第15巻「闇の国の戦い」を読んでいただいてありがとうございます。
作者の朝倉玲です。
「フルート」シリーズは一応、全年齢対象作品なのですが、この「闇の国の戦い」だけはR15指定を入れるべきか悩みました。エログロとまではいきませんが、どうしても残酷なシーンや台詞が出てきますので。
でも、それを書かなかったり、ぼかしたりしたら、闇の国は闇の国になりません。利己主義の極み、他者の痛みなどまったく想像せず、己の得と快楽だけを追求する者たちの暮らす世界。それが闇の国です。結局R15指定は入れないことにしましたが、今でもちょっと迷っています。どちらが良いのか……。
ただ、書きながら思いました。
こんな事件、つい最近ニュースで聞かなかったかしら? と。
人間は光と闇を併せ持っている存在なのだと、私は本気で考えています。
光を利他主義、闇を利己主義と言い換えることもできます。
利他主義は他人の幸福を第一とする考え方だし、利己主義は自分の幸福を第一にする考え方なので、ともすると利己主義は良くないこと、悪であるように言われます。でも、あまりにも利他主義に傾きすぎると、結果として自分自身をないがしろにして他人に尽くすことになってしまって、それはそれで危険な状態になります。そのあたりは、フルートを見ていればおわかりですよね?
人間には他者を大事にする光も、自分を大事にする闇も、どちらも必要なのだろうと思います。ただ、たぶん人間はともすると自分ばかりを大事にするほうに走りやすいから、戒めとして、闇を滅し光を目指すように、と言われるのでしょう。
闇の国は人の心の中に生まれます。己の中の闇に負けないようにすることは、ファンタジーの中だけのことではないのだと、私は思うのです。
さて、血なまぐさくて危険な闇の国にあって、物語をなごませてくれたのは、久しぶりに登場した二人でした。さあ、彼らはこれからどうなっていくでしょう?
そしてもう一組。ゴブリンの双子のゾとヨも、書いていてなかなか楽しい連中でした。見た目は不気味な怪物なんですけれどね。書き進むうちに、どんどんかわいく感じられるようになってしまいました。ゴブリンなのに!(笑)
このシリーズを連載していた頃、口蹄疫(こうていえき)という豚や牛の伝染病が大きな社会問題になっていて、連日ニュースで取り上げられていました。書いている間は無意識でしたが、後から読み返して、フノラスドのデザインに取り込まれていたかもしれない、と思いました。
このあとがきを書いている今も、世界中で新型コロナウイルスの感染拡大が、非常に深刻な状況になっています。人の心の中の闇と、戦争や暴力、飢餓や疫病と言った災厄が具象化されたものが、闇の国なのかもしれない、とも思います。
光と闇の、闇の部分を改めて考えてみたこの物語。お楽しみいただけたら幸いです。
2020年4月2日