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第13巻「海の王の戦い」

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第17章 作戦会議

49.不思議

 メールが目を覚まさない、と言うゼンの声を聞いて、フルート、ザフ、風の犬になったポチは仰天して飛んでいきました。その目の前に金の石の精霊が姿を現し、一足先にゼンの戦車へ飛び込みます。

 メールはゼンに抱きかかえられていました。青ざめた顔で、ぐったりと気を失っています。

「またか」

 と精霊が言ったところへ、フルートたちも到着しました。狭いのですが、全員が戦車に乗り込みます。

 フルートは金の石をメールに押し当てました。とたんに、かたわらに立つ精霊が明るく輝きます。癒しの力を送ったのです。

 ところが、メールは正気に返りませんでした。ゼンが顔色を変えます。

「メール! おい、メール! 目を覚ませ!!」

 どれほど強く揺すぶっても、メールは目を開けません。フルートが何度金の石を押し当てても、反応もしません。ポチはあせってザフを見上げました。

「ワン、あなたはメールに海の気を与えられないんですか!? あなたも海王の王子なんでしょう!?」

 ザフは青くなって首を振りました。

「む、無理だよ……。あれは海の王にしか使えない魔法だから、海王の後継者の兄上にしかできないんだ……」

 そこへ、シードッグに乗ったペルラとクリスも駆けつけてきました。どうすることもできなくて、茫然とメールを見つめてしまいます。

 ゼンは死にものぐるいでメールを呼び続けました。

「メール!! 起きろ、メール――!!!」

 

 すると、本当にメールが目を覚ましました。

 自分を見つめる仲間たちを見回して、驚いたように言います。

「みんな……いったいどうしたのさ、そんな顔して?」

 全員は呆気にとられました。

 フルートが尋ねます。

「大丈夫かい、メール……? もうなんともない?」

「やだな。あたい、気を失ってただけだよ。しょうがないだろ、渦の中でめちゃくちゃ振り回されたんだもん。渦は? 魔王はどうなったのさ?」

 そう話すメールは、いつもとまったく変わらない口調でした。さっきまで青ざめていた顔色も、今はもう普通に戻っています。

 ゼンはメールを抱いたまま戦車の床にへたり込みました。

「お……どかすな、馬鹿……。マジで寿命が縮んだぞ……」

 そのままメールを強く抱きしめたので、メールは真っ赤になりました。

「ちょっと、ゼンったら! 放しなよ! ホントに大げさなんだったらさ――!」

 じたばたするメールを見て、三つ子たちがほっとします。

 

 けれども、フルートは厳しい顔のままでした。

「気を失っていただけ?」

 とつぶやくと、ポチが首をひねります。

「ワン、変ですよね。それだったら金の石ですぐ目覚めたはずなのに」

 すると、金の石の精霊が言いました。

「メールは本当に生気をなくして倒れていたんだよ。あまり海の気が減りすぎていたから、ぼくでも目覚めさせられなかったんだ。でも、今はもうメールの生気は元に戻っている。一瞬で増えたんだ――」

「何故?」

 とフルートが尋ねると、精霊の少年は肩をすくめました。

「ぼくにもわからない」

 

 その後、彼らは二台の戦車やシードッグに分乗しました。マグロとカジキたちが引く戦車にはゼンとメールが、アルバが乗っていたホオジロザメの戦車にはフルートとポチとペルラが、自分のシードッグを魔王に捕らえられてしまったザフは、クリスのシードッグに一緒に乗ります。

 戦車に乗り移ったペルラは、小犬のシィも連れてきていました。シィがポチへ駆け寄って、嬉しそうに体をすり寄せます。ひとしきりそれを優しくなめてやってから、ポチは言いました。

「ワン、君たちが到着する直前に海の大渦巻きが消えたんだけれど、あれってやっぱりペルラやクリスの魔法なのかな?」

 シィは首をかしげました。

「違うわ。アルバ様の大渦巻きだったのでしょう? ペルラやクリスたちには、それを消せるだけの魔力はないもの」

「ワン、そうなの?」

「ええ。三つ子が三人力を合わせたって無理よ」

 ぶちの小犬があっさりと答えます。

 

 そのやりとりをフルートも聞いていました。思わず見たのは、もう一台の戦車に乗ったゼンの姿でした。メールをかたわらに座らせ、手綱を握って声を上げています。

「大丈夫か、海の戦士たち!? 怪我人もいるのはわかってるが、今は手当てしてる暇がねえ! 戦えねえ奴は安全な場所に隠れて待ってろ! 魔王はアルバをさらって海の力を手に入れた! そいつをぶっ倒しに行くんだ、覚悟決めろよ!!」

 どんな状況でもあきらめないのがゼンですし、海の戦士たちもへこたれません。海上に顔を出して、おおう、と答えると、ゼンを先頭に移動し始めました。向かうのは冷たい海のただ中です――。

 

 フルートは首をかしげました。ゼンはいつもとまったく変わりなく見えます。目を頭上に向けると、空にはまだ雲が広がっていました。雨はもうやんでいますが、青空も天空の国も見ることはできません。

 それでもフルートはつぶやきました。

「ポポロ……?」

 空の彼方から、少女の返事は聞こえませんでした。

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