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第11巻「赤いドワーフの戦い」

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60.直前

 「つまりね、援軍と言っても、メイとサータマンは実際にはばらばらなんだよ」

 ジタン山脈の麓の森で、フルートは仲間たちにそんな話をしていました。

「ずっと長い間敵対していて、しょっちゅう戦争もしてきたような国同士だからね。いくらデビルドラゴンにそそのかされて連合を組んだって、それまでの気持ちは、そう簡単には変わらないのさ。こちらを攻撃するときだって、互いに協力しないで、相手を出し抜くことのほうを考えるはずなんだ」

「そこへ、ジタン山脈ではなく、麓のこの森に魔金の鉱脈がある、という偽の情報を流したわけか」

 とオリバンが言いました。フルートは立っていますが、皇太子は他の仲間たちと一緒に地面に座っています。

 フルートはうなずきました。

「メイ軍、特に、その軍師は、どうしてぼくらがこの森から出て行かないのか不思議がっているに決まってる。実は山ではなく、この森から魔金が採れるんだ、って教えてやれば、絶対に、そうだったのか! と思うはずなんだ。そうすれば、ライバル意識むき出しの軍勢同士だもの。先を争って森を奪いに山から下りてくるに違いないんだよ」

「そして、その隙に俺たちはジタン山脈の方へ移動する、という作戦か。だが、そんなにうまく敵が信じてくれるものなのか?」

 とビョールが尋ねると、ノームのラトムが地面からぴょん、と飛び跳ねました。

「俺が地面に潜って魔金をちょいと採ってきたからな! 実物を見せれば、人間は簡単にだまされるぞ! 人間はドワーフの次に欲深い――あ、えぇと――黒いドワーフの次に欲深い奴らだからな」

 ドワーフのビョールを見ながら、ラトムはあわててそんなふうに言い直しました。その両足首にもう封じの足輪はありません。ドワーフの鍛冶屋が外してくれたのです。地面に潜る能力を取り戻したラトムは、山裾からこっそりジタン山脈の地下へ行き、鉱脈からひとかけら魔金の原石を採ってきたのでした。

「普段なら、むこうだって、もっと慎重に動くかもしれないけれど、今はメイとサータマンが主導権争いをしている最中だからね。きっと先を焦って、ひっかかってくれると思うんだ」

 と言うフルートに、ゼンがあきれた顔になりました。

「ホントに、よくそんな作戦を思いつくよな。おまえ、人をだますのがうまいぞ」

「いやいや。戦いにおいて、相手をだまして策にはめるというのは、非常に大事な戦術ですじゃ。勇者殿は軍師の才能もおありですの」

 と深緑の魔法使いが感心します。

 ふむ、とオリバンは腕組みしました。

「どうだ、フルート。デビルドラゴンを倒したら、ロムドの軍師になる気はないか? 優遇するぞ」

 それがロムド王の口調そっくりに聞こえて、フルートは思わず苦笑しました。

「遠慮しときます。ぼくに軍人は無理ですよ。ただ、できるだけ人を死なせたくないだけなんだから」

 

 そこへ、森の奥からゴーリスがやって来ました。黒ずくめの鎧兜に大剣を下げた、いつもの格好です。フルートに向かって言います。

「ドワーフたちが塹壕を坑道に作り直したぞ。メイとサータマンはまだ動き出さないのか?」

「そろそろのはずです」

 とフルートが答えたとき、ポポロが振り返って言いました。

「来たわ! メールとルルよ!」

「ワン、連合軍に偽の情報を運んだ兵隊さんも一緒だ!」

 とポチも梢の間から空を見て尻尾を振ります。

 まもなく、風の音と共に風の犬のルルと花鳥が一同の前に舞い下りてきました。花鳥の上には、ジタン山脈の陣営へ行った脱走兵も乗っています。鳥は、地面についたとたん、ざあっと音を立てて花になって咲き始めました。ルルも犬の姿に戻ります。

