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第12巻「一角獣伝説の戦い」

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29.人狼(じんろう)

 「気をつけろ、みんな! 人狼だ!」

 とフルートは叫んで切りかかっていきました。

 二人の貴族は全身黒い毛を生やした怪物に変わっていました。人のような形をしていますが、顔と耳が尖り口が裂けたオオカミの頭になっています。獣の身軽さでフルートの剣をかわし、驚くほど高く宙に飛び上がります。

「行けよ、兄弟。王女はおまえに食わせてやる。その代わり、雑魚(ざこ)は全部俺様の胃袋の中だ」

「そりゃ不公平だろう。こんなにたくさん餌がいるんだ。俺にもよこせよ」

 怪物同士でそんな話をしながら飛び下りていった先は、人ではなく王女の馬車でした。二頭の馬に飛びかかり、一口で頭をかみ切ってしまいます。馬たちはどうとその場に倒れ、御者は悲鳴を上げて逃げ出しました。

「へへ。さあ、これで逃げる方法はなくなった」

「ゆっくりとご馳走を食わせてもらうぜ」

 と怪物がまた口々に言いました。一匹はメールへ、もう一匹はオリバンへ飛びかかっていきます。

 すると、メールの前にゼンが飛び出しました。

「させるかよ、この馬鹿犬!」

 たちまち巨大な怪物が吹き飛んで地面に転がりました。顔面にまともにゼンの拳を食らったのです。

 オリバンの前にはルルとポチが飛び出しました。ほえながら人狼に猛烈にかみついていきます。人狼は犬たちを払いのけ、またオリバンへ飛びかかりました。オリバンは祝宴用の正装をしていて、武器を持っていません。

 すると、オリバンは素早くマントを外しました。襲いかかってくる人狼から身をかわしながら、頭からマントをかぶせてしまいます。人狼が視界をさえぎられて地面に落ちると、剣が怪物を串刺しにしました。怪物の絶叫が響きます。

 オリバンは剣の主を振り向きました。セシル王女でした。怪物が動かなくなったのを見て、レイピアを引き抜き、オリバンに言います。

「おまえのマントに穴を開けてしまったな」

「いや、助かった。さすがだな」

 とオリバンが答えます。その顔が微笑しているように見えて、王女はとまどいました。なんだ? と口を尖らせて聞き返します。

 

 ところが、オリバンが答えるより早く別の怪物が飛んできて、マントに包まれた怪物に激突しました。二匹折り重なって地面に転がります。

「突き刺したぐらいで安心するな! そいつらは闇の怪物だぞ!」

 怪物を投げつけてきたのはゼンでした。なに? とオリバンたちがまた身構えると、怪物たちが立ち上がってきました。王女の剣に刺された人狼も、起き上がってマントを跳ね飛ばします。マントに血の痕はありますが、怪物の傷は跡形もなく消えていました。

「なるほど、確かに闇の怪物だな」

 と言いながらオリバンは後ろに王女をかばいました。オリバンは丸腰ですが、王女の剣も闇の敵には効果がないのです。

 すると、二人の前に少年たちが飛び出してきました。ゼンが襲いかかってきた怪物をがっちりと受け止め、フルートが目にも止まらない素早さで剣を繰り出します。たちまち怪物が投げ飛ばされ、もう一匹も血しぶきと共に傷を負います。どちらもすぐにまた起き上がりますが、顔を寄せて話し合いを始めました。

「こいつら手強いぞ、兄弟。どうする」

「どうするも、王女だけは殺さなくちゃいけないだろう。それが命令だからな。他の奴らは無視しろ」

「でも、惜しいよなぁ。こんなにうまそうな餌が並んでるってェのに」

 ぶつぶつ言いながら二匹の怪物はまた飛び上がりました。少年たちの頭上を飛び越えて、王女に襲いかかっていきます。

 

 すると、オリバンがいきなり王女の手からレイピアをもぎ取りました。先に飛びかかってきた人狼の左目を突き刺します。怪物が悲鳴を上げて倒れます。

「もう一匹だ!」

 とゼンがどなりました。二匹目の人狼が王女へ飛びかかっていくところでした。オリバンの剣は間に合いません。

 とたんに少女の声が響きました。

「花たち!」

 ざぁっと雨が降るような音がわき起こって、闇の中を何かが飛んできました。あっという間に王女の前まで来て怪物に飛びつきます。怪物は地面に落ちると、転げ回りながらすさまじい声を上げました。自分にまとわりついているものを必死で払いのけようとしています。

