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第12巻「一角獣伝説の戦い」

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73.一団

 メイ城の裏庭に二頭の馬が駆け込んできました。乗っているのはポポロとルル、そしてメールを抱いたゼンです。秘密の通路から城を抜け出したフルート、ポチ、オリバンとセシルがそちらへ走ります。

 黄金城と呼ばれるメイ城に日の光は降りそそいでいますが、裏庭には樹が生い茂り、うっそうとした森のようになっていました。その薄暗がりの中で、仲間たちは駆け寄り一緒になりました。

「フルート!」

「ポポロ――!」

 馬を停めたとたん鞍から飛び降りてきた少女を、フルートはあわてて受け止めました。たちまちポポロが泣き出してしまいます。

「メールが……メールが大変なのよ……! 早くなんとかしないと……!」

 黒星の背中からメールを抱いたゼンが下りてきました。フルートたちがメイ城に出発するときにも弱っていた彼女ですが、今はもう自分で立つことも頭を上げることもできなくなって、力なくゼンの胸に寄りかかっていました。その顔は血の気をなくして真っ白です。

「メール!」

 とフルートたちは驚きました。ゼンが顔を歪めながら言います。

「また発作を起こしたんだ……。やっと目を覚ましたけどよ。力をなくしすぎてやがる」

 泣き出すのをこらえる顔と声でした。メールを片腕だけで抱き、もう一方の手でしっかりメールの手を握っています。

 

 すると、一同の間に黄金の髪と目の少年が姿を現しました。金の石の精霊です。細い眉をひそめてメールを眺めて言います。

「ずいぶん生気が失われているな。命も危ないくらいの状態だぞ。よくここまでたどり着けたな」

 フルートは急いで金のペンダントをはずし、メールの体に押し当てました。魔石は相変わらず輝きが鈍っていましたが、それでもメールの顔色はみるみる良くなっていきました。頬に血の気が通っていきます。

 メールがゼンの胸から頭を上げました。

「少し気分良くなってきた……。もう大丈夫だよ、ゼン。下ろしなよ」

 馬鹿言え! とゼンはどなり返し、強くメールを抱き直しました。顔色は良くなって話せるようになっても、それ以上のことができる状態ではなかったのです。

 金の石の精霊も言いました。

「ぼくは弱った体を元に戻すことはできるけど、失われた生気を復活させることはできない。安静にして、自然に生気が回復するのを待つしかないんだ。無理は禁物だぞ、メール」

 

 オリバンは大きく息を吐きました。

「これではメールは戦列に加われんな。デビルドラゴンと対決するというのに」

 今度はゼンたちが驚きました。

「やっぱり、ヤツはここにいやがったのか!」

「いったいどこに隠れていたのよ!?」

 そこで、フルートは手早く真相を話して聞かせました。ちっくしょう! とゼンがわめきます。

「で、どうするんだ!? 一度都の外に出て、改めてヤツをぶっ飛ばしに来るか!?」

「そんな時間はない!」

 とセシルが叫ぶように言いました。

「ロダはメイ王になると言っていた! あいつにメイ城を奪われる――!」

 フルートはうなずきました。

「そう、それに、城中がぼくらを捜しているから、一度外に出たら、また侵入するのが難しくなってしまう。メイがロダのものになったら、次に狙われるのはジタンとロムドだ。メイ城を死守しなくちゃならない」

 でも、どうやって? とルルが尋ねました。

「メールはこの通りだし、私やポチは風の犬に変身できないわ。ポポロも今日の魔法は使い切っているのよ!」

「ロダを見つけたら、今度こそ金の石であいつからデビルドラゴンを追い払う。問題は、奴がどこにいるかなんだ。――ポポロ、ロダの居場所はわかる?」

 フルートに聞かれて、ポポロは、ううん、と首を振りました。また涙ぐんでしまっています。魔王やデビルドラゴンの居場所は、光の魔法使いである彼女には見えないのです。

 すると、セシルが突然城へ駆け出そうとしました。あわてたオリバンに止められます。

「どこへ行く!?」

「女王の執務室だ! ロダは城を奪うのに義母上を殺そうとする! ロダはあそこに姿を現すに違いないんだ――!」

「落ち着け! このままでは、そこまでたどり着けん。あなたは丸腰だぞ!」

 オリバンの言うとおり、セシルは自分の剣を皇太子の部屋に残してきて、何一つ武器を持っていませんでした。それでも、オリバンを振り切って城へ向かおうとします。

「放せ! メイを守らなくてはならないんだ! 義母上とハロルドを殺されてたまるか――!!」

「セシル!」

 オリバンが必死で抱きとめます。

 

