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第11巻「赤いドワーフの戦い」

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17.麓(ふもと)

 黒と薄緑がまだらになった景色が、行く手に広がっていました。雪はまだありますが、日陰や窪地に残っているだけです。足下の土は、雪解け水にしっとりと潤っています。

 馬を止めてそれを眺めていたゼンが、よし! と力強く言いました。

「山は終わりだ。国境の山脈を越えたぞ!」

 仲間たちがいっせいに歓声を上げました。馬の上で拳を高く上げ、互いに抱き合い、ワンワン、とほえます。フルートたちは雪の山脈を進み続け、何度も危険な目に遭いながら、とうとうロムド側に下りてきたのです。人も犬も馬も、誰も欠けていません。

「やれやれ、本当に雪山越えをしたか。しかも、たった五日でなぁ」

 とラトムが言ったので、ゼンがにやりとしました。

「見直したか、おっさん」

 ノームは口を大きくへの字に曲げて、それを見上げました。

「ああ、見直した。確かにおまえらは大した度胸と友情の持ち主だ。さすがは金の石の勇者の一行だな」

 思いがけずそんなふうに誉められて一同はびっくりしましたが、ノームがひどいしかめっ面をしているのを見て、吹き出してしまいました。

「なにさ、その顔!?」

 とメールが言うと、ラトムはますます渋い顔になって答えました。

「ノームがドワーフを誉めるなんてのは、まずありえないことなんだ。それをしているんだから、最高に感心しているんだと思え!」

 その言い方に、一同はまた大笑いです。

 

 ひとしきり笑った後、フルートは真面目な顔になって言いました。

「ぼくたちは山脈を越えてくるのに五日かかった。グル神の寺院跡でサータマン軍を見かけてからは、もう一週間以上が過ぎてる。サータマン軍はどこまで来ているだろうな? サータマン軍の先回りをできるかどうか。すべてはそこにかかっているんだ」

 ゼンが考えるように腕組みしました。

「地理がよくわからねえのが痛いな。ロムド側は地図があるけど、サータマン側はさっぱりだからな。軍隊がどこをどう通って、どのくらいの日数でジタンに到着するのか、見通しが立たねえ」

「ポポロの魔法使いの目でも、サータマン軍の居場所は見えないしねぇ」

 とルルが溜息混じりで言ったので、ポポロが自分の責任のようにしょげました。

 すると、ポチが言いました。

「ワン、いくらサータマンの疾風部隊だとしても、そんなに簡単には来られませんよ。雪山を越えずに、山脈の麓を回ってロムドに来るはずだから。そうすると、必ず隣のメイの国を通ってくることになります。メイとサータマンは昔から仲が良くないですからね。メイに見つからないように慎重に移動する分、時間がかかるはずです」

 なぁるほど、と仲間たちは納得しました。

 

 フルートは北西の方角へ目を向けました。山脈は越えましたが、まだ低い山がいくつか重なっていて、目ざすジタン山脈は見えません。それでも、そちらへ心をはせながら、フルートは言いました。

「ジタン移住団は、きっとサータマン軍の襲撃に気づいてない。人目につかないように移動しているから、警備の兵士だってそんなに多くはないはずだ。そこにあれだけの大軍で襲いかかられたら、いくら勇敢なドワーフやオリバンたちだってひとたまりもないよ。……絶対に、サータマン軍より先に着かなくちゃいけないんだ。絶対に!」

 繰り返し言うフルートに、ゼンがまた、にやりとしました。

「夜昼ぶっ続けで走って駆けつけろって言うなら、やってやるぜ。俺も黒星もそのくらいは平気だからな」

 フルートは笑い返しました。

「残念だけど、ゼンのペースだと、ぼくたちはついていけないよ。それに、まだ月が細いから、夜道は暗くて馬を走らせるのは危険だ。夜は休んで、あたりが明るくなるのと同時に出発する。日没まで駆け続けて、移住団と合流するんだ」

「一日中駆けるつもりか!」

 とラトムが驚きました。馬を疾走させるのにはかなりの体力がいります。彼らはまだ子どもで、しかも女の子までいるのです。

 けれども、フルートは、あっさりと言いました。

「敵に遅れるわけにはいかないですから。さあ、行くぞ、みんな!」

 おう! と仲間たちが即座に返事をします。まったくためらいのない声です。

 

 けれども、フルートが出発しようとすると、ゼンが待ったをかけました。

「その前に――飯にしようぜ、飯! 腹が減ってたら走れねえ! まずは食え、だ!」

 思わず二の足を踏んだ仲間たちが、すぐにまた笑顔になりました。誰もそれに異論はありません。全員が歓声を上げながら馬から飛び下りてきました――。

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