなことは、来年になればわかることだ! おまえが本当は占者などでないことが、明らかになるんだぞ!」

 すると、アリアンはそちらへじっと目を向けました。

「でたらめではありません――。遠い西の彼方、ザカラス国と南西諸国の間に横たわる山のひとつが噴火を起こしております。周囲は人の住まない場所なので、さほど被害はないと思われていますが、火山から吹き上がった煙が空高く上り、西風に乗ってこちらへ向かってきております。その煙はまずザカラス国の南部へ至り、やがてこのロムド国にも到達します。空に広がった煙は雲となって日の光を弱め、春も夏も例年の気温には至らなくなることでしょう。冷害が起きる可能性が高いのです。今年の収穫を大切にして、きたる寒い年に備えなくてはなりません」

 アリアンの声によどみはありませんでした。本物の占者のように、厳かに話し続けます。

「ふ――噴火だと――まさか!」

 とミントン派の弟子が反論すると、逆に聞き返します。

「わからないのですか? 噴火は今すでに起きているのです。あなたたちの占いでは、それが見えていないのですか?」

 仲間の占者のひとりが、ユギルを糾弾する弟子の袖を引き、ザカラス国の南で本当に噴火が起きているぞ、と耳打ちしました。弟子が顔色を変えて鼻白みます――。

 

「ずっとユギルの部屋にこもっていると聞いていたが、これを調べていたのか」

 とロムド王がつぶやくように言いました。隣でキースが茫然としているのを見ると、低く話しかけます。

「彼女は非常に優れた目を持っている。おそらく、ロムドの気候に影響を及ぼしそうな場所をずっと見て回って、来年の天候を予想しようとしたのだ。火山の噴煙が風に乗って、はるか遠い場所に災害を引き起こすことがある、とは聞いたことがある。彼女はそれを言っているのだろう」

 王の話を二人の魔法使いたちも聞いていました。青の魔法使いが深緑の魔法使いに尋ねます。

「どういうふうにしたら、そんなことまで見て取れるようになるんでしょうな? 占い師でもないというのに」

「かなりいろいろなことを、綿密に調べる必要があるじゃろうな。吹く風の向き、風の強さ、煙と共に吹き上がってくる火山灰の量、さらには、これからどの程度噴火が続きそうかという見通し……。それを一人きりで調べ上げて、春から夏にかけて冷害が起きると予想したんじゃから、とんでもない透視力じゃ。ユギル殿の先読みの力にも匹敵するわい」

 そう言って深緑の魔法使いは頭を振りました。真実を見抜くことについては、彼も自分の目に自信を持っていましたが、アリアンにはただ感心するしかなかったのです。

 アリアンの予言に、ミントン派の占者たちはうろたえていました。そんな予想は嘘っぱちだ! と言いたいのですが、誰もそれを口にできません。曲がりなりにも彼らは占者です。自分たちの負けを、直感で悟ってしまったのでした。

 そこへようやく警備兵たちが到着しました。ミントン派の占者たちと、それに荷担した城の占者に縄をかけて、広場から連行していきます。

「やれやれ。占者なら、こうなることくらい最初に予想しておけばいいものを」

 と道化姿のトウガリがつぶやきます。

 

 広場の人々はざわめき続けていました。ミントン派の占者たちが逮捕されたので、ユギルのほうが正しいらしい、とは思ったのですが、そのユギルが冷害を予言したので、すっかり不安になってしまいます。

 すると、ロムド王が貴賓席から立ち上がり、よく響く声で呼びかけました。

「案ずることはない、ディーラ市民よ――。これまでも、一番占者が翌年の凶作を予言したことは何度もあったのだ。その占いの通りに悪い年はやってきたが、皆がぬかりなく備えたおかげで、常に被害は最小限度で食い止められてきた。来年もまた、そのような年になるのであろう。冷害の到来を止めることはできぬが、今年の収穫を大切にして来年の食料やその次の年の種として備え、家畜のためにできるだけ多くの干し草や飼料を蓄えておくことはできる。また、日陰や寒さに強い作物を選んで植えることもできるであろう。備えよ、ディーラの市民。これは、ケルキー神が我々にくださった神託だ。ディーラ以外の地に住む親戚知人にも冷害を知らせて、備えを呼びかけるのだ」

