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第12巻「一角獣伝説の戦い」

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第18章 象戦車

61.竜の隠れ家

 朝日が昇って、あたりはすっかり明るくなりました。冷たい朝靄が空に昇って消え、空が青くなっていきます。

 ようやく泣きやんだセシルに、フルートが話しかけました。

「さあ、早くメイ城に行かなくちゃね。ハロルド皇太子を助けなくちゃ」

 セシルはうなずきましたが、自分がずっとオリバンに抱かれていたことに気がつくと、赤くなって離れました。

「もう大丈夫だ――ありがとう」

 オリバンは残念そうな表情になりましたが、セシルは目を合わせません。

 そんな二人を見て見ぬふりしながら、ポチが言いました。

「メイ城に行くのはいいけれど、充分注意しなくちゃいけませんよ。きっとあそこにデビルドラゴンがいるんだから」

「感じるのかい?」

 とフルートが尋ねると、子犬は首をかしげました。

「ワン、ぼくにはポポロやルルみたいに、闇の気配をつかむことはできませんよ。ただ、今もまだ変身できないから――。フルートに金の石が戻ってきたから、もうぼくらの姿は闇の目には見えなくなってるはずなんです。それなのに、ぼくはまだ風の犬になれない。このあたり一帯が、闇の魔法の支配下にあるんですよ。この近くにデビルドラゴンがいて、ぼくらが近づいてくるのに用心して備えているんだと思います。だとしたら、奴がいるのは、きっとメイ城です」

 フルートはうなずきました。

「そうだね。ぼくもそう思う……。セシルは奴に取り憑かれていなかったんだから、誰か別の人物のそばにデビルドラゴンがいるんだ。それは、メイ城の中の誰かだよ」

「メイ女王か?」

 と今度はオリバンが尋ねます。フルートは考え込みました。

「どうだろう……。もし、女王がデビルドラゴンと組んでいたら、今頃セシルはとっくに死んでたんじゃないかな。それに、ぼくらにも軍勢を差し向けてきたはずだ。女王は、ぼくらが金の石の勇者の一行だってことに、まだ気がついてないんじゃないかな」

「だが、女王付きの魔法使いのロダは、我々と戦ったときに、我々の正体を知ったではないか。ランジュールから聞かされたのだからな。それなのに、女王がその事実を知らないのだとすると――」

「ワン、ロダが女王にぼくらの正体を黙っている、ってことですね」

「どうしてそんなことを……?」

 とセシルが驚くと、二人と一匹の勇者たちは即座に答えました。

「もちろん、ロダのそばにデビルドラゴンがいるからだ!」

 

 いっそう驚いたセシルに、フルートは話し続けました。

「二ヶ月前、神の都のミコンで、デビルドラゴンは聖なる光に追われて姿を消した。その後、奴はサータマンとメイの両国の軍隊に闇の力を貸して、ロムドのジタン山脈を襲撃したけれど、奴自身は姿を隠していて、どこにいるのかわからなかった――。奴は、このメイにいたんだ。サータマン王の前にも姿を現して、闇の石を貸し与えたけど、本体はずっとメイ城にいて、そこからぼくたちに闇の手を伸ばしていたんだよ。奴が直接命じているのは、おそらくロダだ。ジタン山脈襲撃をメイ女王に持ちかけたのも、きっと彼なんだよ」

「ワン、女王から信任の厚い魔法使いですからね。女王だって、ロダの言うことは信じるだろうな」

「かつてのザカラス城と同じだな……。あの時にも、デビルドラゴンは魔法使いのジーヤ・ドゥに働きかけて、自分の思い通りに動かしていた。乗り移って魔王にしたのではなく、そのすぐそばにいたのだ」

 とオリバンも言います。

 すると、セシルが急に気がついた顔になりました。

「ロダはハロルドのそばによく出入りしている。彼は治療の魔法も使えるからだ。だが、それが本当だとすると、ハロルドの具合が急に悪くなったのは――」

「ワン、皇太子が倒れたのって、ミコンからデビルドラゴンが姿を消したのと、ほとんど同時期でしたよね。きっと、それも奴らのしわざだったんですよ。結局、ジタンのこともメイのことも、全部デビルドラゴンが裏で糸を引いていたんだ」

 なんということ――! とセシルが歯ぎしりします。

 

 フルートは仲間たちに言いました。

「ハロルド皇太子を助けにメイ城に行く。そして、デビルドラゴンを見つけ出すんだ。奴はメイ女王を正式に国王にした。きっと、またメイにロムドを襲撃させるつもりなんだ!」

「ワン、見つからないように、こっそり城に忍び込まなくちゃいけないですね。セシル、秘密の通路とかありますか?」

「今はもう使われていない古い通路を使えば、誰にも見られらずにハロルドのところへ行ける」

 フルートはうなずきました。

「案内して、セシル。一刻も早くメイからデビルドラゴンを追い払おう。そして、急いでナージャの森に戻るんだ。女王の差し向けた軍勢が迫っている」

 えっ、とセシルはまた声を上げました。すぐさま自分の馬に飛び乗ります。

「ついてこい! 一番人目につかない門から都に入って、城に忍び込むぞ――!」

 そこで、フルートやオリバンたちも馬に乗り、セシルの後について駆け出しました。

 朝日が差す丘を、三頭の馬がまっすぐ駆け下りていきます。先頭を行くのは長い金髪と黒いマントをひるがえしているセシルです。そのすぐ後ろに、金の鎧兜のフルートといぶし銀の鎧兜のオリバンが続きます。その姿はなんだか、馬に乗って駆ける女神と、それを守る戦士たちのようにも見えます。

 蹄の音を響かせながら、彼らは王都ジュカへと向かっていきました――。

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