 脱走兵はオリバンの前へ走っていくと、片膝をついてもう一方の膝に組んだ手を置き、忠誠の姿勢をとりました。

「ただいま戻りました、殿下」

「危険な任務ご苦労。メイとサータマンの反応はどうだった?」

 とオリバンが相手をねぎらってから尋ねます。

「は、両軍の総司令官たちがいる場所へ連れていかれましたが、全員が、森に魔金があるという私の話を信じ込みました。ただちに森へ総攻撃をかける、と両軍がものすごい勢いで準備を始めています。まもなく突撃を開始すると思われます」

 フルートの狙いの通りでした。

 すると、ラトムが口をはさんできました。

「ノームはいたかね? 俺の仲間たちだ。サータマン軍の馬車に閉じこめられて、三十人ばかり連れてこられているはずなんだが」

 脱走兵のふりをして敵陣に入り込んだ兵士は、首を振りました。

「残念ながら、そこまではわかりませんでした。メイ軍の陣営の方に連れていかれましたので」

「大丈夫だよ、ラトム。ノームたちは必ず助け出すから」

 とフルートが安心させるように言います。

 

 その時です――。

 ふいに彼らの間に黄金の髪と瞳の少年が姿を現しました。

「フルート、見ろ!」

 と叫びながら、空へ手を突きつけます。

 とたんに、森の上空で小さな金の爆発が起きました。キーッと何かが鳴き声を上げて逃げ出します。それは真っ黒い鳥のような怪物でした。

「闇の怪物!?」

 一同は驚きました。存在にまったく気がつかなかったのです。

 鳥の怪物はまっすぐ山の方へ飛び戻ろうとしていました。フルートがとっさに炎の弾を撃ち出しますが、よけられてしまいます。すると、ゼンがエルフの矢を放ちました。怪物が向きを変えても、後を追いかけて射落とします。そこへフルートが駆け寄り、炎の剣で焼き払いました。

 

 メールが震えながら言いました。

「ご、ごめん……あたいたち、後をつけられてたんだ……」

 すると、金の石の精霊が言いました。

「君たちは兵士を救出するのに、ぼくの守りの外に出たからな。デビルドラゴンの闇の目に見つかったんだよ。今のは偵察のための怪物だ。距離があったから、こっちの話の内容までは聞こえなかったと思うが、こっちが何かを企んでいることは、怪物の目を通じてデビルドラゴンに伝わったはずだ。連合軍がフルートの策に乗ってくれるかどうか怪しくなってきたぞ」

 一同は顔色を変えました。

「どうする、フルート!? 連中が一気に森に攻めてこなかったら、どうしようもねえぞ!」

 とゼンが言います。

 フルートは青ざめたまま、片手を口元に当てて、じっと考え込みました。

 ジタン山脈から鬨の声が上がり、山や森を揺るがしました。いよいよメイ軍とサータマン軍が森へ突撃を開始するのです。かなりの人数の声でしたが、ゼンの言うとおり、全軍で山を下りてくれなければ、フルートの計画は失敗してしまいます……。

 ポポロは真っ青な顔で両手を握りしめました。大勢の人間を一瞬で殺せる、恐ろしい自分の手です。それでもやっぱり魔法を使うしかないのかしら、と考えて、今にも泣き出しそうになります。

 すると、フルートがビョールを振り向きました。

「ドワーフの勇気を見込んで、お願いがあります。それがうまくいけば、なんとかなるかもしれません」

 それは? と全員がフルートに聞き返す中、ビョールは即座に立ち上がりました。

「わかった、ドワーフたちを集めてやる。場所はどこだ」

 フルートの作戦の内容を確かめることもしません。それだけ絶対の信頼を寄せているのです。

「できたばかりの坑道に。時間がありません。大急ぎで」

 とフルートは答えました。

 ジタン山脈からは何度も何度も鬨の声が響いていました。声のたびに、敵の中で気運が高まっていくのがわかります。

 緊迫した空気の中、フルートたちの陣営もあわただしく動き出しました――。

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