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第14巻「竜の棲む国の戦い」

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11.夕食・2

 山の中の森では、フルートたちが夕食を始めていました。

 ゼンが火をおこし、塩漬け肉や野草でスープを作って、昼に焼いたパンの残りと一緒に全員に配ってくれます。ポチの体に入っている竜子帝の前にも、木の器が置かれました。スープにパンが浸してあります。

 それをまじまじと見て、竜子帝が言いました。

「これはなんだ?」

「なんだって、見りゃわかるだろうが。飯だよ」

 とゼンが答えます。

「だが、おまえは草を入れていただろう。朕に雑草を食べろと言うのか」

「ちゃんと食用の草を選んでらぁ。全員が同じものを食うんだ。毒なんか入ってねえよ」

 ゼンが機嫌の悪い声になってきたので、フルートがあわてて口をはさみました。

「竜子帝、ゼンの料理はおいしいんですよ。野外料理の達人なんだから。食べてみてください」

 けれども、小犬の皇帝は食事から顔をそむけると、一行から離れてしまいました。腹が減っても知らねえぞ! とゼンがどなりますが、知らん顔です。

 

 フルートは溜息をひとつつくと、食事を始めました。メールやポポロ、ゼンもすぐに食べ始めます。そうしながら、彼らはまた話し始めました。

「さっきの続きになるけれど、竜子帝は誰かに命を狙われている。誰のしわざか確かめなくては、危険で竜子帝を元には戻せないよ」

 とフルートが言うと、メールが首をかしげました。

「まずポチたちを助け出して、元に戻したほうがいいんじゃないのかい? いくらポチでも、そんなに長い間身代わりはやれないだろ。元に戻った竜子帝のほうを守ればいいんだからさ」

「ぼくらを竜子帝の護衛にしてもらえるならね」

 とフルートは苦笑しながら言いました。

「思い出せよ。ぼくらは寺院に突入して、大暴れしてポチを取り戻したんだぞ。実際にはポチじゃなく竜子帝だったわけだけどさ。いくらわけを話したって、ぼくらのほうが悪者にされて捕まってしまうさ」

 すると、そっぽを向いていた皇帝が急に振り向いて言いました。

「朕を今すぐ社殿に戻せ! あそこには術師のラクがいる。朕を元に戻せるし、敵からも必ず守ってくれるだろう。おまえたちの助けなど必要ない!」

「それはできません」

 とフルートは答えました。

「敵は守りを固めていた社殿に侵入してきています。かなり強力な魔法使いなんです。おそらく、そのラクという人だけでは力が及ばないはずだ」

「ラクは長年宮中に仕えている術師だぞ!」

 と竜子帝がむきになると、ゼンが肩をすくめました。

「じゃあ、なんであんたは犬の姿になってるんだよ? 世の中を甘く見るな。世界には上には上がいるし、人の力を越えるような魔法を使うヤツだって大勢いるんだからな」

 ゼンとしては最大限穏やかに言い聞かせていたのですが、竜子帝は腹を立てました。ぱっと立ち上がり、牙をむいて言い返します。

「偉そうな口をきくな! おまえたちは朕より年下ではないか! 金の石の勇者か何か知らぬが、年下に説教されるほど朕は落ちぶれてはいないぞ!」

 フルートたちは夕食ができるまでの間に、自分たちのことを竜子帝にざっと聞かせていました。その時に、自分たちが竜子帝より少し年下だということも話していたのです。

 メールがあきれて言いました。

「歳がなんだっていうのさ。大事なことはそんなもので決まりゃしないだろ。問題は、このままあんたが元に戻れば、やっぱりまた命を狙われるってことなんだから」

「朕の家来たちはそんな無能者ではない!」

 と竜子帝がまた言い返します。

 

 その時、ポポロが鋭く息を飲みました。社殿にいるルルが話しかけてきたので、低い声でやりとりをしていたのです。顔色を変えてフルートたちに言います。

「ポチが食事中に毒を盛られたらしいわ! ポチとハンって人が、もう少しで毒を口にするところだったって!」

 フルートたちは、ぎょっとしました。

「ったく! 人間ってやつはすぐにこれだ。おい、皇帝、ずいぶんと有能な家来たちだな!」

 とゼンが皮肉たっぷりに言いましたが、竜子帝は聞いていませんでした。全身の毛を逆立てて言います。

「ハンは!? ハンは無事なのか!?」

 その真剣な声に、フルートたちは、おや、と思いました。

「大丈夫よ。ルルが気がついて、寸前で防いだんですって」

 とポポロが答えると、小犬の皇帝は心底ほっとした様子になりました。

 フルートは尋ねました。

「ハンというのは誰ですか?」

「朕の後見役だ。――朕は、皇帝になる以前は、宮廷よりハンの家で過ごす時間のほうが長かった」

 ふぅん、と一同は納得しました。そういう人物を竜子帝が心配したことを、なんとなく嬉しく感じます。

 

