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第11巻「赤いドワーフの戦い」

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18.星明かり

 星空が広がっていました。

 月もない夜ですが、星明かりが景色をほのかに照らし出します。

 そこは木がまばらに生える平原でした。時折、夜風が吹き渡ってきます。埃っぽい、乾いた風です……。

 そんな景色を一人の男が眺めていました。ダチョウに似た鳥にまたがって、手綱を握っています。ドワーフの猟師頭のビョールでした。油断のない目で周囲を見回し続けています。

 すると、背後の窪地から別の男が出てきました。何も言わずにビョールの隣まで歩いていきます。走り鳥に乗ったビョールよりも背が高く、星明かりに鈍く光る銀の鎧を着ています。

 ビョールが振り向きもせずに言いました。

「見張りなら、俺たちドワーフの猟師が交代でしているぞ、王子。夜明けにはまた出発する。寝ておかないと、人間には身が持たないだろう」

「人間には、か」

 とオリバンはちょっと苦笑しました。

「確かに、旅立ってからずっと、ドワーフの頑強さには感心させられるばかりだ。毎晩三、四時間寝るだけで、あとは延々歩き続けられるのだからな。それでいて、疲れた様子も見せない。へばったのは、我々の馬の方だ。おかげで、二度も替え馬を取り寄せる羽目になった」

「丈夫な体は自然が俺たちドワーフに与えたものだ」

 とビョールは答えました。それきり、あとはもう何も言いません。ただ周囲へ警戒を続けます。

 

 オリバンはビョールに並んで行く手を見ました。目が慣れれば、星明かりでも景色は見えるようになります。彼らの周囲の平原は、ロムド西部に広がる大荒野でした。彼らは森林地帯を抜け、南西のジタン山脈目ざして荒野を進み続けているのでした。

「間もなく我々は西の街道を横切る。その付近には町や村が多い。人目に気をつけなくてはならないだろう」

 とオリバンは言いました。極秘のうちにジタン山脈に到着しなくてはならない移住団です。できるだけ人に見られずに進みたいところでした。

「占者が行き方を教えるという話だったか?」

 とビョールが言います。オリバンもぶっきらぼうとよく言われますが、それに輪をかけたそっけなさです。それでいて、必要なことはしっかり伝えてくるし、必要な配慮もできるのです。

 オリバンはうなずきました。

「城にいるユギルの指示を、白の魔法使いが深緑の魔法使いに伝えてくる。可能な限り安全な進路を行くことができるだろう。今の進み具合なら、西の街道を越えて四日ほどで、行く手にジタン山脈が見えてくるはずだ」

 沈黙が訪れました。鳥に乗ったドワーフと、そのかたわらに立つ大柄な人間は、並んで夜の荒野を眺め続けました。鳥や獣の声さえ聞こえてこない、静かな夜です。

 やがて、ビョールがまた口を開きました。

「ここまで俺たちは何事もなく来た。だが、いくら占者が道案内しても、誰にも見られずに行くのは無理だろう。妨害される可能性も出てくるな」

「この場所から一番近い外国はザカラスだが、そこはもう心配ないのだ。あの国は新しい王を迎えて我々の朋友になった。警戒しなくてはならないのは、我が国とザカラスに国境を接しているメイだ。今のところ動きは見せていないが、常に我が国を警戒している。ジタンからも近い場所にある。メイに見つかれば、非常にやっかいなことになるだろう」

「同じ人間同士が疑い合い、だまして殺し合おうとする。人間というのは相変わらずだな」

 とビョールが冷ややかに言います。オリバンは苦笑しました。

「人間ってヤツはほんとにどうしようもねえよな! 同じ人間同士で疑い合って、喧嘩ばかりしてるんだからよ!」

 というゼンの声が聞こえた気がしたのです。

 

 少しの間、黙り込んでから、オリバンは別の話を始めました。

「先日、私はフルートやゼンたちの夢を見た。あいつらはどこかわからない景色の中を、いつものように賑やかに旅していた。元気でいるか? と声をかけたら、そっちこそ大丈夫か? と逆に心配されてしまった。むろんだ、と答えたら、ゼンが『こっちだって大丈夫に決まってらぁ!』と答えて――そこで目が覚めたのだ」

「いかにもあいつが言いそうなことだ」

 とゼンの父親は静かに笑いました。ビョールとゼンは、本当にあまり似ていません。笑い方だって、ゼンの方がもっと元気で、底抜けに陽気です。ですが、やっぱりどこか共通したものが感じられました。底に流れているものが同じだとでも言うのでしょうか。他人といるような気がしないのです。

「あいつらは、今頃どこで何をしているのだろう? また危険な目に遭っていなければ良いのだが」

 と心配を隠すこともなく行く手を見る皇太子に、ビョールはまた笑いました。

「向こうも同じことを思っているだろうよ。俺たちがジタンに向かっていることは、ゼンたちも知っている。今頃どうしているだろう、とあっちでも考えているだろう」

 考えているどころか、フルートたちは彼らを救うために、雪山越えまでしてこちらへ向かっているところです。けれども、ジタンへ旅する移住団は、それを知りませんでした。

 ドワーフと皇太子の青年は、並んで立ったまま、星空とその下の荒野を眺め続けました。目ざすジタン山脈はまだ遠く、フルートやゼンたちがいる場所までは、さらにはるかな距離が横たわっていました。

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