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第13巻「海の王の戦い」

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75.不屈

 山津波に襲われて土砂に埋まってしまった沢で、大きな岩がぐらりと動きました。山の斜面を音を立てて転がり落ちていきます。

 その下から姿を現したのはゼンでした。

「よっしゃ! 出られたぞ!」

 と歓声を上げます。上にのしかかっていた大岩を、ゼンが押しのけたのです。一緒にいた海王の三つ子やシィ、カイの二匹の犬が、ぽかんとそれを見上げています。

 同じ岩の下から、ポチがぴょんと飛び出してきました。

「ワン、上にあまり土が重ならなくてよかったですね。いくら金の石が守ってくれても、深く埋まってしまったら、脱出に手間取るところだった」

 彼らは淡い金の光に包まれていました。光の中心にいるのは、金のペンダントを下げたフルートです。落ち着いた足取りで出てきて、周囲を見回します。沢は土と岩でいっぱいです。

「間違いなく魔王のしわざだな。ぼくらが登っているのが、魔王には見えていたんだ。このままこのルートを行くと、また攻撃されるぞ」

「登りにくいが、山の斜面を進むしかねえな。森の中を行けば、よほど見つかりにくくなるだろう」

 とゼンが腕組みして答えます。

 そこへ、空から一羽の鳥が舞い下りてきました。キィーッと鳴いてから話しかけてきます。

「大丈夫でしたか、ゼン様、皆様方。ものすごい土砂崩れでしたね」

「おう、ウミツバメか。平気だぜ。それより伝言を頼まぁ。この山津波は海からも見えてたはずだ。メールたちに、俺たちはみんな無事だから心配するな、って伝えてくれ」

「キィーッ、わかりました」

 ウミツバメが麓の海に向かって飛んでいきます。

 それを見送ってから、ゼンは仲間たちに手招きしました。

「よし、行くぞ。こっちだ」

 と沢の脇の斜面をさっさと登り始めます。

 

 そんなゼンの様子に、クリスが言いました。

「本当に、あきれるくらいタフだな、彼は。何があったって全然めげないじゃないか。……ザフに太刀打ちできるわけなかったよな」

「うるさいな。そんなのもう、嫌ってほどわかってるよ」

 とザフが顔を赤らめます。本当に、ザフはもう思い知っていました。ゼンの真似をすることも、ましてその上を行くことも、自分には絶対不可能なんだ、と。

 先頭を行くゼンにフルートが追いついていました。やはりためらいもなく斜面を登り、行く手を指さしてゼンと何かを話し合っています。小犬のポチがその足下に来て、話に加わります。

「彼らはみんなそうよ」

 とペルラが言いました。

「力も心も、すごく強い。姿は子どもっぽくみえるけれど、みんな、中身はとんでもなく大人なんだわ。私たちと一歳しか違わないのに――。やっぱり、金の石の勇者たちだからなんでしょうね」

「世界を守って、闇の竜とまともに戦っているんだもんなぁ。大人の誰もできないことを、彼らはやっているんだ」

 とクリスが改めてしみじみと言います。金の石の勇者は魔石のおかげで勇敢なんだ、石さえあれば怖いものなしなんだから、とクリスがフルートを揶揄したのは、もう昔の話です。

 

 すると、三つ子に向かってゼンが手招きしました。

「早く来いよ。山津波に襲われたおかげで、敵は俺たちを見失ったんじゃないか、ってフルートが言ってるんだ。好都合だぜ。この隙に最短ルートで頂上を目ざすぞ」

 言うだけ言ってどんどん歩き出すゼンに、フルートとポチが遅れることなくついていきます。それを急いで追いかけながら、三つ子たちは、次第に元気が湧いてくるのを感じていました。すさまじい山津波に襲われ、魔王の実力を見せつけられておびえていた心に、新しい力が注ぎ込まれてきたのです。その元気の源はゼンでした。そばに金の鎧兜のフルートがいると、安心感はますます強まります。

「新しい渦王の誕生か」

 とクリスが言い、他の二人がそれに黙ってうなずきました。見た目も能力も、まったく海の民らしくないゼンです。それなのに、彼らはとても自然にゼンを次の渦王と納得していたのでした。

「東の大海の王は兄上、西の大海の王はゼン――。海は面白い時代を迎えそうだね」

 ザフがつぶやくように言いました。

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