窓のないの一室で、二人の人物が話し合っていました。
テーブルの上の燭台(しょくだい)が彼らを照らします。部屋に他に人影はありません。
「では、やはり始末することに」
と一人が言いました。茶色の髪と口ひげの男で、口調は上品そうです。
「このままでは王室は崩壊する。女王陛下はなんとしてもそれを食い止めようとお考えだ」
ともう一人が言います。こちらは銀に近い金髪で、先の男より年配です。話す口調はやはり上品でした。明らかに貴族たちです。
茶色の髪とひげの貴族が言いました。
「間もなくグェン公のところで大きな祝宴が開かれます。エミリア王女もそこに招待されている。その席に誘い出して襲撃すれば――」
「それほどたやすく行くだろうか? 剣の腕前は相当のものだと聞いているぞ」
金髪の貴族は懐疑的です。
他には誰もいない部屋なのに、先の貴族は、ぐっと声を落としました。
「こちらには仲間がおります。必ずグエン公の祝宴に誘い出します。どれほどの剣の使い手でも防ぐことができない方法というものもあります」
上品な顔がにやりと暗い笑みを浮かべたのを見て、金髪の貴族も同種の笑いを返しました。
「貴公たちにお任せしよう。我々の名前は決して外に出さぬように。まして――女王陛下が関わっているなどとは、絶対に知られてはならない」
「そのあたりはぬかりなく」
茶色の貴族がまた笑います。
テーブルの上では蝋燭がほの暗く燃え続けていました。それを見ながら、金髪の貴族は言いました。
「皇太子はどの程度持ちこたえるだろうな」
「そう長くはかからないでしょう」
と相手が答えます。
「急がなくてはな……。我々には時間がない」
そして、二人の貴族は黙り込み、それぞれ物思いにふけりました。
ほんのわずかな人の動きに、テーブルの上の炎が揺らめき、壁の上の人影を揺らします。
伸び縮みする黒い影は、地の底でうごめく闇の怪物にも似て見えました――。