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第16巻「賢者たちの戦い」

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11.夢

 夢? とロムド城の家臣たちは驚きました。たかが夢の相談で、これだけの財宝を抱えてやってきたのか、とあきれたのですが、ロムド王は真面目な顔で言いました。

「それはどのような夢かな? テトの女王」

 女王は軽く一礼して感謝の意を表すと、王へ話し始めました。

「わらわがその夢を見たのは、ひと月ほど前のことです。夢の中で、わらわは玉座に座って、家臣たちの報告を聞いていました。すると――ひとりの見知らぬ男が現れて、わらわにこう言ったのです。『俺は竜の秘宝を手に入れた。テトは世界に出ていけるのだ』と。そのとたん、男の姿は煙のように消え失せ、玉座も家臣たちも見えなくって、わらわは何もない場所に立っていました。竜の秘宝とはなんじゃ!? とわらわが叫んだとたん夢は覚めましたが、以来、どうにも胸騒ぎがしてならないのです。家臣の中には、それは吉兆だ、国が繁栄していくことを神が知らせた夢だ、と言う者もありますが、わらわはとてもそんな楽観をする気になれません。あれは、悪いことが起きてくる前触れのように思えます。しかも、時間がたつほどに、危険は増していく気がするのです」

「それで、女王自らが旅立って、はるばるロムドまでやってこられたか」

 とロムド王は言って、考え込みました。さすがの賢王にも夢占いは守備範囲外です。一番占者のユギルの意見を聞こうと、横を向きます。

 

 とたんに、大広間に居並ぶ家臣たちの中から声が上がりました。

「こら、おまえたち! 静かにしないか!」

 人々はびっくりして、声の主に注目しました。それは白い服に青いマントをはおった美しい青年でした。肩に乗せた二匹の小猿を両手で抑え、あわてたように王と人々へ頭を下げます。

「た、大変な不作法をしました。猿たちが急に興奮したものですから――」

 青年の手の下で、赤毛の小猿がキィキィと騒ぎ続けていました。小さな手で青年の髪をつかんで引っぱっています。失礼します、と青年は言って、あわてて大広間から出て行きました。人々もテトの女王も、思わず呆気にとられてしまいます。

 ところが、ロムド王だけは真剣な表情でそれを見ていました。おもむろに隣へ目を向けると、占者の青年は意味ありげにうなずいてから、口を開きました。

「女王陛下のご覧になった夢は、おそらく予知夢の一種でございましょう。わたくしにも何やら良からぬ気配が伝わって参ります……。しばらくお時間をいただけますでしょうか。夢が女王陛下に何を伝えようとしていたのか、占盤で占ってみたいと存じます」

「よろしいであろうか、テトの女王」

 とロムド王が尋ねたので、女王はまた両手を合わせて頭を下げました。

「王のご厚情には本当に感謝します。なにとぞよろしくお願いします」

「女王はここまでの長旅でお疲れだ。ユギルの占いの結果が出るまでには時間がかかる。それまでの間、このロムド城でゆっくり休まれるがよい。――リーンズ」

 ロムド王に呼ばれて、宰相が一礼して大広間を出て行きました。テトの女王とその一行の歓迎の準備に向かったのです。王と阿吽(あうん)の呼吸の老宰相には、いちいちことばにして命令する必要がありませんでした。

 

 ところが、リーンズ宰相が大広間の外に出たとたん、先に広間を出ていたキースに呼び止められました。

「宰相、ちょっと……」

 と近くの空き部屋に招き入れられます。そこには、どこからどこまでそっくりな赤毛の小猿が二匹いて、相変わらずキィキィ興奮しながら飛び跳ねていました。

「ゾとヨはどうしたのですか、本当に。最近はお行儀もよくなっていたのに」

 と宰相が驚くと、キースが言いました。

「あそこで人のことばで話し出そうとするから、あわてて止めたんだ。ちょっと聞いてやってくれないか――」

 すると、キースの話が終わらないうちに、小猿のゾとヨがしゃべり出しました。

「竜の秘宝! あの女王様は竜の秘宝って言ってたゾ! 秘宝ってのは、隠された宝物のことだゾ!」

「フルートたちが探していたんだヨ! 竜の宝を! オレたち、この耳でちゃんと聞いたんだヨ!」

「勇者殿たちが?」

 と老宰相はますます驚き、キースを見ました。人間に化けた闇の青年が肩をすくめ返します。

「どうもそういうことらしいんだな。ぼくが闇王に捕まっている間に、フルートが彼らに話をしていたようなんだ。竜の宝ってのが何なのかは、フルートたちにもわかっていないんだけれど、それがデビルドラゴンを倒す手がかりになるらしい」

 それは……と宰相はつぶやき、すぐにうなずきました。

「陛下やユギル殿も、ゾとヨの様子には何かをお感じになったようでした。私は女王の歓迎式典を取り仕切らなくてはならないので、その旨をオリバン殿下にお知らせください。殿下から陛下に伝えていただいて、ご判断をあおぎましょう」

「わかった」

 とキースは部屋を出て大広間へ戻っていきました。オリバンはロムド王と一緒に壇上にいたのです。小猿のゾとヨがその後についていきます。

 

「勇者殿たちに関わりのあることでしたか……」

 と宰相はつぶやくと、すぐに頭を振りました。女王の夢の意味は気がかりでしたが、宰相には宰相のするべきことがあります。そして、この国には大陸随一と名高い占者がいるのです。

「ユギル様なら、きっと解き明かしてくださるでしょう」

 とまたひとりごとを言うと、こちらは式典の段取りのために、部屋を出て行きました――。

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