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第15巻「闇の国の戦い」

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6.知らせ

 「驚かせてすまんな、勇者たち」

 と水から現れた人物が話しかけてきました。長い髪とひげの老人です。光の加減で色合いの変わる長衣を着て、池の面(おもて)に立っています。

「泉の長老!」

 とゼンとメールとポポロは声を上げました。フルートだけはまだ気を失っていて、ぐったりとゼンに担がれています。そちらへ手を向けて、老人が言いました。

「目覚めなさい、フルート。話がある」

 とたんにフルートは目を開け、老人を見て驚きました。

「泉の長老! どうしてここに!?」

 長老が守る魔の森からこのユラサイまでは、何千キロもの距離が横たわっているのです。

 すると、長老が言いました。

「わしは世界中の泉と川を司っていて、すべての水辺の出来事を知ることができる。そなたたちがこの池へ来たのが見えたので、フルートのペンダントを通じてやってきたのじゃ。少々手荒な方法だったがな」

 言われて、フルートは自分の胸に下がるペンダントを見ました。金の草と花の透かし彫りの真ん中で、金色の魔石が輝いています。

 泉の長老は話し続けました。

「聖守護石は単独で意志と力を持つ存在だが、それを囲んでいるペンダントは、わしが魔法で作り上げたものじゃ。わしと通じておるから、フルートの生気をいくらかと、ここの水を使って、わしをこの場所に出現させたのじゃ。頻繁に行えばフルートの生命が危険になるが、緊急事態じゃ。大目にみてもらおう」

 緊急事態、と聞いて勇者の少年少女たちはいっせいに緊張しました。フルートがゼンの肩から水中に飛び降ります。

「何かあったんですか!? ひょっとして、シルの町に何か――!?」

「シルの町ではない。知らせはシルの町からやって来たがな」

 長老のことばは、どこか謎めいています。フルートたちが理解できずにいると、老人はさらに言いました。

「そなたたちの友だちの危機じゃ。詳しく話して聞かせよう。だが、まずは水から上がりなさい。わしがこの場所にいるために、水を通じて力を吸い取られていくからな」

 それを聞いて、あわてて池から這い上がったフルートたちでした。

 

 

「アリアンとグーリーが闇の国に……」

 泉の長老から話を聞き終わったフルートは、深刻な表情になりました。他の仲間たちも顔色を変えています。

「まずいじゃないのさ。アリアンたちは、闇に敵対するあたいたちを何度も助けてるんだ。そういうのって、闇の民にとっては裏切りになるんだろ? 絶対に処罰されちゃうよ!」

 とメールが言えば、ゼンも腕組みしてうなります。

「闇の民は残酷で意地悪で、他人を不幸にすることしか考えていねえ、って、ロキが昔言っていた。連中はアリアンたちを殺しちまうかもしれねえぞ。しかも、ものすごく残酷な方法でな」

 ゼンはごく低い声でしゃべっていました。最大限に腹をたてて、爆発寸前になっている証拠です。

 そこには、ポポロに呼ばれて、ポチとルルも駆けつけていました。白い小犬が一生懸命考えながら言います。

「ワン、やっぱり闇の国に行かなくちゃいけないんだ。それも大急ぎで……。どうやったらいいんだろう? どこから闇の国へ行けばいいんだろう?」

「この地上には天空の国への入口があちこちにあるわ。闇の国への入口も、どこかにないの?」

 と茶色い雌犬も言います。

 闇の国への入口――と全員が考え込み、自然と水の上の老人に注目しました。泉の長老ならば、入口のある場所を知っているのではないか、と考えたのです。

 けれども、長老は首を振りました。

「わしは光に属する者じゃ。闇の国への入口は闇魔法で隠されているから、わしには見ることがかなわん。わしの管轄の中にも、その入口はない」

「じゃあ、どうやって闇の国に行ったらいいんだよ――!?」

 ついにゼンが切れ始めます。

 

 すると、頬に両手を当ててずっと考え込んでいたポポロが口を開きました。

「昔、聞いたことがあるわよ……闇の国への入口の話。今、思い出したわ……」

 えっ!? と全員はポポロに注目しました。

「それはどこ!?」

 とフルートが尋ねます。

「エスタ国よ。ロムド国の東隣の……。ほら、風の犬の戦いの時に、あたしたちはエスタ城に行って、天空の国へ続く階段の扉を開けたでしょう? あの時、扉の間に案内してくれたエスタ国王が話していたのよ。エスタ城の地下室には、地底の闇の国に続く封印された井戸もある、って……。そこからならば、闇の国に行けるんじゃないかしら?」

 そう話すポポロの服は、もう半袖の白い服に戻っています。

「エスタ城って言ったら、ものすごく遠いじゃないのさ!」

 とメールが思わず言うと、ポチとルルが口々に言いました。

「ワン、大丈夫ですよ! ぼくとルルが風の犬に変身するから!」

「そうよ。私たちに乗って空を飛んでいけば、ここからエスタまで三日で行けるわ!」

 フルートは即座に仲間たちへ言いました。

「よし、決まった。大至急エスタ城へ行こう! エスタ国王に会って、闇の国へ行くんだ!」

 おう! と仲間たちがいっせいに返事をします。

 

 泉の長老が池の上から言いました。

「わしはもう元の場所へ戻るとしよう。あまり長くここにいると、水中の生き物たちが弱って死んでしまうからな」

 長老の言うとおり、池の中の魚たちが水面近くまで浮いてきて、苦しそうに泳ぎ回っていました。水辺に生える柳の木も、秋でもないのに、黄ばんだ葉をはらはらと水面に散らしています。水を通じて力を長老に吸い取られているのです。

 フルートは、あわてて長老へ頭を下げました。

「知らせてくださって本当にありがとうございました。アリアンとグーリーは、ぼくたちが必ず助け出します。ユギルさんとゴーリスと――ロキに、そうお伝えください」

「水は地下にも流れている。水の守りがそなたたちと共にあるように」

 泉の長老は勇者たちのために祈ると、きらめく水の柱に変わっていきました。次の瞬間、どっと崩れ、白いしぶきをたてて池に戻っていきます。とたんに、池の魚たちがまた元気に泳ぎ出しました。畔の柳も葉を落とすのをやめます――。

「行くぞ! 出発の準備だ、急げ!」

 とフルートが言い、全員が駆け出しました。自分たちの部屋へ戻って荷物をまとめようとします。

 

 すると、中庭から宮殿に入ったところで、白髪頭の男性に出会いました。竜子帝の後見役のハンです。自分からフルートたちに駆け寄ってきて言います。

「皆様、ここにいらっしゃいましたか! 竜子帝がお呼びです。今すぐ、帝の部屋へおいでください!」

 それから、ハンは、ぐっと声を低めて続けました。

「お探しの闇の国への入口が見つかったようでございます」

 ええっ!? とフルートたちはまた驚きました。

「闇の国への入口が見つかった? ……このユラサイに?」

 とフルートが聞き返すと、ハンがうなずきます。

 フルートたちは弾かれたように竜子帝の部屋へ駆け出しました――。

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