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第11巻「赤いドワーフの戦い」

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68.闇の杖

 窓から闇魔法使いが飛び込んできたので、白の魔法使いは大きく飛びのきました。短い黒髪に口ひげの男は、黒い服を着て、手に金属の杖を持っていました。目の前で身構える女性を見て笑います。

「これはまた勇ましい。ロムドの四大魔法使いには女も混じっていると聞いていたが、おまえのことか。格好から見るに、光の神に仕える神官だな」

「女と見て甘くかかると後悔するぞ、闇魔法使い」

 と白の魔法使いが答えると、黒髪の男はまた笑いました。

「けっこう。気の強い女は好みだ。打ちのめす楽しみがあるからな」

 馬鹿にしきった声で言うと、金属杖から黒い魔法の光を撃ち出します。

 白の魔法使いは魔法でそれを受け止め、次の瞬間、はっとして駆け出しました。部屋の中央の台座に据えられた護具の前に飛び出し、トネリコの杖をかざします。とたんに白い光の壁が広がり、飛んできた闇の弾を砕きました。闇魔法使いが、白の魔法使いを攻撃すると見せかけて、護具を破壊しようとしたのです。

 ちっ、と闇魔法使いが舌打ちしました。

「少しはできるようだな、女。だが、おまえの力では俺にはかなわないぞ」

 また金属の杖が黒い光を撃ち出してきました。先より強力な闇魔法の弾です。白の魔法使いはまた自分の杖を振りました。闇の弾が粉々に飛び散ります。都を守る護具には届きません。

 

 ほう、と黒髪の男は言いました。

「どうやらおまえを倒さなくては、そいつを壊すことはできないようだな。面白い、ますます気に入ったぞ。たたきのめして、俺の前にはいつくばらせてやる」

 あくまでも優越感を漂わせて、男が飛び出してきました。金属の杖を振り上げます。白の魔法使いも駆け出して杖を構えます。

 ところが、杖と杖がぶつかり合うと見えた瞬間、白の魔法使いが大きく横へ飛びました。空振りして前のめりになった闇魔法使いを横目で見据え、どん、と杖で石の床を突きます。とたんに床から炎のように白い光がわき起こり、男の全身を包みました。光が輝く縄に変わって絡みついていきます。足まで絡め取られて、男がどうと倒れます。

 それを見下ろして白の魔法使いは言いました。

「どうした。私をはいつくばらせるのではなかったのか? 自分ではいつくばっているようでは、しかたあるまい」

 馬鹿にすることさえない、冷ややかな口調でした。歯ぎしりして悔しがる男を、魔法でさらにしっかり抑え込み、注意深く金属の杖を眺めます。異様に強い闇の気配がそこから伝わってきていたのです。杖の先端に、鶏の卵ほどの大きさの黒い石がはめ込まれています。

「闇の石か……」

 と白の魔法使いはつぶやきました。サータマン軍の姿を隠しているのは闇の石の仕業だと聞いていましたが、これほど大きな石だとは思わなかったのです。おそらく石が持つ闇の力も相当なものでしょう。石を消滅させるために杖を向け、光の魔法をぶつけようとします。

 

 とたんに、闇の石が光りました。黒い光が爆発するように広がり、白の魔法使いを跳ね飛ばします。

 同じ光は、男を縛っていた光の縄も消し去っていました。黒髪の男は怒りに顔を歪めると、跳ね起きて白の魔法使いへ飛びかかっていきました。手に握った金属の杖で打ちのめそうとします。

 女神官はとっさに飛び起き、自分の杖で受け止めました。杖と杖がぶつかり合ったとたん、また黒い光が広がり、女神官を吹き飛ばします。

 床から顔を上げた白の魔法使いは、驚きの目で闇の石を見ました。すさまじい魔力です。すると、男は暗くにやりと笑いました。

「思い知ったか。これは闇の親石だ。他の闇の石とは力の桁が違う。闇のドワーフが魔法の杖に作り上げたんだ」

 再び男が闇の石の杖を振り下ろしてきました。白の魔法使いが杖で受け止めると、また黒い光が弾け、彼女を吹き飛ばしてしまいます。そこはもう部屋のはずれでした。細い女神官の体がまともに石の壁にたたきつけられ、その拍子に杖が手から離れます。