 その時、ポチがふいに、ぴんと耳を立てました。ちょっと首をかしげて言います。

「ワン、我らを使え? 金の石、そう言いましたか?」

 精霊の少年は、たちまちむっとして、腕組みしました。

「何のことだ? ぼくは何も言っていないぞ」

「ワン、じゃあ、願い石の精霊――? ううん、そんなはずないな。今のは女の人の声じゃなかったもの」

 子犬が意外そうな顔でさらに耳を澄ましていると、ふいにセシルが抵抗をやめて叫びました。

「誰だ――!?」

「なんだ?」

 と今度はオリバンが驚きました。大勢が城の内外を駆け回って彼らを捜していますが、まだ周囲に人影はありません。セシルはとまどってあたりを見回しました。

「今、声がしたのだ。確かに、自分たちを使え、と言っていた……」

「自分たち?」

 オリバンはさらに驚きました。セシルのすぐそばにいたのに、そんな声は聞こえなかったのです。すると、ポチがセシルの周りをぐるぐる回り、やがて彼女に前足をかけて伸び上がりました。

「ワン、これですよ。セシルを呼んでるのは」

 それは小さな銀の笛のような、短い金属の筒でした。セシルの腰のベルトから、鎖でつり下げられています。いつの間に、とセシルは目を丸くしました。こんなものを身につけた覚えなどなかったのです。

 

 すると、ケンケーンと声がして、筒の中から次々と小さなものが飛び出してきました。手のひらに載るほど小さな五匹の狐――管狐です。木から木へ飛び回り、セシルの目の前へ下りると、ひとつに溶け合って、見上げるような灰色の大狐に変わります。

 オリバンがとっさに剣で斬りかかろうとすると、セシルがそれを止めました。

「待って! 敵意を感じない!」

 ポチも言いました。

「ワン、話しかけてきたのはこの管狐ですよ。自分たちを使えって、セシルに言ってます」

「ああ、私にもそう聞こえる――」

 とセシルは言って、巨大な狐を見ました。狐のほうでも、じっとセシルを見下ろします。襲ってくる様子はありません。

 やがて、セシルは言いました。

「助けてくれるというのか、我々を? 私はおまえたちの主ではないというのに」

 すると、ケーン、と大狐が高く鳴きました。笑うような声です。

 ポチがまた言いました。

「ワン、管狐が言ってますよ。自分たちはもう誰のものでもないから、自分たちのしたいことをする。だから、セシルを手伝ってやるんだ、って」

 セシルは笑顔になりました。大狐に手を差し伸べて言います。

「ありがとう――」

 狐が巨大な頭をセシルの両手に押しつけます。

 

 彼らを捜し回る人々の声が迫っていました。いたぞ、こっちだ、とどなる声が聞こえます。木立の奥に隠してあったフルートたちの馬が発見されたのです。大勢がこちらへ向かってくる気配がします。

 大狐が一同の前に立って頭を大きく振りました。自分についてこい、と言うようです。わかった、とセシルは答え、フルートたちに言いました。

「行くぞ。城の中に戻る!」

「よし!」

 フルートが答えたとたん、大狐がひらりと宙に飛び上がりました。地上に舞い下り駆け出します。セシルと勇者の一行がそれに続きます。オリバン、フルート、ポポロ、ポチとルル、そしてメールを抱きかかえたゼン。精霊の少年はいつの間にか姿を消し、金の石がフルートの胸で光ります。

 全員は一団となって、メイ城の正面玄関へ向かっていきました――。

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