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第11巻「赤いドワーフの戦い」

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第19章 攻防戦・2

67.魔法軍団

 王都ディーラの中央にそびえるロムド城は、堅固な城壁に囲まれていて、その四隅には、守りの塔と呼ばれる高い塔がありました。都や城に攻め込もうとする敵を撃退する拠点で、いつも見張り兵や魔法使いが周囲へにらみをきかせています

 その南の守りの塔の最上階に白い長衣を着た女性がいました。金髪を結い上げた頭を上げ、すんなりしたトネリコの杖を握りしめて、毅然と立っています。

「占者殿から連絡があった! サータマンの飛竜部隊が接近中! 全員配置につけ!」

 そう命じる口調もなんだか男のようです。ロムドの四大魔法使いの一人の、白の魔法使いでした。

 塔の最上階の部屋には彼女以外に誰もいませんでしたが、どこからともなくたくさんの返事が聞こえていました。

「了解」

「承知」

「わかりました――!」

 ロムド城の魔法軍団と呼ばれる魔法使いたちです。城の屋上や城壁の上で襲撃に備えています。城内の要人のそばについて守る魔法使いたちもいます。百名近い魔法軍団を統率しているのは白の魔法使いです。

 

 すると、魔法軍団よりずっと近い場所から、男の声が聞こえてきました。

「相変わらず敵の様子は見通せませんな。闇の石というのはやっかいだ」

 東の塔で守りについている青の魔法使いでした。四大魔法使い同士にしか聞こえない声で話しかけてきたのです。

「赤は? 異大陸の魔法で近づく敵は探れないか?」

 と白の魔法使いは西の塔にいる赤の魔法使いに話しかけました。別々の塔にいるのに、彼らには互いの姿も見えています。黒い肌に猫のような金の瞳をした小男が答えました。

「ダ、ク、ナイ。ガ、ナン、ル」

 異国のことばですが、四大魔法使いたちには言っている意味がわかります。青の魔法使いはうなずきました。

「敵は南から来ますか――。気をつけて下さいよ、白。そちらが正面だ」

「おまえたちこそ深緑の分を補っているんだ。充分注意しろ」

 と白の魔法使いが答えます。

 彼らがいる守りの塔は、それぞれに強烈な守りの力を放っていました。四つの塔の三つから白、青、赤のまばゆい光が立ち上り、都の上空で光の天井を広げています。

 光の元は守りの塔の最上階にある魔法の護具でした。先端に石の玉がついた杖のような形をしていて、魔法使いの力を増幅して守りの光に変えることができます。ロムドで最も強力な四大魔法使いの力を使った護具は、世界最強の護具でした。深緑の魔法使いが不在なので、北の塔からの光は欠けていますが、他の三つの光がまばゆく輝いて、都全体を包み込んでいました。

 すると、城内からユギルの声が聞こえてきました。王たちのそばで守りについている魔法使いが、占者の声を彼らに伝えているのです。

「じきに城の南側で激戦が始まります。敵の襲撃です」

「我々の準備はもう整っています」

 と白の魔法使いは答え、仲間たちにちょっと肩をすくめて見せました。

「敵の姿が見えないのはユギル殿も同じはずなのに、どうやって占っておられるのやら」

「やはり、並の方ではありませんな」

 と青の魔法使いも感心します。

 

 その時、赤の魔法使いが南の方角を見て声を上げました。

「タ、キダ!」

 夕焼けに染まり始めた空に無数の点が見えていました。みるみるうちに数が増えて、南の空の一角を黒雲のようにおおいます。サータマンの飛竜部隊でした。

 肉眼で見えるようになれば、彼らにもその姿や規模を確かめることができます。白の魔法使いは近づく敵を見据えながら魔法軍団に呼びかけました。

「飛竜部隊が到来! 数はおよそ五百! 石や火袋を抱えているぞ! 王都に近づけるな!」

 また城内からいっせいに返事があって、同時に魔法攻撃が始まりました。城から火の玉が飛び、空から稲妻が下り、接近する飛竜部隊を直撃します。ところが、火の玉も稲妻も、飛竜たちのずっと手前で炸裂してしまいました。魔法を跳ね返されたのです。

 青の魔法使いが、うむ、とうなりました。

「闇の石の力ですな。思ったより強力だ」

 城からの魔法攻撃はことごとく空で砕けていました。飛竜部隊にはまったく届きません。魔法軍団が焦り始めたのを感じて、白の魔法使いがまた呼びかけました。

「落ち着け! よく狙って攻撃するんだ!」

 その隣の塔で赤の魔法使いが細いハシバミの杖をかざしていました。細い赤い光が飛び出して、鋭い剣のように飛竜部隊の中を貫きます。光は闇の石の守りも突き破っていました。道筋にいた飛竜が直撃されて落ちていきます。