 不吉な予言も、対抗する手段がわかれば恐怖は薄らぎます。さらに、豊饒の神からの予言なのだと言われて、納得する気持ちも湧いてきます。それを見て、トウガリが王の隣へ進み出ました。人々へ大きくお辞儀をして声を張り上げます。

「冷害が来る! これはまことに一大事! 再来年(さらいねん)の感謝祭まで、ご馳走はお預けになるかもしれません! 本日は、来年の分までたっぷりと食べたり飲んだりすることにいたしましょう!!」

 わっと人々は歓声を上げました。深刻だった場の雰囲気が一気に明るくなり、そうだそうだ! と賛同の声が上がります。

 ロムド王も笑いながら言いました。

「まこと道化の言うとおりだ。次に豊かな収穫を迎えるまで、皆、思い残すことのないよう、感謝祭を楽しむように!」

 拍手、歓声、口笛――市民の顔に笑いが戻ります。ロムド王はまた貴賓席に座ると、そんな人々を笑顔で見渡しました。式典は次に移り、神殿の前に踊り子たちが登場します――。

 

 貴賓席にアリアンが戻ってきました。灰色のフードをまたまぶかにかぶっています。キースが立ち上がって自分の席を譲ると、そこに座って、ふぅ、と疲れたような溜息をつきます。

 ロムド王がそれへ話しかけました。

「大役ご苦労であったな。わしたちは貴重な予言をもらった」

 アリアンは首を振りました。

「私の言ったのは予言ではなくて予想です。本当にそうなるかどうかは、その時が来てみないとわかりません。できる限り、起こりそうな出来事を考えてみましたが……」

「充分だ。わしはそなたの予想を国中に知らせて、冷害に備えさせよう。同じ被害に遭うザカラス国の王にも知らせを出す。ザカラス王もそなたには感謝をするだろう」

 アリアンはうつむいたまま、黙ってうなずきました。

 キースはその隣の椅子に腰を下ろすと、苦笑して言いました。

「君は本当に真面目だなぁ。城の占者たちが占ってくれていたのに、それでも、何日も寝ずに調べ続けたなんて」

 アリアンが不思議そうにキースを見ると、青年は肩をすくめ返しました。

「ぼくも、君を見習って、もうちょっと真面目にやることにするよ。もうちょっと……皇太子らしくね」

 アリアンの足元には小猿のゾとヨがいて、衣の裾にしがみついていましたが、それを聞いて小声で言いました。

「そうそう。キースはもっと真面目にやった方がいいんだゾ」

「特に、女の人に声をかけるのは、やめたほうがいいヨ」

「こ、こら、こいつら――!」

 キースが真っ赤になって小猿たちにつかみかかろうとしたので、後ろに立っていたリーンズ宰相が大きく咳払いしました。キースがあわてて椅子に座り直したのを見届けてから、隣のゴーリスと苦笑をかわします。キアアア、とグーリーが笑うように鳴きます。

 

 感謝祭の式典はまた順調に進行していました。一つ目の踊りが終わり、今度は手に剣を持った人々の剣舞が始まります。武人の皇太子のために準備された演目です。剣をきらめかせて踊る人々に、広場のあちこちからまた拍手が起こります。

 すると、どこからか声が聞こえました。

「ふぅん、なかなか盛り上がってるじゃなぁい? こういうところにお邪魔するのは楽しいなぁ、うふふふ……」

 若い男の声ですが、女のように笑っています。貴賓席の一同は驚いて空中を見上げました。声はそちらから聞こえてきたのです。

「誰だ!?」

 とキースがどなると、また声がしました。

「えぇ、誰だぁ? ちょっとぉ、皇太子くん、ボクが誰かわからないって言うのぉ? キミの心の恋人の、このボクをさぁ――」

 空中に人の姿が浮かび上がってきました。赤い長い上着を着た細身の青年ですが、その姿は半ば透き通っています。貴賓席にいる人々の大半が、一度は見たことのある存在でした。

「ランジュール!!」

 と彼らは声を上げました――。

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