 一輪の花が王女の肩に落ちてきました。白い花びらを震わせたと思うと、蝶のようにまた飛び上がっていきます。王女は呆気にとられました。空を飛んできて怪物に襲いかかったのは、森に咲いている花の群れだったのです。

 フルートが背中からもう一本の剣を引き抜きました。

「オリバン、これを――!」

 と投げ渡します。左手でそれを受けとったオリバンは、花に襲われている怪物に切りつけました。夜の中に黒と銀の刀身がひらめき、怪物が真っ二つになります。

 侍女姿の長身の少女があわてたようにまた言いました。

「花たち、お戻り!」

 花が再び雨のような音を立てて怪物を離れたとたん、怪物の体が、ぼっと火を吹きました。炎の渦を巻きながら燃えていきます。

 

「火の魔剣!」

 ともう一匹の怪物が左目を押さえながらわめきました。

「やけにまぶしく光る連中だと思ったら、そういうことか! おまえ――おまえらは――」

 その瞬間、今度はフルートの剣がひらめきました。銀の閃光と共に怪物の首を切り落とします。

 ぽーんと宙を飛び、血をまき散らして転がった怪物の首が、地面の上からわめき続けました。

「おまえらの正体は、金の石の勇者と仲間たちだ! いまいましい光の戦士どもだ!」

「ポポロ!」

 とフルートは叫びました。いつの間にか、そのかたわらに小柄な少女が駆けつけていました。赤い髪をお下げに結って、きらきらと光る黒い長衣を着ています。

「ロエーモヨウロンジノミーヤ!」

 と鋭く片手を怪物へ突きつけると、とたんに怪物の頭が巨大な炎に包まれました。首を失って倒れた体も火柱を吹き上げて燃え上がります。その火勢のすさまじさに一同は思わず後ずさりました。お下げの少女が顔をおおい、ごめんなさい、と謝ります……。

 

 怪物が燃える炎に、森の中は真昼のように明るくなっていました。両手に剣を持ったオリバンと二人の少年と二人の少女、二匹の犬たち、そしてメイの王女が、揺れる炎に赤々と照らし出されます。

 驚いていた王女が、やがて細い眉をひそめました。

「金の石の勇者だと――?」

 と言って真剣な表情になります。

「そうだ、聞いたことがある。ロムドの国には金の石の勇者と呼ばれる男とその仲間がいるのだ。金の石の勇者は不思議な魔石と火の魔剣を持っているし、そのお供には魔法使いや怪力の大男がいると言う――。それは、おまえたちのことだったのだな。つまり、おまえたちはロムド人だったのだ。そうだろう、金の石の勇者!?」

 そう言って王女が見たのは、フルートではありませんでした。見上げるように大きくて立派なオリバンです。

 オリバンは肩をすくめ返しました。

「残念だがそれは違う、セシル姫。私は金の石の勇者ではない」

 王女は、かっと顔を赤くしました。

「ごまかすつもりか!? 敵国の犬が!! メイに入り込んで何を企んでいる!?」

「いや、ごまかしているわけではない。私は確かにロムド人だが、金の石の勇者ではないのだ。私はただの仲間だ。本物の勇者はそこにいる」

 とオリバンが指さした先を振り向いて、王女はいぶかしい顔になりました。そこには勇者などいなかったのです。立っていたのは、一人の小柄な少年でした。少女のように優しい顔と、少し癖のある短い金髪をしています。炎を映す鎧は、光り輝く金色です――。

 

 え? と王女は思わず声を上げました。まじまじと少年を見つめ直し、あわててまた振り向きます。

 オリバンは苦笑いを浮かべていました。その脇に立つ他の仲間たちも似たような表情です。無言の肯定でした。

 王女は、ぽかんと口を開けて少年を見ました。信じられないのに、ことばが口から飛び出します。

「おまえが金の石の勇者なのか? ――おまえが!?」

「そうです……すみません」

 とフルートは答えると、女装を見抜かれてしまったときのように、顔を赤らめてうつむきました――。

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