「おまえたち……?」
地面からオリバンは呆然とつぶやきました。
空から風の犬が舞い下り、その背中から少年少女たちが飛び下りてきました。金の鎧兜の小柄な少年、大きな弓矢を背負ったたくましい少年、赤いお下げ髪の華奢な少女、緑の髪の長身の少女――紛れもなく、金の石の勇者の一行です。
すると、ゴーリスが飛び起きて叫びました。
「フルート、来い! 深緑の魔法使いが怪我をした!」
即座に金の鎧兜の少年はそちらへ走りました。ところが、すぐ近くに猿の怪物がまだ生き残っていました。頭から血を流しながら、フルートに飛びつき、顔にかじりつこうとします。
「るせぇ! 邪魔すんな、この猿!」
すぐ後ろについていたゼンが、怪物をフルートから引きはがして殴り飛ばしました。怪物が地面にたたきつけられて、グェッと潰れます。
その間にフルートはゴーリスの元へ駆けつけました。首からペンダントを外し、地面に横たわったまま動かない魔法使いへ金の石を押し当てます。
すると、老人は大きく息を吐いて、すぐに目を開けました。濃い眉の下から少年を見上げ、一瞬鋭く目を光らせてから、笑う顔になります。
「これはこれは……勇者殿。それに他の皆様方も……。こんな助けが来るとは、想像もしておりませんでしたの」
オリバンが跳ね起きてフルートを捕まえました。確かめるように、フルートの腕を握りしめます。
「本物か……! だが、何故ここに、と聞くのは後回しだな。あの竜を撃退しなくてはならん」
すると、フルートが、にこりと笑い返しました。
「あれは本物のデビルドラゴンじゃないですよ。攻撃をしかけなければ、向こうからは何もできません」
なに!? とまた人々が驚くと、ポポロが深緑の魔法使いに言いました。
「もう一度、あの竜の正体を見てください。あれも本当の姿じゃないんです――」
「なんと」
魔法使いの老人は起き上がり、再び空の怪物を見上げました。
すると、影の竜がまた大量の魔弾を撃ち出してきました。一同に降りかかってきます。けれども、老人が守りの魔法を繰り出すより早く、今度はゼンが言いました。
「馬鹿野郎、そんな幻影にだまされるかよ! 本物の魔弾ってのは、もっと迫力あるんだぜ!」
とたんに、魔弾の雨が薄れて消えていきました。人々はまた呆気にとられます。
「早く」
とポポロに促されて、深緑の魔法使いは空の竜に杖を突きつけました。鋭い目でにらみつけて言います。
「正体を――見せい、影の竜! それが本当の姿でないとしたら、おまえは何者じゃ!?」
とたんに影の竜も薄れ始めました。巨大な体の周辺から溶けるように見えなくなっていって、小さなものが、ぽつんと空に残ります。それは一枚の古びた鏡でした。黒ずんだ縁飾りの中で、銀色に光っています。
「魔鏡じゃったか……。こっちの攻撃を跳ね返して、それで攻撃していたんじゃな。すっかりだまされたわい」
苦々しくつぶやいて、魔法使いはまた杖を突きつけました。老人の鋭い眼光を受けたとたん、空の鏡が砕け散りました。あっという間に消えていってしまいます。
一方、フルートはペンダントを高くかざしていました。猿の怪物はもうあとわずかになっていましたが、それでもまだドワーフや兵士たちと戦い続けていたのです。それを見ながら、声高く言います。
「金の石!」
たちまちペンダントが澄んだ光を放ち、怪物を跡形もなく溶かしていきました。周囲から敵が完全に姿を消し、静けさが訪れます――。
ドワーフや兵士たちは、あたりを見回しました。
猿の怪物も、空に羽ばたいていた闇の竜も、もうどこにも見当たりません。代わりにいるのは、二匹の風の獣と四人の少年少女たちです。彼らは、その正体を知っていました。武器や槌やつるはしを高く掲げて、いっせいに歓声を上げます。
「金の石の勇者たち、万歳――!!」
そして、彼らは互いの健闘をたたえ合いました。
「勇敢な北の峰のドワーフたちに、武神の祝福あれ」
「誠実なロムドの兵士たちに大地の女神の恵みあれ」
再び、彼らの声が、おぉぉーっ! と響き渡ります。
フルートたちは大人たちに笑って見せました。
「間に合って良かった。大急ぎで駆けつけてきたんですよ――」
「ポポロに魔法使いの目で探してもらったら、みんなが闇の怪物と戦っているって言うからよ。焦った焦った」
「あんなに速く飛んできたのって、初めてだったかもね」
「ポチがもう少し速く飛べたら、私はもっと速かったのよ」
「ワン、しょうがないじゃないですか。ゼンが重かったんだもの」
いつものように賑やかな彼らに、オリバンが笑い出しました。
「なるほど、ユギルが言っていたのはおまえたちのことだったのか。本当にびっくりさせられたぞ!」
「元気そうだったな」
とゴーリスも満足そうに言い、深緑の魔法使いが、うむうむとうなずきます。ビョールは腕組みしたまま何も言いませんが、彼らを見る目は、やっぱり笑っていました。
少年少女たちはいっそう笑顔になりました。口から、ごく自然に一つのことばが飛び出してきます。
「ただいま――!」
空を流れる雲が切れ、のぞいた青空から日差しが降りそそいできました。