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第14巻「竜の棲む国の戦い」

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第10章 虎人

28.虎人(こじん)

 「だめよ。やっぱりルルが返事をしないわ」

 翌日、森の中を駆ける花馬に揺られながら、ポポロが言いました。仲間たちがいっせいに心配そうな顔をします。

「まだつながらないの? 昨日はとうとう連絡が取れなかったし、いったい何があったんだろう?」

 とフルートが言います。ポポロは大きな瞳をもう涙でいっぱいにしていました。

「寺院を透視しようと思っているんだけど、どうしても中が見られないのよ。魔法の壁ですっかり囲まれてるいるの……。ユラサイの魔法って、あたしたちの光の魔法とはまったく違うから、越え方がわからないのよ」

「ポチたちがまた命を狙われたんじゃねえだろうな? あいつら、無事でいるのかよ?」

 とゼンが言うと、真っ先に小犬の竜子帝が反応しました。籠の中から振り向いてほえるように言います。

「そんなはずはない! リンメイは拳法の達人だ! 簡単にやられたりするものか!」

「ルルだってそうさ。風の犬に変身すれば、刺客なんかにやられるはずはないんだからさ」

 とメールも言います。

 すると、フルートが考えながら言いました。

「もしもルルたちに命に関わるようなことが起きれば、絶対にポポロが感じるよ。ルルとポポロは心でつながっているんだから……。そうじゃなくて、何かの原因で、ルルがこっちに通信できないような事態になっているんだ。もしかしたら、リンメイって子のせいかもしれないな。ずっと護衛についているんだろうから、ルルは話したくても話せなくなってるのかもしれない」

 相変わらず推察力のあるフルートです。

 ゼンが溜息をつきました。

「無事でいるならいいけどよ……ポチに竜仙郷の正確な場所を聞くことができねえな。道はもう上り坂になってる。さっき、行く手に山も見えたし、いよいよ山脈にぶつかるらしいぞ」

「そしたら、あたいがまた花鳥を作るさ。空から見れば、竜仙郷の場所はすぐわかるって」

 とメールが答えます。

 フルートがまた言いました。

「そうするしかないよ、ゼン。そばに人がいるところで、無理にルルに話をさせるわけにはいかないもの。行けるところまで馬で行ったら、あとは鳥で空に上がろう。ポポロ、魔法使いの目で竜仙郷を探してみてくれ。ゼンは上空の警戒。あの黒い魔法使いが竜に乗って見張っているかもしれないからな」

「んなもん、とっくに始めてらぁ」

 とゼンが憮然として答えます――。

 

 すると、突然フルートたちの横に人が姿を現しました。黄金の髪と瞳の小さな少年――金の石の精霊です。疾走する花馬に並んで空を飛びながら話しかけてきます。

「気をつけろ、フルート。ぼくを外に出しておけ。闇の気配だ」

 フルートはあわてて鎧の中からペンダントを引き出しました。金の石が暗く明るくまたたいています。

「闇の敵か!?」

 少年少女たちは一気に緊張しました。周囲を見回します。

「このあたりは闇の怪物の縄張りらしい。闇の気配が濃い。今はまだぼくが君たちを闇の目から守っているけれど、怪物が直接君たちを見たら、もう隠してはおけない。注意しろ」

 言うだけ言って、精霊が姿を消していきます。

 花馬は駆け続けます。その背中で一行は身構えました。フルートが剣の柄を握り、ゼンが弓矢を下ろして構えます。ポポロは周囲の透視を続けます。

 やがて、そのポポロが鋭く息を飲んで左手を指さしました。森の奥から何かが駆け出してきて、あっという間に馬に並びます。

 それは虎の頭の怪物でした。体は人の形ですが、全身に毛が生えていて、黄色と黒の縞模様になっています。

「へへへ……見つけたぞ、金の石の勇者。九嬰からの知らせがあったから、ずっと待ちかまえていたんだ。馬の足音がしたから、ひょっとして、と思ったが、やっぱりそうだったな」

