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第13巻「海の王の戦い」

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15.三つ子

 夕映えが染める海の上を進んでいく三匹の生き物がいました。大きな犬のような姿をしていますが、その体に後足はなく、代わりに魚の尾があって、海を力強く泳いでいきます。それぞれ灰色、黒、ぶち模様の毛並みをしていて、尾の部分は銀のうろこにおおわれています。尾が海上に出るたびに、うろこが夕映えを返して赤く光ります。

 海の犬の上には、それぞれ人が乗っていました。少年が二人、少女が一人で、皆、青い髪と青い瞳をしています。海の民です。

 先頭を行く少年が振り向いて言いました。

「兄上とメールたちはどこだ!? まだわからないのか、ペルラ!?」

「もうちょっと待ってちょうだいよ、クリス! 今、シルフィードたちが戻ってくるのを待ってるんだから!」

 少女が答えると、最後尾の少年が尋ねました。

「大丈夫かい? このへんはもう東の大海じゃないんだ。シルフィードたちが迷子になるかもしれないぞ?」

「それはわかってるわよ、ザフ。だから、あんまり遠くまで送り出せないの。でも、さっき、渦王の島から戻ってきたシルフィードが、兄上たちは北へ出発したって教えてくれたから、方向はこれでいいはずなのよ」

 

 三人の少年少女たちは、海王の末の子どもたちでした。海の王子アルバの弟や妹です。三つ子で、上から名前をクリスターロ、ザフィーロ、ペルラと言い、少年たちは短い髪に銀の輪を、少女は長い髪に銅の輪をはめて、全員が丈の短い青い服を着ていました。素足にはいているのは、メールがいつもはいているのと同じような、編み上げのサンダルです。

 クリス、と呼ばれた先頭の少年が口を尖らせました。

「父上や兄上もひどいよなぁ。ぼくたちだけ城に置いてきぼりにして、叔父上の島に行っちゃうんだから。ぼくたち、あと三ヶ月で十四だぜ。もう一人前だっていうのに」

「渦王の島にはメールの婚約者が来てるんでしょう? メールったら、兄上と婚約解消して、別の男と結婚するなんて言うんですもの。信じられない!」

 と少女のペルラが言うと、最後尾のザフが大真面目な顔をしました。

「これは絶対に婚約者を確かめずにはいられないよね。もしも、そいつが大したことない男だったら――」

「もちろん、絶対阻止する! で、兄上とメールを結婚させるさ!」

 とクリスが口をはさむと、ザフはきっぱりと言いました。

「いいや、ぼくがメールと結婚するんだ。二年前、渦王と城に来たメールに会ってから、ずっとそう決めていたんだからな」

 たちまちクリスが苦笑し、ペルラは肩をすくめました。

「もう。ザフったら、まだメールをあきらめてなかったの? メールのほうで、ザフなんか選ばないったら。兄上さえ振られちゃったのよ?」

「そんなのわかるもんか! ぼくにはぼくの魅力があるんだからな」

「魅力? どこにどんな? 無力の間違いじゃないの?」

「そうそう。ザフは喧嘩はからっきしだもんな」

 とペルラとクリスが笑います。彼らは三つ子ですが、見た目はだいぶ違います。クリスは大柄でたくましい体つきですが、ザフのほうはひょろりと痩せていて、少し神経質な感じ、妹のペルラはすでに女性らしい体型をしていて、しかもかなり美人です。

 力がないことをからかわれてザフが怒りました。

「喧嘩が強いからいいってもんじゃないだろう! こっちはクリスみたいな体力馬鹿とは違うんだよ!」

「言ったなぁ。メールと結婚するには婚約者と戦って勝たなくちゃならないんだぞ! 叔父上は誰よりも強い男とメールを結婚させるって言ってるんだから!」

「勝ってやるさ! その婚約者と決闘してやる!」

「それ、無理なんじゃないの? 兄上が一騎打ちで負けたって言うじゃない? かなり強いヤツなんだと思うわよ」

「うるさいうるさい! ホントに、やってみなくちゃわかんないだろうが――!」

 見た目は違っていても、賑やかなところは三人ともそっくりでした。元気で気の強そうなあたりは、従姉妹のメールともよく似ています。

 

 すると、彼らが乗っている生き物が鳴き出しました。ウォンウォン、と犬の声でほえます。魚の尾を持つ犬たちは、その名もシードッグと言います。

 ペルラが空を見上げて言いました。

「シルフィードたちが戻ってきたわ。静かにして、クリス、ザフ。彼女たちの声はすごく聞き取りにくいんだから」

 海を駆け続ける犬の毛並が揺れ始めました。広い海の上を風が吹き渡ってきたのです。びょうぅ……と音をたてながら吹きつけてきて、三つ子の青い髪もなびかせます。

 ペルラは犬の頭にしがみついたまま、空を見上げていました。風の中を、透き通った若い女性たちが飛んでいました。ペルラのそばまで舞い下りてきては、何かをささやいていきます。

 それを見て、ザフが言いました。

「ぼくたちにもシルフィードの声が聞ければいいのにな。ペルラだけにしかできないんだから――」

「しっ、静かにしてろよ」

 とクリスがたしなめます。

 風の精は七、八人いました。透き通った服の裾をなびかせながら次々とペルラに舞い下り、すぐにまた風に乗って遠ざかっていきます。ほんの少しも留まることはありません。風は停まることができないのです……。

 

 シルフィードが全員通り過ぎていくと、ペルラは兄弟たちを振り向きました。

「わかったわ! 兄上たちは渦王の軍勢と一緒に、北へ向かう海流に乗ってるのよ! メールの婚約者だけでなく、金の石の勇者も一緒なんですって!」

「なんのために?」

 とザフが尋ねました。先の報告で兄やメールが渦王の島を出発したのは知っていたのですが、その理由まではわからないでいたのです。

「シルフィードが言うには、渦王が誘拐されたらしいって」

「渦王が? そんな馬鹿な!」

「渦王は父上と同じ力を持つ海の王だぞ! それを誘拐するだなんて――」

「魔王のしわざらしいわ。それで、渦王の軍勢と一緒に救出に向かっているんですって」

 とペルラは言い、シードッグの上で頭をかしげて見せました。

「どうする? そんなところに行ったら、邪魔だって叱られるかもしれないけど」

「行かなくてどうする! 叔父上がさらわれてるんだぞ!」

「婚約者がそこにいるなら、ぼくだって絶対に行くさ! 引き返すだなんて冗談じゃない!」

 少年たちが口々に答えます。

「じゃ、みんな意見は同じね。行きましょ。私たちも参戦よ」

「よしきた!!」

 三人は西へ向かっていたシードッグを北東へ方向転換させました。魔王が待ちかまえていると知っても、ためらうこともなく速度を上げます。本当にメールによく似た王子や王女たちです。

 そこは渦王の軍勢が進軍する場所より、もっと西の海域でした。夕映えがようやく夜に変わり、暗くなった空に星が光り出します。

「急げ、シードッグ! 夜通し駆けて兄上たちに追いつくんだ!」

 三つ子たちの声にせき立てられて、犬たちは夜の海に白いしぶきを立てて進み続けました――。

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