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第12巻「一角獣伝説の戦い」

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5.襲撃

 敵の戦士がすぐにまた襲ってきました。オリバンの急所を狙ってレイピアを突き出してきます。オリバンは剣で払いのけ、大きく飛びのきました。オリバンも決して鈍重なわけではありませんが、敵の方がずっと身が軽くて、距離を取らなければ切り込まれそうだったのです。

 オリバンは盾を馬の鞍に残していました。敵の剣を防ぐものは自分の剣しかありません。油断なくレイピアの動きを見つめながら、敵を観察します。白い鎧兜の細身の戦士です。身長はそこそこありますが、オリバンが人並み外れて大柄なので、ずっと小さく見えます。鎧の上にはおっているのは、メイの軍人であることを表す赤いマントです。

 私の正体に気づいたのか? とオリバンは考えました。それとも――

 ここはメイです。そこの軍人では、うかつに倒すわけにもいきません。オリバンは剣を構え、また突き出されてきた剣を払いながら、逃げる隙を探し始めました。

 すると、視線の動きでそんなオリバンの気持ちを読んだのか、逃げ道をふさぐようにまたメイの戦士が切りかかってきました。今度は、面おおいを上げていたオリバンの顔をまともに突き刺しそうになります。

 かろうじてそれを払いのけたオリバンは、かっとしてどなりました。

「何をする!? 私が何をしたというのだ!」

 けれども剣士はそれには答えません。よろめいた体勢を整えるように体を反転させると、赤いマントが大きくひるがえります。

 

 とたんにオリバンはまた飛びのきました。ひるがえったマントの陰から敵がいきなり切りつけてきたのです。一瞬前までオリバンがいた場所を貫きます。鋭いレイピアの切っ先です。オリバンは防具を身につけていますが、鎧のない鎖かたびらの部分に攻撃を受けたら、体まで刺し抜かれてしまいます。

「やむをえん」

 オリバンは大剣を握り直しました。この敵相手に手加減をしていればやられる、と感じたのです。自分から攻撃に転じて、容赦のない一撃を敵に食らわせます。今度は敵の剣士が飛びのきます。

 オリバンはそれを追ってまた剣を振り上げました。剣士も盾は持っていません。レイピアで受け止めようとします。

 そこへオリバンは足払いをかけました。最初からそれを狙っていたのです。相手が体勢を崩したところへ、剣の柄で強烈な一撃を食らわせると、敵が音を立てて倒れます。

 その拍子に剣士の兜が外れて飛びました。とたんに鮮やかな金色がこぼれ出します。オリバンは驚いて剣を止めました。敵は、長い金髪の若い女性だったのです――。

 

「女か!」

 と思わずオリバンが声を上げると、女騎士が、かっとした顔でにらんできました。

「女だとも! だが、女と甘く見ると痛い目に遭うぞ!」

 鋭い声で言いながらまた跳ね起き、剣を突き出します。切っ先がオリバンの喉元を狙います。

 すると、オリバンがまた大剣を振り下ろしました。手加減のない一撃でレイピアをたたき落とし、返す刀で女騎士に切りつけます。鎧の胸当てにまともに攻撃を食らって、女騎士がまた倒れます。

