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第13巻「海の王の戦い」

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第12章 報告

34.好意と反発

 フルートたちが水蛇やシードッグに乗って海を浮上していくと、途中で巨大な怪物とすれ違いました。ライオンに似た醜い頭と前足をした魚で、まっすぐ海底へ沈んでいきます。怪物は死んでいたのです。

 ポチは水蛇の背中で尻尾を振りました。

「ワン、クジラの化け物だ。アルバたちが倒したんですよ、きっと」

 すると、クジラに続いて、たくさんのシャチも沈んできました。どれもやはり死んでいて、深い海の底へ沈んでいきます。さらにそれに続いて海を潜ってきたのは、海の戦士たちでした。魚も半魚人も海の民もいます。

 ゼンはあきれて声をかけました。

「おい、なに深追いしてんだ。勝ったんなら、さっさとここを離れねえと――」

 とたんに、海の戦士たちは海の中でいっせいに停まりました。手のあるものは手を振り上げ、尾がある者は尾を震わせて大声を上げます。鬨の声にしてはタイミングを外していたので、ゼンたちが驚くと、戦士たちの間から戦車に乗ったアルバが出てきました。

「無事だったな、ゼン! 魔王が送り込んできた敵はすべて倒した。君を助けに行くところだったんだぞ!」

「俺を?」

 ゼンはますます目を丸くしました。魚、半魚人、うろこの鎧兜をつけた海の民、戦車に乗った海の生き物たち……数え切れないほどの海の戦士たちが、ゼンの周りに集まっていました。ゼンが無事に戻ってきたことを全員が喜んでいます。先の声は歓声だったのです。

「おまえら……」

 ゼンはこみ上げてきたものに胸がいっぱいになって、何も言えなくなりました。種族がまったく違うはずの自分なのに、指揮官として慕ってくれる海の戦士たちを、愛おしいとさえ感じてしまいます。

 

 すると、そんなゼンの頭を誰かが後ろからたたきました。

「なにぼーっと感激に浸ってんのさ! みんなにさんざん心配かけといて、何も言うことないのかい!?」

 ザフのシードッグに乗ったメールが、ゼンのすぐ後ろに来ていました。ゼンをひっぱたいたのは、もちろんメールです。

 ゼンは口を尖らせて振り向きました。

「うるせえ、騒ぐな。俺があれくらいでくたばるもんかよ。見損なうな」

「ああもう、ホントに、ゼンったら全然反省の色がないんだから! 頭に来るね!」

 メールは怒って飛びかかりましたが、ゼンは軽くそれを抱き止めました。からかうように言います。

「なんだ、心配して泣いてたのか? 鬼姫の目にも涙だな」

「誰が! ゼンのために流す涙なんて、ひとったらしだってあるもんか!」

「じゃ、なんだよ、その顔? どう見たって泣き顔だぞ」

「馬鹿言わないで! あたいは怒ってるんだよ――!!」

 言い合うゼンとメールは、喧嘩をしているのに、なんだか仲よくじゃれ合っているようにも見えます。

 そんな二人の様子を見て、海の戦士たちの間に笑いが広がりました。意地っ張りな自分たちの大将と王女を、ほほえましく眺めます……。

 

 ところが、海の王子のザフだけは不満顔でした。ずっと一緒にいたメールは、今はゼンに抱かれて水蛇に乗っています。それをいまいましくにらみつけてつぶやきます。

「本当に、どうしてあんなヤツが渦王になるっていうんだ。あんなの、ただの下品な馬鹿じゃないか」

 ザフのすぐ隣には、シードッグに乗ったクリスとペルラがいました。ザフは二人に同意を求めてそんなことを言ったのですが、何も返事がなかったので、ますます不機嫌になりました。

「なんだ、クリス、ペルラ。さっきからどうしてそんなに静かなんだよ?」

 すると、クリスが口を開きました。

「悪いことは言わないから、メールのことはあきらめろ、ザフ。とてもおまえじゃ太刀打ちできないぞ」

 その真剣な口調にザフは驚きました。

「なんだい、それ!? 確かにぼくはクリスほど力はないけど、魔法だって使えるんだし、あんなヤツくらい――!」

「いいや、ぼくだってゼンには勝てない。兄上だって、きっと無理だ」

「兄上がゼンと一騎打ちして負けたって言うのは、本当のことだったのよ、ザフ」

 とペルラも言いますが、ザフはやっぱり信じません。怒ってシードッグと泳いでいってしまいます。

 

 クリスは、ゼンと一緒に水蛇に乗っているフルートへ目を移しました。金の鎧兜の勇者は、今はまた穏やかな表情に戻っていました。口喧嘩をするゼンとメールを笑いながら見ています。本当に優しげな顔をしていますが、深海ではペルラたちを救うために体を張って大イカと戦ったのです。戦い方は違っても、ゼンに負けない強さでした。

「あいつら、本当に何者なんだろうな……? あれでただの人間やドワーフだなんて、とても信じられないぞ」

 とクリスは言いました。深海からここまで、ずっと茫然とした顔つきをしています。

「そんなの、あたしにだってわからないわよ。――だから、彼らは金の石の勇者たちなんでしょう」

 とペルラは答え、自分もそっとフルートを眺めました。女のような顔をしながら、誰より勇敢な勇者です。なんとなくペルラの頬が赤く染まります……。

 

「ゼン様」

 とマグロと三匹のカジキが戦車を引いて泳ぎ寄ってきました。

「ご無事でなによりでした。どうぞまたお乗りください」

「おう、心配かけたな」

 魚たちには素直にそう言って、ゼンは戦車に飛び移りました。メールがそれに続きます。フルートとポチも、アルバの戦車に戻りました。

「さあ、行くぞ! とっととこの海域から離れて、魔王の追跡を振り切るんだ! 海流に戻ったらひと休みできるぞ。そこまで頑張れ!」

 ゼンが呼びかけると、おぉう! と海の戦士たちが応えます。

 ゼンたちの戦車を先頭に、海の大軍は再び海の中を動き出しました――。

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