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第11巻「赤いドワーフの戦い」

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90.乱戦

 ジタン山脈の麓はしらじらと明るくなってきていました。

 星が見えなくなっていく空に、巨大な影の竜が浮かんでいます。竜が見下ろす地上は炎でいっぱいです。その中にフルートとポポロが抱き合うように立ち、そこから少し離れた場所には、オリバン、ゴーリス、深緑の魔法使い、ビョールの四人の大人たちが集まっていました。四人の周りでゼンを乗せたポチが風の渦を作り、炎を寄せ付けないようにしています。フルートたちには風の犬のルルが舞い下りてきます。

「フルート、ポポロ! メールはどこ!?」

 と叫ぶように尋ねます。地上に他の人々は見当たりません。メールもドワーフもノームもロムド兵も――軍馬や走り鳥さえも姿を消していたのです。

 すると、フルートとポポロのすぐ隣の地面から声がしました。

「あたいはここ――心配ないよ、ルル」

 いきなり地表にメールが上半身を現して、よっこらしょ、と土の中から抜け出してきました。痕には穴一つ残っていません。すると、今度はそこからぴょんと小さな人間が飛び出してきました。ラトムです。メールが青ざめた顔で言います。

「びっくりしたなぁ、もう。いきなり地面の中に引っ張り込まれるんだもん――。真っ暗で何も見えないし。死ぬかと思ったじゃないのさ」

「馬鹿もん。空からの火を食らって焼け死ぬよりはマシだろうが」

 とラトムは答え、小さな体で偉そうに腕組みして続けました。

「聞いたことなかったのか? ノームに地面の中へ連れていかれた奴の話を。俺たちにはそういうことができるんだよ。触れた奴を地面に引き込むことも、また外に出してやることもな――」

「助けてくれてありがとう、ラトム。でも、次はもういいよ。また花を呼んで、あたいを守らせるからさ。地面の中ってのは、やっぱり苦手さ」

 苦笑してメールが言います。

 

 空中で闇の竜がキチキチと歯を鳴らして悔しがっていました。他の者たちが地表から姿を消した理由がわかったのです。降ってくる炎を避けるために、ノームたちが片端から地中に引き込んでしまったのでした。

「オマエタチハ逃ガサン」

 とデビルドラゴンは言って、影の体から黒い光の弾を撃ち出しました。魔弾です。地上にいる人々へ降りそそいでいきます。

 すると、またラトムが地面の中に消えました。ラトムに足首をつかまれたメールも一緒です。

 フルートは左腕を上げました。聖なるダイヤモンドで強化された盾で魔弾を弾き返して、自分とポポロを守ります。

 ビョールやゴーリス、深緑の魔法使いの前では、オリバンが聖なる剣で魔弾を切り払っていました。リーン、と鈴のような音が響くたびに、闇の弾が霧散していきます。

「戻れ、ポチ!」

 とゼンはどなり、子犬に戻ったポチを抱きかかえました。魔弾がゼンの周りで砕けて消えていきます。やはり魔法の胸当てが守っているのです。

 

 魔弾を避けて空高く舞い上がりながら、ルルが言いました。

「無駄よ、デビルドラゴン! もうすぐ夜明けよ! そうしたら、ポポロの魔法がまた復活するわ! おまえはこの場所から追い払われるわよ!」

 そのことばの通り、空はもうかなり明るくなっていました。東の地平が次第に金色を帯びていきます。朝の太陽が地平線の下に近づいてきているのです。

 影の竜は空で羽ばたきを続けていました。竜がいる空にはまだ夜が留まっているように見えます。星も見えない暗がりの中で、竜が言いました。

「モウ時間ガナイ。ソレハ確カダ」

 ひとりごとのような声でした。

 実を言えば、そこにいる闇の竜は本来の力をかなり失っていたのです。竜は自分の体を石の中に分散させて、サータマン軍やメイ軍に闇の力を貸していました。その中でも特に大きな親石が怪物になった象と共に消滅したので、かなりの闇の力が失われてしまったのです。ポポロが魔力を取り戻して光の魔法を使えば、闇の竜にはそれに対抗することはできないのでした。

「ソノ前ニ貴様タチニトドメヲ刺サナクテハナ」

 と言うと、デビルドラゴンは突然呼びかけました。

「来イ、我ガシモベタチ! 闇ノチカラトトモニ、ハセ参ジテコイ!」

 声がジタン山脈の麓を揺るがせます。

 すると、とたんに地中から姿を現したものがありました。――ノームやドワーフ、ロムド兵たちです。ノームの力で地中に隠れていた者たちが、あわてふためいてまた地上に飛び出してきました。その中にはラトムと一緒に地面に潜ったメールもいました。真っ青な顔で叫びます。

