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第12巻「一角獣伝説の戦い」

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38.勇者たち

 王女は呆気にとられました。自分より小柄な少年が、巨大なトロルを素手でひっくり返したのです。

 すると、オリバンが言いました。

「前にも話したが、ゼンは怪力のドワーフの血を引いている。見た目は人間のようだが、中身はどんなドワーフよりもドワーフらしい奴なのだ」

 ゼンがトロルの上に飛び上がっていました。怪物の胸に勢いよく膝蹴りを食らわせます。大岩のようなトロルの体と比べれば、あまりにちっぽけに見えるゼンですが、膝が胸板にめり込むと、怪物は大きなうめき声を上げました。仰向けに倒れたまま、体を引きつらせます。

 ゼンはそこから飛びのいて振り向きました。

「よし、いいぞ、フルート!」

 いつの間にか風の犬のポチがフルートを背に乗せていました。うなりを上げながらトロルへ飛んできます。

 すると、魔獣使いのロダの回りから、ばっと花が飛び散りました。魔法で花を跳ね返したのです。

「させんぞ、金の石の勇者! これでも食らえ!」

 と両手から次々と魔法の弾を撃ち出します。

 とたんに、フルートの胸から金の光がほとばしりました。ペンダントの真ん中で金の石が強く輝きだしたのです。フルートとポチを光で包み、魔法の攻撃を砕いてしまいます。

 金の光はゼンには届いていませんでした。そのゼンにもロダの魔法攻撃は襲いかかります。ところが、こちらはゼンの体に触れる直前に、溶けるように消えていってしまいました。ゼンが身につけている防具が魔法を解除したのです。

「へっ、見たか! 俺たちには魔法攻撃は効かねえぜ!」

 とゼンが笑います。

 ロダが呆然とする目の前で、ポチはもうトロルのすぐ上まで来ていました。背中からフルートが飛び下ります。両手に握った剣の切っ先を下に向けて、巨人へ落ちていきます。

 

 フルートの剣がトロルの体を貫いたとたん、猛烈な炎がわき起こりました。渦を巻き、あっという間に巨人を包み込んでしまいます。

 同じ炎はフルートも捕まえました。トロルの上に落ちていった勇者の少年を炎の海に沈めてしまいます。

 呆然としていたロダが笑い出しました。

「馬鹿め! 自分の火で自分が焼かれるとは間抜けな話だ!」

 王女も真っ青になっていました。オリバンに飛びついて叫びます。

「早く! 彼を助けろ!」

 ところがオリバンは焦っていませんでした。他の仲間たちも平然と炎を見ています。

「大丈夫だ」

 とオリバンがまた短く言います。

 すると、燃える火の中から、いきなり小さな炎が飛び出してきました。ロダへ向かって飛んでいきます。

 ロダは手を上げてそれを砕き、いぶかしい顔をしました。炎の中から何かが姿を現します。

 それはフルートでした。金の鎧兜に炎の赤を映し、手には大きな剣を握っています。刀身はやはり炎を映して赤く燃え、黒い柄の中で小さな宝石が血のように輝いています。

「貴様……火の中でも平気なのか!?」

 とロダは驚きました。

「ぼくが着ている鎧は特別製だから」

 とフルートが答えました。静かな声ですが、その目は鋭く相手を見つめ続けています。

「言え。おまえは誰の命令でセシル姫を狙っている? 女王でないとしたら、おまえの主人は誰だ? おまえたちの目的はなんだ?」

 

 セシル王女は自分の目が信じられずにいました。

 女装をすれば本物の女にしか見えない、優しい顔と華奢な体つきの少年です。それなのに、そこにいるのは紛れもない勇者でした。燃えさかる炎から抜け出し、魔法使いにまっすぐ向かっていきます。

 ロダは思わず後ずさり、そんな自分に歯ぎしりをしました。

「ええい、生意気な! くたばれ、金の石の勇者!」

 片手を差し向けたとたん、フルートの背後にまた怪物が現れました。地中から真っ黒な塊が飛び出して、巨大な口に変わり、鋭い牙でフルートにかみついてきます。マンイーターです。

