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第11巻「赤いドワーフの戦い」

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63.奪回

 山積みになった魔金の原石が、魔法使いににらまれたとたん、溶けるように形を変えていく様子を、フルートとオリバンは空からじっと見守っていました。一つ一つの石がふくれあがり、背が低くてたくましい男になっていきます。やがて全員が元のドワーフの姿になると、オリバンは、ほっと安堵の息を吐きました。

「良かった、全員無事に戻ったな」

 魔金の正体は移住団のドワーフたちでした。ポポロが魔法で彼らを魔金の原石に変え、さらに変身が解けないように継続の魔法をかけたのです。彼らのリーダーのビョールは、フルートたちに下りてくるタイミングを教えるために、魔金ではなくランプに変身していました。

「深緑さんの目は、魔法をかけられたものの本当の姿を見抜いて、元に戻すことができますからね」

 とフルートが言いました。こちらは落ち着いた声です。

 すると、オリバンはちょっと口元を歪めました。

「だが、大変なことだぞ。動くこともできない物に姿を変えられるのだから、元に戻れなくなることや、変身している間に自分がどうにかされることを心配するほうが普通の反応だ。しかも、あのポポロの魔法だから、正直、何が起きるかわからん……。それなのに、ドワーフたちは恐れることもなく魔金になった。信じられんほど勇気ある行動だ」

「ワン、ゼンがよく言いますよ。ドワーフは世界で一番勇敢なんだ、ドワーフを味方にしていれば絶対に大丈夫だぞ、って。それって本当なんですよ」

 とフルートを乗せたポチが言います。

 一方、花鳥の上ではメールが深緑の魔法使いと話していました。

「ドワーフが元に戻ったのはいいけどさ、深緑さんの眼力って、少しの間しか続かないんだろ? それが過ぎたら、またドワーフが魔金に戻っちゃわないかい?」

 すると、魔法使いは笑いました。

「それは大丈夫ですじゃ。わしが正体を見抜いている間、ポポロ様の継続の魔法はとぎれておりますからの。その間に、ポポロ様の変身の魔法が消えてしまいますじゃ」

 

 地上では、ドワーフたちがいっせいに周囲の兵士たちに飛びかかっていました。捕まっていたノームたちを奪い取って兵士を殴り倒します。落ちていたつるはしやスコップを握って襲いかかっていくドワーフもいます。

 連合軍の指揮官たちが叫んでいました。

「ええい、落ち着け! 数はこちらの方が多いのだ! 囲んで一人ずつ倒せ!」

「ドワーフは防具を着ていない! 確実に剣で狙いなさい!」

 すると、彼らの後ろにガシャンと重い金属音を立てて飛び下りてきた人物がいました。たちまち大剣がサータマンの司令官に突きつけられます。

「そうはさせん。我々と一緒に来てもらおうか。抵抗するならば、この場で殺すぞ」

 オリバンでした。司令官の喉元に突きつけた刃からは、本物の殺気が漂っています。

 隣に立っていたメイの将軍は、はっと腰の剣に手をかけ、ほんの一瞬ためらいました。邪魔な同盟者が消えてくれることを、思わず期待してしまったのです。その隙を突いてビョールが飛び込み、拳の一発で将軍も気絶させてしまいます。

「将軍――!」

 とっさに駆けつけようとしたメイの軍師の前には、金の鎧兜の少年が飛び下りてきました。銀のロングソードを突きつけて言います。

「あなたにも一緒に来てもらいますよ、軍師殿。来なければ、メイの将軍の命は保証しません」

 少年なのに、いやに冷静に響く声でした。軍師ではなく、上司である将軍の命を奪うぞ、と脅してくる判断も的確です。軍師は歯ぎしりをすると、腰のショートソードを外して投げ捨て、周囲の兵士たちに言いました。

「武器を捨てろ! 将軍の命には替えられん!」

 メイ軍の兵士たちはとまどい、やがて、次々と軍師にならって武器を捨て始めました。ところが、サータマン軍の兵士の方は武器を構えたままです。隙があれば切りかかって上官を取り戻そうとしています。