 それを見て、魔法軍団はまた攻撃を再開しました。攻撃を一点に集中させて、敵の守りを突き破ります。魔力が足りない者たちは、数人で力を合わせて攻撃します。何頭もの飛竜が翼を破られ、稲妻や火に包まれて落ちていきます。背に乗った騎手も一緒です。

 

 けれども、飛竜部隊の進軍は停まりませんでした。城からの魔法攻撃をかわしながら、ぐんぐん王都へ迫ります。

 白の魔法使いは杖を握り直して横へ振りました。白い光が散ったとたん、何十という飛竜が突風にあおられたようにバランスを崩し、そのまま失速して落ちていきます。

「やりますな、白」

 と青の魔法使いが言って、自分もこぶだらけのクルミの杖を振りました。とたんに、また何十頭もの飛竜が吹き飛び、空から落ちていきます。

 赤の魔法使いも、一点集中の鋭い攻撃で、次々に飛竜を撃ち落とします。

 魔法軍団は感心しました。四大魔法使いたちは、王都全体に守りの魔法を広げながら、同時にこれだけの攻撃をしているのです。自分たちも負けてはいられない、と奮い立ちます。魔法が炸裂して花火のように空に広がり、敵を撃墜していきます

 激しい攻撃魔法に数を減らされながらも、飛竜部隊がとうとう王都の上空までやってきました。急降下を試みますが、守りの光に阻まれて下りることができません。足に抱えてきた石や皮袋を次々投げ落としますが、それもすべて光の天井に跳ね返されてしまいます。

 弾けた袋から油がこぼれて火を吹きました。光に阻まれて滑り落ち、都の街壁の外で燃え上がります。火袋と呼ばれる攻撃の道具です。家が密集する都の中へ落ちれば大火事になるところでした。守りの塔が放つ光は、強く都を守り続けています――。

 

 すると、白の魔法使いがふいに眉をひそめました。塔の最上階の窓から、飛び回る飛竜を見上げます。その背後に広がっているのは、血のように赤黒く染まった夕焼けの空です。

「向こうにも魔法使いがいるな」

 と白の魔法使いはつぶやきました。気配を感じたのです。

「闇の気配が強いですな。闇魔法使いのようだ」

「キ、ケロ」

 と青と赤の魔法使いも注意を促します。

 都に攻撃を繰り返す飛竜部隊の中で、一頭だけ、違う動きをしている飛竜がいました。攻撃するのではなく、守りの光の天井ぎりぎりまで下りて留まっているのです。そこで何かをしているように見えます。

「あれか」

 と白の魔法使いは杖を向けました。白い光の弾が光の天井の上へと飛んでいきます――。

 ところが、それが激突する前に、飛竜が姿を消しました。上に乗った人物も一緒です。次の瞬間には別の場所へ姿を現します。やはり光の天井のすぐ上です。

 すると、先にその人物がいた場所から、数頭の飛竜が内側に飛び込んできました。守りの光の天井をすり抜けてきたのです。

「なに――!?」

 と白の魔法使いは驚きました。守りの光を放つ護具は、隣国エスタの名工ピランが改良したもので、闇の敵に絶大な威力を発揮しますが、通常の敵にも強力な防護壁になります。その守りの力を越えてくるものがいることに、目を疑います。

 すると、赤の魔法使いが言いました。

「ナ、ダ! レタ!」

「先の闇魔法使いですよ、白。守りの光に穴を開けたんだ」

 と青の魔法使いも言い、入り込んできた飛竜を魔法で撃墜しました。竜は光の弾に吹き飛びましたが、抱えていた岩や火袋が都の中に落ちました。貴族の屋敷の庭で木がへし折れ、下町で火の手が上がります。

「火を消せ!」

 と白の魔法使いは都を守る魔法軍団に命じ、ぐっと強く念じました。光の天井で白い輝きが増し、開けられた穴をふさいでいきます。けれども、天井のまた別の場所で、闇魔法使いが新しい穴を開こうとしていました。黒い光が守りの光とぶつかり合っているのが見えます。

 白の魔法使いは仲間たちに言いました。

「あいつを倒すぞ! 集中しろ!」

「承知」

「カッタ」

 三つの塔から三つの光が飛び出し、闇魔法使いめがけて飛んでいきます。

 すると、また飛竜が魔法使いごと姿を消しました。次に姿を現したのは、なんと、白の魔法使いが守る南の塔のすぐ目の前です。窓の外で羽ばたく飛竜の上に、短い黒髪と口ひげの中年の男が立っていました。

「これはこれは。一番強そうな奴のところへ来てみれば、なんと女か。驚きだな」

 面白がるようにそう言って、闇魔法使いは塔の中へ飛び込んできました――。

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