闇の城の玉座の間で、壁に開いた出口に吸い込まれたフルートたちは、真っ暗なトンネルを通って、明るい場所に吐き出されました。全員が、折り重なるように地面に倒れます。
「あいたた……! ちょっとゼン、重いよ! どいとくれよ!」
「ポチ、オレの顔に乗るな! 見えねえだろうが!」
「ワン、わざとじゃないですよ」
「ポポロ、大丈夫かい!?」
「ええ。フルートこそ大丈夫? あたし、下敷きにしちゃったわ……」
「無茶しないでったら、フルート! ポポロだけじゃなく、私まで受け止めようとするなんて。危ないわよ!」
フルートもゼンもメールもポポロも、ポチとルルの二匹の犬も、全員怪我はありませんでした。気がつけば、フルートが脚に負っていたひどい火傷も、すっかり治っていました。先ほど金の石が放った光が、フルートの怪我も癒したのです。
一同は起き上がり、周囲を見回しました。真っ先に目に入ってきたのは、一面に咲き乱れる、色とりどりの花です。野に咲く花が、見渡す限り延々と美しい絨毯を広げています。
「ここは……?」
とフルートたちが驚くと、ポポロが急に歓声を上げました。
「みんな、あれを見て!」
指さす先に、丘がありました。いくつもの白い石の柱が、まるで高い塔のように寄り集まっています――。
「白い石の丘だ!!」
とフルートたちは叫びました。白い石の丘のエルフと呼ばれる賢者が住んでいる場所で、これまでに彼らは二度訪れたことがあります。ポポロとフルートたちは、ここで初めて出会いました。
「ってことは、ここはロムド!? あたいたち、ロムド国まで飛ばされてきたってわけ!?」
とメールがまた驚くと、フルートが考えながら言いました。
「ここはきっと、闇の神殿があった場所なんだよ。黒い霧の沼の真ん中で、メデューサが闇の卵を守っていた――。闇の神殿の中にも、闇の国と通じる出入り口があったんだ。闇王はそこにぼくたちを送り込んだよ」
一行はますますあっけにとられてしまいました。本当に、思いがけない場所にたどり着いたものです。
その時、ゼンが、おっと声を上げました。かたわらの花の中に、ゼンの弓矢が落ちていたのです。玉座の間でフルートを怪物から助けようとして手放してしまったのですが、ちゃんと同じ場所に送られていました。矢には炎の呪符が巻かれたままになっています。
「よかった! こいつを取りに闇の国まで戻らなくちゃならねえと思っていたんだ!」
とゼンが喜んだので、ルルがあきれました。
「やぁねぇ、ゼンったら。またあんな国に行くつもりでいたの?」
そう言うルルは、闇の国から地上に戻ってきたおかげで、すっかり元気を取り戻していました。口ではゼンに文句を言っても、機嫌良く、ふさふさの尻尾を振っています。
すると、ポポロも急に、あらっ、と声を上げました。自分が下げていた鞄から、美しい薄絹の肩掛けを引っぱり出します。
「姿隠しの薄絹が戻っていたわ……闇王に吹き飛ばされて、それっきり見えなくなっていたのに」
「ワン、魔法の肩掛けだから、持ち主のところにひとりでに戻ってきたんですね」
とポチが言います。
一行は、花野に座り込んだまま、顔を見合わせました。もう大丈夫、安全な場所にたどり着いたのだ、という実感が、じわじわと湧いてきます。キースたちとは離ればなれになってしまいましたが、彼らはオリバンやセシルと一緒にいるのです。もう心配はありません。
少年少女と犬たちは誰からともなくほほえみ合いました。てんでに座ったり、花野に倒れ込んだりして笑い出します。明るい笑い声が青空に響きます――。
笑って笑って、満足するまで思う存分笑った後、フルートは起き上がって仲間たちに言いました。
「さあ、行こう。白い石の丘のエルフに逢うんだ。あの人に話を聞きに行こう、って前に話し合ったじゃないか。デビルドラゴンのことも、奴を倒す方法のことも、賢者のあの人ならきっと知っているんだよ」
「竜の宝が何で、どこにあるのかも、おじさんなら知っているかもしれないわね」
とポポロも言います。
「ワン、それじゃ急ぎましょう!」
とポチは張り切ると、風の犬に変身して長い体を花野に伸ばしました。ルルも変身してそこに並びます。
「さあ、乗って。あの石の丘までひとっ飛びするわよ!」
少年少女たちは歓声を上げて立ち上がりました。ポチの上にはフルートとポポロが、ルルの上にはゼンとメールが乗り込みます。
「よし、行くぞ!」
フルートの号令で、犬たちは舞い上がりました
空は地平線まで鮮やかに青く、爽やかな風が花の香りを運んでいきます。
その中にくっきりと浮かぶ白い石の丘を目ざして、一行は空を飛び始めました――。
The End
(2010年7月24日初稿/2020年4月2日最終修正)