 ところが、それより早く、怪物の口にゼンの矢が飛び込みました。甲高い悲鳴を上げた怪物に、変身したルルが襲いかかり、風の刃でずたずたにします。

 フルートはそれを振り向きもしませんでした。ただ魔獣使いを見据えながら、ゆっくりと歩み寄っていきます。あと二、三歩という距離まで迫ります。

「この!」

 ロダがまた魔法攻撃を繰り出しました。稲妻がフルートを直撃します。

 また金の光が広がりました。フルートを中に包んで守ります。

 フルートは剣を握り直しました。両手で高く構え、男に向かって振り下ろそうとします――。

 

 その時、ポポロの声が響きました。

「フルート、後ろ!」

 フルートは、とっさに振り向きました。構えていた炎の剣で後ろをなぎ払います。

 とたんに、何もいないはずの空間から、ぎゃあっと悲鳴が上がって炎がわき起こりました。見えない怪物がいたのです。炎の塊が転げ回り、燃えながら小さくなっていきます。 

 それと同時に、ロダも胸を押さえてうめきました。青ざめた顔から脂汗を流し、駆けつけてくるポポロをにらみつけます。

「貴様、魔法使いか……。気配もさせずにいるとは油断した。死ね!」

 巨大な魔法の弾をポポロに繰り出します。一瞬のことで、誰も助けに行くことができません。思わず立ちすくんだ少女に、魔法がまともに激突して、真昼の太陽より明るく光ります。

「ポポロ!!」

 フルートは金の石をつかんで駆け出しました。癒しの力で助けようとします。

 けれども、ポポロは倒れていませんでした。光が消えていく中、着ていた乗馬服がみるみる色と形を変え、黒い長衣になっていきます。星空の衣がポポロを魔法から守ったのです。

「大丈夫よ」

 とポポロは言いました。

「それより気をつけて――。見えない怪物はまだいるわ!」

 

 とたんにゼンが吹き飛びました。何かに殴り飛ばされたのです。

「ってぇ――! どこだ、この野郎!?」

 跳ね起きて、たった今殴られた場所へ反撃しますが、ゼンの拳は空振りしてしまいました。よろめいて前のめりになった後頭部に、また強烈な一撃を食らいます。

 フルートにも見えない怪物が襲いかかってきました。フルートの両手両脚にしがみつき、身動きが取れなくします。首にかかった金の鎖も強く引っ張られます。ペンダントを奪い取ろうとしているのです。フルートは抵抗しようとしましたが動けません。

 ポチは犬の姿に戻ると、敵の気配がする場所に飛びかかりました。思いきり牙を立てると、ぎゃっと悲鳴が上がり、フルートの右腕をつかむ力がゆるみます。

 フルートはとっさに金の石をつかみました。見えない敵とペンダントの奪い合いになります。ポチがまたそこへ飛びつきましたが、今度は跳ね飛ばされてしまいました。

 

 すると、突然セシル王女が声を上げました。驚いた顔で自分の右手を左手で抑えています。レイピアを持つ手が勝手に動き出していました。細い剣の切っ先が狙いをつけたのは、すぐ目の前にいるオリバンです。

「逃げろ! 止められない!」

 と王女は叫びました。剣が王女の意志に関係なく攻撃を始めたのです。

 オリバンは逃げませんでした。逆に王女の剣を自分の剣で受け止め、払いのけます。たちまちレイピアが飛ばされて地面に落ちます。

 とたんに、王女の手を操る力が消えました。王女は真っ青な顔であえいでいました。それを背中にかばいながら、オリバンはさらに剣を構えました。落ちたレイピアがふわりと浮き上がり、空中で王女に狙いをつけます。

 すると、また王女が悲鳴を上げました。今度は後ろから襲われたのです。見えない手が細い首をぐいぐいと締め上げてきます。

「しまった!」

 オリバンは助けようとしましたが、とたんにレイピアが襲ってきました。激しい攻撃を受け止めるので手一杯になってしまいます。

 王女は首を抑えてうめいていました。指が咽に食い込んでくる感触がします。見えない人間がそこにいるのです。息が詰まり、次第に意識が遠のいていきます。

「セシル!」

 とオリバンは叫びました――。

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