 虎人は他の闇の怪物たちより流暢に話していました。ゼンが弓矢を向けると、あっという間に姿を消して、今度は馬の右側に回り込みます。

「へへ……わかるぞ。貴様らは見た目は小さくても、ものすごく強い。俺一匹では倒せない。兄弟を呼ばなくてはな」

 森の中へ大きくほえると、また一瞬で反対側にまわります。狙いをつけ損ねたゼンの矢が、森の奥へ飛んでいきます。

 ポポロが叫びました。

「来るわ!」

 フルートの胸の上で金の石がいっそう強く明滅します。

 

 森からまた虎人が飛び出してきました。たちまち数が増えて、八匹になり、花馬を取り囲んで同じ速度で走ります。

「よぉ、見つけたな、兄弟」

「おう、あのひときわ光っている奴が金の石の勇者だ。中に願い石を持っているぞ」

「小さいな。俺たち全員で食ったら、いくらもないだろう」

「それでも、俺たちが願い石を分けあったことにはなるさ」

 走りながら話し合う虎人へ、フルートは叫びました。

「ぼくを食っても願い石は絶対に手に入らないぞ! 願い石に実体なんてないんだからな!」

 すると、虎人たちがいっせいに笑いました。

「そんなことは知っているさ、金の石の勇者――。馬鹿な怪物どもは、おまえを食えば石が手にはいると思い込んでるがな」

「しかも、願い石は破滅の魔石だ。手に入れれば、自分が死ぬ羽目になる」

「そんなもの、くれてやると言われても、こちらから願い下げだ」

 フルートたちは驚きました。この怪物たちは、今までフルートを狙ってきた怪物たちと一味違っています。願い石について正確に知っているのです。

「そんならどうしてフルートを狙いやがる!?」

 とゼンがどなりました。虎人たちがせわしく入れ替わりながら走っているので、どうしても弓矢の狙いを定めることができません。

 へへへ、とまた虎人が笑いました。

「金の石の勇者を食った、という事実が欲しいのよ。馬鹿な怪物どもは、俺たちが願い石を手に入れたと思い込むからな。そいつらに、俺たちはなんでも自分の願いをかなえられるようになったんだ、と言ってやるのさ」

「愚かな連中だ。逆らえば願い石に願って消してやるぞ、と言えば、青くなって言うことを聞くようになる」

「俺たちはそいつらの王になってやるのよ」

 虎人たちが、いっせいに声を上げて笑います。

 フルートは唇をかみました。闇の怪物と言っても、その怪物同士が仲よく協力し合っているわけではありません。むしろ、闇に属するものだけあって、仲間を出し抜いたり、服従させようと考えたりすることのほうが多いのです。この虎人たちは、闇の怪物の上に君臨するために、フルートの願い石を利用しようとしているのでした。

 

「どぉれ、そろそろ行くぞ、金の石の勇者!」

 と虎人の一匹が声を上げました。すばやく場所を変えてゼンの矢をかわすと、フルートへ飛びかかってきます。

 フルートは頭上から襲ってくる怪物を剣でなぎ払おうとしました。フルートが握っているのは炎の剣です。ひとかすりでもすれば、敵は火を吹いて燃え上がります。

 ところが、虎人は空中で身を縮めました。剣の刃を飛び越えるようにしてかわし、フルートへ飛びつきます。鋭い爪の生えた両手がフルートの鎧をつかんで、耳障りな音をたてます。フルートは急いで剣の向きを変えました。自分の前にしがみついている怪物を突き刺そうとします。

 とたんに、花馬が前にのめりました。馬の背中が大きく傾き、全員が放り出されそうになって悲鳴を上げます。

 花馬の前足に二匹の虎人が食いついていました。馬の脚は食いちぎられても血は出ませんが、ばらばらに崩れて花に戻ってしまいます。メールが必死でそれを操ります。

「こらえな、花馬! そんなヤツら、踏みつぶしておやりよ!」

 馬の前足が復活して虎人たちを蹴り飛ばし、倒れる寸前に踏みとどまります。

 けれども、その間にフルートに襲いかかった虎人が牙をむいていました。むき出しになったフルートの顔に食いつこうとします。体勢を崩したフルートには防げません――。

 すると、突然ゼンが振り向きました。自分の弓をすぐ後ろにいたポポロに押しつけ、虎人に飛びかかってフルートから引きはがします。

「ゼン!」

 フルートは驚いて声を上げました。ゼンは勢いあまって怪物と一緒に馬から転げ落ち、八匹の虎人のど真ん中に墜落したのでした――。

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