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第14巻「竜の棲む国の戦い」

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第18章 分かれ道

52.一路(いちろ)

 リンメイと風の犬のルルを捕まえたまま、空中から巨大な手が消えていきました。竜子帝とポチが必死に名前を呼びますが、雲が淀む空には少女たちも手も戻ってきません。

 フルートがポポロを振り向きました。

「早く! 行き先を追って!」

 ポポロは魔法使いの目で追跡を始めましたが、すぐに、あっと小さく叫びました。

「だめ……振り切られたわ!」

「ルルはポポロと心でつながってるんだろ!? それでもわからないのかい!?」

 とメールが尋ねると、ポポロは首を振りました。

「魔法の力で隠されてしまったのよ。壁が立ちはだかって、間をさえぎってしまったの……」

 大粒の涙がこぼれ出します。

 ゼンがロウガに食ってかかりました。

「あの黒野郎はどこに行ったんだよ!? あいつの目的は何なんだ!?」

 ロウガに尋ねたのは、あの黒い術師がロウガの昔の仲間だとわかったからです。

「俺にもわからん。あいつは六年前に裏竜仙郷を飛び出したきり、ずっと行方知れずになっていたんだ――」

 とロウガは堅い声で答えました。拳を握りしめて空をにらみつけています。

「リンメイはどこだ!? どうすればリンメイを助けられるのだ!?」

 と犬の竜子帝が叫びましたが、誰もそれに答えられませんでした。空を見上げたまま茫然としてしまいます。

 

 すると、花鳥の上に座り込んでいたポチが言いました。

「占神だ――。竜仙郷には占いの神と呼ばれる人がいるんでしょう? その人に、彼らの行方を占ってもらえばいい!」

 あっ、と全員は気がつきました。確かに、占神ならば彼らの居場所がわかるかもしれません。

「そんな恰好をしていても、やっぱりポチだな。賢いぜ」

 とゼンが少年皇帝の頭をぐいと抑えるように撫でました。メールが花鳥に命じます。

「お行き! 全速力で竜仙郷に戻るよ!」

「ロウガ、ぼくたちも!」

 とフルートも言い、青年が飛竜を旋回させます。一行は南西の竜仙郷目ざして、脇目もふらずに飛び始めました。ポチが呼びかけたので、リンメイの飛竜も一緒についてきます。

 

 うなりを上げて空を飛びながら、フルートはロウガに尋ねました。

「あのユーワンという術師は、食魔払いの仲間だったんですね? どんな人物だったんです?」

 ロウガは口元を歪めました。語るのも不愉快だと言いたそうに答えます。

「得体の知れないヤツだったよ――。術師としては一流だったがな。食魔に術は直接には効かないから、影を作る場所を術で破壊して食魔を追い出す役をしていた。普段は冷静なくせに、天下を取る話になるといきなり熱くなる男で、仲間たちはみんな心配して、いさめたり諭したりしたんだが、あいつは耳を貸そうとしなかった。しまいには怪物で仲間を皆殺しにして、裏竜仙郷から飛び出していった。俺一人だけが、九死に一生を得て生き残ったんだ」

「奴の話では、誰か仕える人がいるようでしたよね。心当たりは?」

「ない。というより、信じられん。たとえ一時でも、誰かの下につくなんてことは、昔は考えられなかったんだ」

 普段は気の良い青年が、黒い術師の話をするときには、驚くほど厳しい顔と声になります。

 フルートは少し考えてから、思い切って質問を重ねました。

「それで……あなたが言っていたトウカっていうのは、誰なんですか? ユーワンも知っているようだったけれど」

 とたんにロウガは本当に厳しい表情になりました。

「裏竜仙郷きっての竜使いだ……女だがな。こっちは三年前に裏竜仙郷を飛び出していったきり、やはり行方はわからない」

 冷静に答えているような声の陰に、何か計り知れないものがありました。行く手をにらみつけるように見据えています。

「その人がユーワンに命令しているっていう可能性は?」

「それこそ、まず考えられんな。そこまで力のあるヤツじゃあない」

 トウカという女性をよく知っている気配が、返事の中にのぞきます。

 それきりロウガが黙り込んでしまったので、フルートもそれ以上は尋ねませんでした。ユーワンに命じているのは誰だろう、と考え続けますが、見当がつきません。やはり、竜仙郷の占神に尋ねなくてはならないようです……。

 

 同じ竜の背の上で、竜子帝は四本の足を踏ん張り、風に逆らうように立っていました。

 並んで飛ぶ花鳥の上には、自分の本当の体が小犬の魂を宿して乗っています。何かしら複雑な気分になって良いはずの状況なのに、竜子帝はまったくそちらを見ませんでした。ひたすら行く手だけを見つめて、低くうなり続けています。

 すると、すぐそばに座っていたポポロが話しかけてきました。

「大丈夫よ、リンメイもルルもきっと無事でいるわ……」

「何故そんなことがわかる!? おまえは彼らを透視できないのだろう!」

 と竜子帝がどなり返しました。かみつくような勢いです。

 ポポロはたちまちまた涙ぐみましたが、しずくをこぼすことはありませんでした。繰り返して言います。

「大丈夫よ……。だって、ルルが一緒にいるんですもの」

 信じる声ですが、竜子帝は返事をしません。

 

 南西へ。竜仙郷へ。

 二頭の飛竜と一羽の鳥は、ひたすら飛び続けました――。

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