 白の魔法使いが杖をつかみ直そうとすると、伸ばした手を黒い靴が踏みつけました。闇魔法使いの男です。そのまま女神官を見下ろしてあざ笑います。

「やっと俺の前にはいつくばったな、女。俺に逆らった罪を思い知らせてやるぞ――」

 と金属の杖を突きつけてきます。その先端では闇の石が黒く光っていました。触れれば、とたんに闇の力を発動させる魔石です。白の魔法使いは石の床に倒れた格好から動くことができません。

 

 すると、男が急に杖を止めました。見定めるような目になって白の魔法使いの顔をのぞき込んだと思うと、いきなり髪留めをむしり取ります。結い上げていた金髪がほどけて、ばさりと彼女の顔にかぶさります。

 男はその髪を後ろからつかみ、ぐいと乱暴に引っ張って女神官の顔を上げさせました。さらにつくづくとそれを眺めて言います。

「よく見れば、けっこういい女じゃないか。気は強そうだが、なかなか美人だ。このまま殺すのは惜しいな。俺の奴隷にしてやろう」

 白の魔法使いは顔をしかめましたが、闇の杖を突きつけられているので身動きができません。青、赤――! と心の中で仲間を呼びます。

 ところが、返事がありませんでした。呼び声が途中で跳ね返されたのを感じます。闇の石が彼らのいる場所を結界で囲んで、外界から遮断しているのでした。

 男が女神官に顔を近づけて言いました。

「おまえに闇の首輪をつけてやる。そうすればおまえは俺の命令に絶対服従だ。思う存分かわいがってやる。ロムドの四大魔法使いをいたぶって泣きわめかせるのは、さぞ快感だろうな」

 陰湿な笑いを浮かべながら、闇の杖で宙に円を描きます。すると、空中に鈍色の首輪が現れました。黒い小さな石が組み込まれています。相手から魔力を奪い、闇に服従させる闇の首輪です。はめられれば、首輪が肉体に同化して絶対に外せなくなってしまいます。

 青ざめる女を見て、男はますます満足そうな顔になりました。笑いながら首輪をつかみ取ろうとします。

 

 その瞬間、男の杖が揺れました。先端の闇の石がわずかに離れます。

 とたんに白の魔法使いは全身の魔力を右手から一気に爆発させました。男に靴で踏みつけられていた手です。男の体が大きく吹き飛び、塔の壁に激突します。

 女神官は跳ね起きました。手の中に自分の杖を取り戻して男へ飛びかかります。

 壁にたたきつけられたはずの男が飛び起きました。闇の石で守られていたのです。女神官の杖を闇の杖で受け止めようとします。

 すると、女神官はいきなり身を沈めました。杖が向きを変え、上ばかりを気にしていた男の足下をすくいます。どうっと音を立ててまた男が倒れます。

「この……!」

 男は怒りで顔を真っ赤にして、また跳ね起きてきました。いくら倒しても、やっぱり闇の石で守られてしまうのです。

 杖と杖とがまた音を立ててぶつかりました。まるで剣で戦っているようですが、彼らがぶつけ合っているのは、杖から発する魔力です。光の魔力と闇の魔力が、守りの塔の最上階に激しい火花を散らします。

 すると、また女神官が吹き飛ばされました。闇の石の力を受け止めきれなかったのです。とっさの魔法も間に合わなくて、まともに床にたたきつけられてしまいます。

 闇魔法使いの男は、肩で息をしながらその前に立ちました。女神官の顔を拳で殴り飛ばしてどなります。

「手こずらせやがって! さっさと俺の奴隷になれ!」

 倒れたまま本当に動けなくなった女をまた乱暴に引き起こし、空中からつかみ取った首輪をはめようとします。

 ユリスナイ! と白の魔法使いは叫ぼうとしました。彼女が仕える光の女神の名です。闇の奴隷にされるくらいなら、この場で光の神に殺されたい、と考えます。彼女にはそんなこともできるのです。光の神を呼ぶことで光の攻撃を自分へ下す魔法です。そばにいる闇魔法使いも巻き込んで一緒に倒すことができます。

 ところが、意に反して彼女の口から飛び出してきたのは、別の名前でした。悲鳴のように守りの塔の部屋に響きます。

「フーガン! フーガン――!!」

 

 とたんに太い腕がぬっと現れて、男の肩をつかみました。そのまま女神官から勢いよく引きはがし、岩のような拳で殴り飛ばしてしまいます。闇の首輪が床に落ちて音を立てます。

 白の魔法使いは思わず呆気にとられました。突然部屋に現れた大男を見上げます。

「遅くなってすみません、白。闇の結界をこじ開けるのに手間取りました」

 そう言って、青の魔法使いは笑うように口元を歪めました――。

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