 オリバンは、ぐいとまた剣を司令官の咽に突きつけました。司令官が金切り声を上げます。

「お――おまえたちも武器を捨てなさい――! 手を出すんじゃない!」

 司令官はサータマン王の甥に当たる人物です。サータマン軍の兵士たちも、さすがに無理な救出はできず、いっせいに武器を捨てました。

 

 すると、そこへ森の奥から黒馬が駆けてきました。ちょっとしゃがれた声が響きます。

「どけどけ、てめえら! 通しやがれ!」

 ゼンが黒星に乗って戻ってきたのです。思わず道を開けた兵士たちの間を駆け抜け、フルートの隣へ飛び下ります。

「ロムド兵は全員無事に森を脱出したぞ。ジタン山脈に向かってる」

「よし。ぼくらも合流しよう」

 とフルートが答えます。そのやりとりに、メイの軍師は事の真相に気がつきました。

「ジタン山脈――!? では、やはり魔金はあちらにあったのだな! 我々をはめて山を下りさせ、その隙に山を占領する計画だったのか!」

「当たり。でも、今頃気がついても、もう遅いぜ」

 とゼンは言うと、拳を軍師の腹にめり込ませました。ぐうっと一声うなって軍師も気絶してしまいます。それを軽々と肩に担ぎ上げて、ゼンは言いました。

「さあ、こんなところに長居は無用だ。とっとと俺たちも脱出しようぜ」

「同感だな」

 と父親のビョールも言います。

「よし、ジタン山脈へ!」

 とフルートは言い、オリバンが行く手へどなりました。

「道を開けろ!! 我々の邪魔をすれば貴様らの指揮官の命はないぞ!!」

 雷がとどろくような声に、連合軍の兵士たちは思わずすくみました。武器は足下に落ちていますが、拾い上げることもできず、ただ敵が目の前から脱出していくのを見送ります。サータマンの司令官、メイの将軍、そして軍師の三人がドワーフたちに担がれて運ばれていきます。ドワーフは他にノームたちも抱えていました。坑道やその周辺から掘削の道具をかき集めて運んでいく者もいます。

 二匹の風の犬が、先払いをするように彼らの前を飛んでいました。

「どきなさい! 手出ししたら痛い目に遭うわよ!」

「ワン、隠れて襲いかかろうとしても無駄ですよ! ぼくたちには匂いで場所がわかるんだから!」

 森を走る一行の後ろには花鳥が舞い下りました。ざあっと音を立てて花が崩れたと思うと、今度は巨大な虎に姿を変えます。花虎の背中でメールが笑いました。

「命の惜しくない奴は追いかけといで。花虎の餌にしてあげるからさ」

 ガアアッと花虎が大きな口を開けてほえました。鋭い牙がむき出しになり、兵士たちはさらに動けなくなります。

 すると、激しくほえながら森の奥から飛び出してきた怪物がいました。生き残りの角犬です。一行を追いかけて襲いかかろうとします。とたんに、花虎の上から深緑の魔法使いが鋭くにらみました。

「騒がしいぞ、ワン公ども! 静かにせんかい!」

 とたんに、キャン! と悲鳴が上がり、怪物が縮んで普通の犬に戻りました。そこへ、ひらりと花虎が飛びかかり、前足の一撃で殴り殺してしまいます。

 

 その時、地の底から湧き起こるような声が響きました。

「逃ガスカ、金ノ石ノ勇者ドモ! 貴様タチノ思イ通リニハサセン!」

 同時に森に得体の知れない暗い気配が漂い始めました。一気にあたりが不気味な気配に包まれ、逃げる人間やドワーフたちに黒い悪意が絡みついてきます。

 すると、フルートが声を上げました。

「金の石――!!」

 その胸の上でペンダントが強く輝き、金の光で闇の気配を打ち破りました。森は再び明るくなり、闇の竜の声も聞こえなくなります。

 フルートやドワーフたちは森の中を走り、やがて連合軍の包囲を抜けて、森の外へと脱出していきました――。

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