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第12巻「一角獣伝説の戦い」

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51.妨害

 「隊長は死ぬつもりだ」

 とタニラが言ったので、その場の全員はぎょっとしました。大柄な女戦士は真剣そのものでした。

「メイ女王が正式に王座に就いたのだ。今、隊長が城に行けば、隊長はすぐに捕まって、罪状をでっち上げられて処刑される。だが、それも覚悟で城に向かわれたんだ。ハロルド殿下を救うために――」

「行きましょう! 隊長を助けなくては!」

 女騎士たちが声を上げ、いっせいに自分の馬へ駆け寄りました。あっという間に鞍に飛び乗り、百騎の騎馬隊に変わります。その先頭で、ひときわ大きな馬にまたがったタニラが声を上げました。

「我々はナージャの女騎士団だ! 我々が戦うのは、ただセシル隊長のためだけ! 行くぞ。メイ女王から隊長を守るんだ!」

 蹄の音を響かせて騎馬隊が駆け出します。

 フルートたちもあわてて自分の馬に飛び乗りました。女騎士団の後を追いながら、互いに話し合います。

「ど――どういうことだよ、いったい!? どっちが本当なんだ!?」

「わからないよ。彼女たちが言うことは、すごくもっともだと思うけれど――」

「ワン、セシルはハロルド王子を助けようとして、デビルドラゴンを呼んじゃったんだろうか?」

「ねえさぁ、それって本当にそうなの!? あたい、なんか信じられないよ! セシル、そんな感じは全然しなかったじゃないのさ!」

「悔しいけど、私もメールに賛成。たとえ潜んでいるだけでも、デビルドラゴンがそばにいたら、絶対私には匂いでわかったはずなのよ。ポポロだって何かしら感じたはずなのに」

 ルルのことばにポポロがうなずきます。

 オリバンがうなるように言いました。

「とにかくセシルに追いついて連れ戻すのだ。このまま彼女をメイ城に行かせるわけにはいかん」

 それは誰もが一致して思っていることでした。王都のある西に向かって馬を急がせます。

 

 すると、前を行く女騎士団の先頭で急に騒ぎが起きました。叫び声と共に武器を抜く音が聞こえ、耳障りな、気味の悪い声が響きます。

「ギニャァァ――金の石ノ勇者はドコだ――!?」

 フルートたちは思わず手綱を引いて停まりました。

 行く手に怪物たちが姿を現していました。猫に似た顔に人のような体をしていて、頭に二本の角が生えています。何もいなかった場所に煙のように湧き出してきて、たちまち数十匹の集団になります。

「闇の怪物だ!」

 とフルートは思わず叫びました。彼らの姿を闇から隠していた金の石がなくなったので、フルートが見つかってしまったのです。すると、ポチが言いました。

「ワン、それにしても出現が早すぎます。デビルドラゴンが送り込んできたんだ!」

「行くぞ! 女騎士団では闇の怪物と戦えん!」

 オリバンがまた馬で駆け出しました。腰から抜いたのは、闇を散らす聖なる剣です。先頭にいたタニラより前に飛び出すと、猫のような怪物に切りつけます。とたんに、ギャーッと悲鳴が響いて、一匹が霧のように消え去りました。

「こいつらは闇の怪物だ! 通常の武器では殺せん! 首をはねて火で焼き尽くせ!」

 とオリバンが女騎士たちにどなりましたが、騎馬隊の彼女たちは火など持ち歩きません。とまどっていると、その前にフルートも飛び出してきました。女騎士の一人に飛びかかってきた怪物を、一太刀で切り払います。とたんに怪物は火を吹いて燃え上がりました。

「皆さんは怪物の首を切って! ぼくが燃やします!」

 とフルートは叫びました。また別の怪物に切りつけますが、怪物は素早くそれをかわしました。少年の頭上から襲いかかります。女騎士たちが、あっと思った瞬間、少年の剣がためらいもなく怪物を貫きました。炎を吹いて怪物が地面に落ちます。

「すごい……」

 女騎士たちが驚くと、その間をぬうようにしてゼンとメールが前に出てきました。

「へっ、当然だろうが! あれでもあいつは金の石の勇者だぞ!」

「そうそう。そして、あたいたちはその勇者の仲間! あたいたちが怪物の動きを止めるから、その間に怪物の首をはねなよ!」

 走る馬の上で、メールは片手を上げていました。花たち! と高く呼びかけると、ざーっと色とりどりの群れが空を飛んできて、猫の怪物に襲いかかります。花が蔓を伸ばして怪物を捕まえると、ゼンが飛びかかり、素手で首を折ってしまいます。