「気をつけな、みんな! 闇の怪物だよ! ものすごい数だ!」

 そのことばが終わらないうちに、土をまき散らして地中から生き物が現れました。真っ黒い色をした、不気味な姿の怪物たちです。あっという間に、何十匹、何百匹と増えていきます。

 

 うごめく怪物を見てゼンがわめきました。

「ちきしょう! 金の石の光でこの辺の闇の怪物は消滅したんじゃなかったのかよ!? なんでこんなにいやがるんだ!」

 その腕の中でポチが言いました。

「ワン、地中に潜む怪物なんだ。だから、聖なる光にも無事でいたんですよ」

 言い終わるとまた風の犬に変身して、上空のルルのところまで飛び上がります。

「ワン、みんなを守らないと!」

「夜明けまでよ。それまで守りきれば、こっちの勝ちよ!」

 とルルが答えます。わかった、と答えてポチは空から急降下しました。ノームに襲いかかろうとしていた怪物を跳ね飛ばします。

 ルルは風の体をひらめかせてフルートのそばへ舞い下りました。背中でポポロをかばっているフルートに言います。

「そのままポポロを守るのよ! ポポロは夜が明けたらすぐ魔法を使って! それまでの間、私たちが怪物を食い止めるから!」

 怪物に襲われて悲鳴を上げているドワーフがいました。ルルは即座にそこへ飛んでいくと、風の刃で怪物を切り裂きました。オリバンも襲われているドワーフやノームへ駆けつけて、聖なる剣で怪物を倒します。

 ロムド兵は剣で勇敢に怪物と戦っていました。怪物が切り倒されると、怪力のドワーフが持ち上げて、まだあちこちで燃え続けている火の中へ放り込みます。

 ゼンはメールに駆け寄りました。今まさにメールに襲いかかろうとしていた怪物を殴り飛ばして尋ねます。

「大丈夫か!?」

「もちろん!」

 とメールは答えて花を呼びました。先ほどからの連戦で、近い場所に花はもうほとんど残っていません。離れた森の中へ助けを求めると、声に応えて花たちが小鳥の群れのように飛んできました。

「頼むよ、花たち!」

 とメールが叫んで手を振ると、花が音を立てて降ってきました。ラトムに飛びかかろうとしていた怪物を絡め取ってしまいます。動けなくなった怪物をゼンがまた殴り飛ばします。

「お、驚き桃の木――! た、助かった」

 と言ったラトムへ、メールが、にやっと笑いました。

「これでおあいこさ。だろ?」

 一方、深緑の魔法使いは怪物へ杖を突きつけていました。

「正体を見せい!」

 とにらみつけると、怪物が小さな虫や動物に変わります。闇の怪物の本当の姿です。ゴーリスとビョールが次々にそれを切り倒していきます。

 夜明け直前のジタン山脈の麓は大混戦でした。闇の怪物はまだ何百匹といて、あたりを埋め尽くしています。けれども、人間とドワーフとノームたちは、決してそれに負けてはいません――。

 

 その戦いを、デビルドラゴンは空からじっと見下ろしていました。黒い影のような体は、明るくなってくる空の中で、いっそう黒く暗く見えます。何もかもを呑み込んでしまうような、底なしの闇です。

 すると、その奥で何かがざわざわと揺れ始めました。フルートの後ろで守られていたポポロが、それに気がつきました。闇の中へ目を凝らし、はっとして声を上げます。

「触手よ! デビルドラゴンが闇の触手を出すわ――!」

 何百という触手が、竜の体の中で黒い蛇の群れのようにうごめいていました。いきなりそれが伸びて、地上へ飛んできます。生き物が体を触手に貫かれて悲鳴を上げます。

 それは、闇の怪物たちでした。人間やドワーフたちと戦っていた怪物が、デビルドラゴンの闇の触手に襲われたのです。すさまじい声を上げて引き抜こうとしますが、闇の怪物でも触手を払うことはできません。みるみる生気を吸われていきます。

 人間とドワーフとノームたちは立ちすくみました。彼ら自身は誰も触手に襲われてはいません。デビルドラゴンは呼び寄せた闇の怪物だけを襲っているのです。

「我ノチカラトナルノダ、我ガシモベタチ。勇者ドモヲ倒スゾ」

 と闇の竜が言いました。その体は、怪物たちの闇の命を吸って、いっそう黒く、くっきりと浮かび上がっていました――。

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