 そこへ大剣を突きつけてオリバンは言いました。

「油断などせん。男だろうと女だろうと敵は敵だ。甘く見ればこちらが殺される」

 幼少の頃から常に暗殺の危険にさらされてきたオリバンです。身を守って敵を倒すことに躊躇(ちゅうちょ)はありません。突きつけた剣にも本物の殺気がこもっています。

 女騎士は青ざめながらオリバンをにらみつけていました。もう武器は手元にないのに、それでも戦いをあきらめてはいません。

 と、その片手がふいに動いて何かを投げつけました。それはオリバンには届かず、地面に落ちて炸裂しました。目もくらむような光が広がります。光玉です。

 けれども、その動きもオリバンは読んでいました。とっさに目をつぶって光をやり過ごすと、剣を拾って攻撃しようとしていた女騎士に飛びかかって抑え込みます。

「油断はせんと言ったはずだ――。貴様は何者だ。何故私の命を狙う?」

 太い腕で地面に押し倒され、大剣を目の前に突きつけられて、女騎士は身動きが取れなくなりました。その状況でも、まだオリバンをにらみます。

「おまえはここがどういう場所か知っているのか!?」

「どういう場所?」

 ユニコーン伝説の森だろう、とは言わないほうが良い気がして、オリバンはそう聞き返しました。

 とたんに女騎士は唇を尖らせました。そんな顔をよく見れば、かなりの美人です。瞳は青みがかったすみれ色。紅(べに)は差していないのに、鮮やかな赤い唇をしています。

「ここは国王から許可された者しか立ち入れない神聖な森だ。一般の者は近寄ることさえ禁じられている。そんなことも知らないところを見ると、おまえは外国人だな」

 その質問には答えずに、オリバンは言いました。

「私はただ、珍しい色の森だと思って確かめに来ただけだ。ここが立ち入り禁止だとは知らなかったのだ」

「ここは国王直轄領のナージャの森。私はここの警備隊員だ」

 ああ、とオリバンは言って腕の力を緩めました。そういうことならば、女騎士が突然襲いかかってきたのも納得がいきます。オリバンを森の不法侵入者だと考えたのです。

 

 そこへ蹄の音を響かせて四頭の馬が森から現れました。

「どうした、オリバン!?」

「今、こっちですごい光が見えたじゃないのさ――!?」

 ゼンとメール、それにフルートとポポロが馬で駆けつけてきたのです。ポチとルルも別の方向から走ってきました。長い金髪に白い鎧の女騎士が地面から身を起こすのを見て、全員が目を丸くします。

「おまえの供の者か」

 と女騎士は言うと、まだオリバンが突きつけていた大剣を手で押しのけて立ち上がりました。

「知らずに森に入り込んでいたのなら、今回だけは見逃してやる。今すぐ森を出て、もう二度とやってくるな」

 なんだか本当に男のような口調で話す女性でした。フルートたちがいっそう驚いていると、森の別の方向から声が聞こえてきました。

「隊長――セシル隊長、どちらにいらっしゃいますか――?」

 やはり若い女性の声です。妙にきびきびした響きは軍人に特有のものでした。

「ここだ! 今行く!」

 と女騎士は返事をすると、抜き身のレイピアを握ったままで言いました。

「この森はメイ第三十二部隊が守っている。我々全員と戦いたくなければ、即刻森を立ち去れ」

 それを聞いたとたん、フルートは手綱を引いて馬の向きを変えました。ここでメイ軍といざこざを起こしてはまずい、と判断したのです。他の仲間たちもそれにならいます。

 

 オリバンは剣を鞘に収めました。改めて女騎士を見て言います。

「セシルというのは男の名だな」

「それがどうかしたか。私は生まれた時からこの名前で呼ばれている」

 と女騎士がそっけなく答えます。オリバンは黙って肩をすくめると、自分の馬にまたがりました。湖と女騎士に背を向けて去っていきます。フルートたちもそれに続きます。

 女騎士はまだ湖の岸辺に立ったまま、にらみつける目で見送っていました。全員が間違いなく立ち去るのを見届けようとしているのです。ルルが鼻の頭にしわを寄せて言いました。

「嫌な感じ。まるで白の魔法使いみたいだけど、もっとずっと陰険よね」

 ポチは首をひねりました。

「確かにそうかもしれないけど……なんだか、いやに悲しそうな匂いをさせてる人だなぁ」

 と女騎士を振り返ります。

 さっき呼び声が聞こえてきた方向から、大勢が近づいてくる気配がしていました。メイ軍の部隊がやってきたのです。勇者たちの一行は馬の足を速めて森を抜け出していきました――。

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