 ポチとルルは犬の姿のままで走っていました。

「ワン、あいつらの目を攻撃しましょう、ルル。あそこなら大きくて狙いやすそうだ」

「そうね。風の犬になれなくても戦えるってこと、デビルドラゴンに思い知らせてやるわ」

 それぞれにうなり声を上げ、怪物に飛びかかって激しくかみつきます。

 

 女騎士たちは我に返りました。目の前で勇者の一行が戦っています。怪物はゼンに首を折られても平気で動いていますが、オリバンの剣で切られると、幻のように消え去りました。フルートに切られた怪物は次々に燃え上がっていきます。

「戦え! 怪物の首を切り落とすぞ!」

 とタニラがどなり、女騎士たちもいっせいに怪物に向かっていきました。蔓に絡みつかれて動けなくなった怪物を槍で貫き、剣で首を切り落とします。そこにフルートやオリバンがとどめを刺すと、怪物は火を吹き、黒い霧になって消えました。たちまち怪物の数が減っていきます。

 

 すると、後ろから急にポポロが声を上げました。

「気をつけて! 別の怪物が出てくるわ!」

 また新しい怪物の集団が姿を現しました。たちまちウィーウィーと賑やかな声でいっぱいになります。それは手に手に剣や槍を握り、古ぼけた鎧を身につけた豚の怪物たちでした。

「ワン、オークだ!」

 とポチが声を上げると、怪物たちがいっせいに言いました。

「金の石のぉ勇者――」

「金の石の勇者はどぉこだぁぁ――?」

「体をみんなぁで引き裂いてやるぞ」

「肉も骨もみんなぁで食い尽くしてやる」

「願い石がぁ出てきたら、そいつが大当たりだぁぁ!」

 フルートは思わず顔をしかめました。例によって、願い石を狙って襲ってきたのです。

 すると、オークたちがまた消えていきました。どこにも姿が見えなくなります。一同が驚いていると、突然一頭の馬が後足立ちになり、乗っていた女騎士が地面に放り出されました。いななく馬の首が目の前で血を吹いて飛び、続いてその体がばらばらになっていきます。見えない何かが馬を引き裂いているのです。

 あまりのことに声も出せなくなった女騎士にも、何かが襲いかかってきました。兜がむしり取られ、首を絞められますが、敵の姿は見えません。

 すると、そこへオリバンがやってきました。女騎士の上で剣を振ると、ぎゃぁっと悲鳴が上がり、オークが姿を現しました。次の瞬間には崩れて消えていきます。

「いたかぁ!?」

「こいつがぁ金の石の勇者か!?」

「それともあいつかぁ――!?」

 オークたちの声だけが響きます。どれが目的の勇者かわからなくて、オリバンや女騎士団に手当たり次第に襲いかかっていきます。姿を消したままなので、女騎士たちには抵抗のしようがありません。

 

 フルートは唇をかみました。

 剣を握ったまま馬の腹を蹴り、一人先へと駆け出し、離れた場所から振り返って叫びます。

「どこを見ている、怪物ども!! 金の石の勇者はぼくだ!! 願い石はここにあるんだぞ――!!」

 フルート! と仲間たちは思わずうめきました。何を経験しても、フルートの根本は変わりません。女騎士団から怪物を引き離すために、わざと自分へ怪物を呼び寄せているのです。

 オークたちがまた姿を現しました。金の鎧兜を着た少年を見て、唾を飛ばしながらわめきます。

「あいつだ! あいつが金の石の勇者だぁ!」

「そうだぁ。金の鎧をぉ着てるじゃないか!」

「願い石をよこせぇぇ――!」

 集団でフルートへ殺到してきます。まだ生き残っていた猫の怪物も一緒です。フルートは身構えました。闇の怪物を一瞬で溶かす金の石は、今は手元にありません。剣で撃退しようとします。

 するとメールが言いました。

「花たち!」

 雨のような音と共に花の群れが飛んできて、怪物の群れに襲いかかりました。あっという間に蔓の網の中に閉じこめてしまいます。

 それをかわして高く飛び上がった怪物がいました。角を生やした猫です。鋭い爪でフルートを切り裂こうとします。

 すると、それより早く白い矢が飛んできて、怪物の咽を貫きました。花を操るメールの隣で、ゼンがもう次の矢を放ちます。頭を射抜かれて地面に落ちた怪物に、フルートがとどめを刺します。

 ゼンは振り向いてどなりました。

「行け、ポポロ!」

 ゼンやメールの後ろにポポロが立っていました。馬を下りて片手を高く差し上げています。その服は、青と白の乗馬服から黒い星空の衣に変わっていました。呪文の声が響きます。

「ローデローデヨリカヒローデ……セケオキテ!」

 たちまちポポロの全身から強い光がほとばしりました――。

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