 ポポロはまだルルと話し続けていました。ルルの声はポポロにしか聞こえません。時々話を中断して、内容を仲間たちに伝えます。

「食事に毒を入れた給仕は、発見された後で自殺したんですって。どうやら心縛りの術をかけられていたみたい……。本当の犯人を捜しているけれど、まだわからないらしいわ」

 それを聞いてフルートは考え込みました。

「やっぱり竜子帝を戻すのは危険だな。敵のほうが守る人たちより上手なんだ。なんとかして犯人を突き止めなくちゃいけない」

「ポチは他のヤツの気持ちが匂いでわかるだろうが。それで犯人を見つけられねえのかよ?」

 とゼンが言ったので、フルートは首を振りました。

「それは無理だ。ポチは、前に人間にされたときにも、感情がかぎわけられなくなっていた。今回もきっと同じだよ」

「ここにユギルさんがいればなぁ。占いであっという間に犯人を見つけてもらえるのにさ」

 とメールが溜息をつきます。銀髪に色違いの瞳の占者はロムド城にいます。このユラサイからはあまりにも遠くて、連絡の取りようがありません。

 すると、竜子帝が言いました。

「優秀な占者ならユラサイにもいる……。竜仙郷の占神だ」

「せんしん? 何者さ、それ?」

 とメールが聞き返します。

「占いが非常によく当たるので、占いの神と呼ばれている人物だ。朕はまだ会ったことがないが、先代の帝にも先々代にもその前の代の帝にも現れて、大きな戦や天災を知らせてくれた」

「そんな昔から? その占神って人、いったい何歳なのさ?」

「それは朕も知らぬ。二百年以上も前から竜仙郷に住んでいて、いくら歴代の帝が要請しても、決して宮廷に仕えようとはしないのだ。いつも突然飛竜に乗ってやってきて、占いを告げてまた竜仙郷に戻っていく。そして、その占いは必ず当たるのだ」

 へぇ、と一同は感心しました。その話が本当ならば、ユギルに匹敵するような占者がユラサイにもいたことになります。

 

 フルートはさらに考えながら言いました。

「年齢からすると、その人物はエルフなのかもしれないな……。白い石の丘のエルフや、ヒムカシの天狗さんたちのように、人里離れて暮らしているのかもしれない。エルフたちは人間より長生きだし、魔法や占いの力もあるからね」

「ああ。そういやヒムカシのオシラさんたちは、占いが得意だったな」

 とゼンも言います。

「どうするの?」

 とポポロが尋ねたので、フルートは答えました。

「大変だろうけど、ポチにはもうしばらく竜子帝の代理をしてもらおう。ルルにはポチを守ってもらう。ぼくらは竜仙郷というところに行って、占神に会ってみよう。竜子帝の命を狙っているのが誰かを突き止めるんだ」

 それを聞いて竜子帝は驚きました。

「竜仙郷に行くというのか!? 彼(か)の地は遠いぞ! しかも険しい山々に囲まれた中にあって、人の脚でも馬でも行くことはできない。飛竜がいなければたどり着けないのだ!」

「そんなの大丈夫だって。あたいの花鳥ならひとっ飛びだからね。竜がいいって言うなら、花竜だって作ってあげるよ」

 とメールが竜子帝の心配を笑い飛ばします。

「よし。ポポロ、ルルたちに計画を伝えてくれ」

 とフルートに言われて、ポポロがまた遠い場所のルルと話を始めます。

 

 すると、ゼンが言いました。

「おい、そうと決まったら飯を食えよ。腹が減っていたら、竜仙郷までたどりつけねえぞ」

 とたんに竜子帝は不愉快そうに鼻にしわを寄せました。

「いらぬと言っている! いくら犬になっていても、そんなゴミのようなものを食せるか!」

 また顔をそむけて、一行から離れた場所へ行ってしまいます。

「この贅沢野郎が! ぶっ倒れたって知らねえからな!」

 ゼンがいくらどなっても、意固地に聞こえないふりを続けます。このユラサイの皇帝は、なかなか手強そうでした――。

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