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第15巻「闇の国の戦い」

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第8章 街

25.朝

 闇の国に朝が来て、フルートたちは目を覚ましました。木の上に作った足場から起き上がって、伸びをします。

「よく眠れたか?」

 と明け方の見張りに立っていたゼンが尋ねてきたので、うん、とフルートやポチはうなずき、メールも、まあね、と答えます。ところが、ポポロは自分の両手を見つめて言いました。

「魔法が回復していないわ……朝が来たのに昨日のままよ」

 仲間たちは思わずうめきました。

「案の定かよ。フルートが予想していたとおりだな」

「ワン、ここが闇の国だからですね。朝が来たように見えてるけど、これは本物の朝じゃないんだ」

「ポポロ、あんた、昨日いくつ魔法を使ったっけ?」

「ひとつよ……。封印の魔法陣を開くときに。残りはあとひとつだけ……」

 魔力は大きくても、一日に二回しか魔法を使えないポポロです。自分がひどく役立たずのように感じられて、涙ぐんでしまいます。

 すると、フルートがその手を取って言いました。

「魔法はまだひとつあるよ。それを最後まで使わずに取っておいて。この闇の国からまた脱出するときに、絶対に必要になるからね。――他のことならば大丈夫。敵はぼくやゼンが追い払えるし、ポチたちだっている。ラクさんの呪符だって、ぼくらを守ってくれているんだから」

 優しくて力強い励ましでした。ポポロはフルートを見上げてうなずき、うるんだ目から涙をぬぐいました。

 

 一方、双子のゴブリンのゾとヨは、狭い足場の上をぴょんぴょん飛び回っていましたが、ふと、ルルがまだ寝そべったままでいるのに気がついて、言いました。

「おまえはどうしてまだ寝ているんだゾ?」

「朝が来たのにまだ眠いのかヨ?」

 すると、ルルは腹ばいになったまま、不機嫌な声で言いました。

「違うわよ。ちょっと――体がだるいだけよ。すぐ治るわ」

 それを聞いて、全員が今度は雌犬に集まりました。

「具合が悪いの、ルル!?」

「どら、ちょっと見せてみろ」

 ゼンがルルにかがみ込んで、体のあちこちに触れます。

「特にどこかが悪いってわけじゃねえみたいだな。だるい以外に具合の悪いところはねえのか?」

「ここが闇の国だからかもしれないな……。ルルは天空の国の犬だから、聖なる獣と同じように、長く闇の国にいると具合が悪くなってくるのかもしれない」

 とフルートが考えながら言います。

「いやね、ちょっと疲れているだけよ。心配ないったら。大げさね」

 とルルは立ち上がりました。皆の前で頭をしゃんと上げて、ふさふさの尻尾を振って見せます。ルル、とポチはつぶやきました。元気そうに見せても、ルルはやっぱりどこかつらそうです。

 

「よし、とにかく朝飯にしよう。食わなきゃ元気が出ねえからな」

 とゼンが言ったので、一行はそのまま朝食をとることにしました。竹の皮に包んだ携帯食はもうなかったので、甘い焼き菓子のようなものをゼンが配ります。二匹のゴブリンたちも、他の者と同じようにおとなしく待っていて、焼き菓子を受けとると片隅で食べ始めました。まだ用心はしていますが、昨夜よりずっとなじんできたように見えます。

 ルルも食事を始めたので、仲間たちは少し安心しました。それぞれ自分の焼き菓子を食べながら話を始めます。

「できるだけ早くキースを見つけて、で、アリアンやグーリーを助け出さなくちゃならねえな。この闇の国は本当にやばい感じがするぞ。ここに来てからずっと、俺の首筋がちくちくしっぱなしなんだ。ここに長居するのは絶対に危険だな」

 とゼンが言ったので、フルートはうなずきました。

「金の石が眠っているから、闇の影響をもろに受けてしまうんだ。ルルの他にも、調子が悪くなる者が出るかもしれない。急がなくちゃいけないな」

「ねえさぁ、ゾ、ヨ。あんたたち、キースのいるところを知ってるって言ったよね? そこまで、あとどのくらいかかるのさ?」

 とたんに、二匹のゴブリンは飛び上がりました。ぎょっとしたような反応だったので、たちまちゼンが怪しむ顔になります。

「なんだよ。おまえら、本当はキースの居場所を知らないんじゃねえのか? 口から出まかせ言ってやがったんじゃねえだろうな」

「そそそ、そんなことないゾ!」

「そそそ、そうだヨ! ちゃんと知ってるヨ!」

 とゴブリンたちは答えました。手に食べかけの菓子を持ったまま、右へ左へ飛び跳ねてあわてています。

「知ってるんなら、何をそんなに焦ってやがる? やっぱり怪しいな」

「あああ、怪しくなんてないゾ! ホントだゾ!」

「ほほほ、ホントに知ってるヨ! ちゃんと案内するヨ!」

「どこさ? どっちに行けばいいわけ?」

 とメールがまた尋ねると、二匹のゴブリンは言いました。

「ま、街に行かなくちゃならないんだゾ」

「だ、だから心配してるんだヨ」

 

 街に? とフルートたちは驚きました。街には闇の民が大勢いるはずです。そんな場所へ行って大丈夫だろうか、と心配になります。

 すると、ゴブリンたちはいっそう熱心に言いました。

「大変でも、行くしかないんだゾ」

「そうしないと、ウルグの王子には会えないんだヨ」

 ポチは、くん、と鼻を鳴らして、すぐに困惑してしまいました。ゴブリンたちが嘘をついているかどうか、うまくかぎわけることができなかったのです。怪物の感情の匂いは、人や動物とは質が違っていて、見当がつきません。

「ヤシャって街だゾ」

「ここから歩いて二時間くらいだヨ。あんまり遠くないヨ」

 とゴブリンたちは言い続けていました。仲間たちはフルートを見ました。判断に迷ったとき、行動を決定するのはリーダーです。

 すると、フルートはあっさり言いました。

「もちろん行くさ。そこに行かなかったらキースに会えないんだろう? それなら迷うことなんかないさ」

 相変わらず、頑固なほど決心の変わらないフルートです。ゼンは渋い顔で肩をすくめました。

「しゃあねえな。気をつけろよ、みんな」

「守りの呪符に期待するしかないよね」

 とメールも言います。

 ……キースは荒野に住んでいるんだから街に行くのは変じゃないか、とゴブリンたちを問いただすことができる者は、そこにはいませんでした。

 

 すると、ゾとヨがフルートたちに向かってまた言いました。

「街まで歩くと腹が減るゾ」

「だから、餌のお代わりがほしいんだヨ」

 にやにやと愛想笑いをしながら、せびる目で一行を見上げてきます。

「もちろんいいよ。さあ、どうぞ」

 と、すぐに自分の荷物から食料を取りだして、怪物たちに渡してやったフルートでした――。

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