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第11巻「赤いドワーフの戦い」

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10.先回り

 サータマン軍がジタン移住団を襲撃しようとしている、という話に、仲間たちは真っ青になりました。

 ゼンがどなります。

「ば――馬鹿言うな! ジタンに向かう北の峰の連中はせいぜい百人だぞ! そこにあんな大軍で襲いかかるってぇのか!?」

「何がなんでもジタンを奪うつもりでいるんだよ。ロムドの領地に攻め込むんだ。ロムド軍から反撃されることも計算ずみなんだよ」

 とフルートが言います。

 一行はさらに青ざめました。オリバンやゼンの父親や他のドワーフたちのことを考えます。彼らは戦士としても勇敢ですが、百対千の戦いでは、勝敗は戦う前からわかりきっています。

「で――でもさ、ロムドには占者のユギルさんがいるんだよ。ユギルさんを出し抜いて、移住団を攻撃なんかできないだろ?」

 とメールが言いました。輝く長い銀髪に浅黒い整った顔、青と金の色違いの瞳をした青年を思い出しています。

 フルートは首を振りました。

「サータマン軍は闇魔法で自分たちを隠している。ユギルさんだって、闇の中にあるものを見通すことはできないんだ。この襲撃に気がつけないでいる可能性は高いよ」

 一同はまた息を呑みました。

 

「知らせなくちゃ――オリバンたちに!」

 とルルが言うと、どうやって? とポチが聞き返しました。

「ワン、向こうは騎兵隊だ。進軍を始めたら速い。しかも、向こうは地理に明るいから、ジタン山脈への最短ルートだって知ってる。それなのに、ぼくたちは自分がどこにいるのかさえわからないんですよ」

 厳しいようですが、子犬の言っていることは真実です。ゼンが腕組みしました。

「あの軍隊にくっついていくか……? あいつらにジタンまで案内させて、近くまで言ったところで先に出るか」

 ゼンはごく低い声になっていました。冷静に聞こえるのですが、これはゼンが最大限に腹を立てて、爆発寸前になっている証拠です。落ちつきなよ、ゼン、とメールが声をかけます。

 フルートは考え込みながら言いました。

「その方法は使えないよ。それじゃオリバンたちに知らせるのが遅れるし、サータマン軍に見つかる可能性も高いからな」

 すると、同じく考え続けていたポチが言いました。

「ワン、ポポロの魔法使いの声は使えませんか? オリバンに話しかけることができたら、サータマン軍の襲撃を知らせられるんだけど」

 ポポロは泣きそうな顔で首を振りました。

「無理よ……。オリバンとあたしたちでは遠すぎるの」

 フルートたちとなら、どんなに離れていても心で話ができるポポロですが、さすがにオリバンとは、そういうわけにはいかなかったのです。全員はまた考え込んでしまいました。

 やがて、フルートが口を開きました。はっきりした口調でこう言います。

「サータマン軍の先回りをして、オリバンたちに知らせに行こう。一番早く行けるルートを通ってジタンに向かう」

「ワン、でも、そのルートがわからないんですよ、フルート!?」

 と賢い子犬が思わず言い返しました。

「ポポロの魔法使いの目を使えば、ジタン山脈がある場所はわかる。そっちへまっすぐ向かうんだ」

「まっすぐ?」

 と驚いたのはゼンです。即座に北西へ目を向けます。

「確か、ジタンはあっちの方角のはずだよな……。間に山があるぞ」

 ここは森の中なので見ることはできませんが、ジタンの手前には、フルートたちが南山脈、サータマン人がミコン山脈と呼ぶ山の連なりがあるのです。すると、フルートはきっぱりと答えました。

「山越えをするんだ。サータマン軍は山脈の麓をぐるっと回ってジタンを目ざすはずだ。その間に、こっちは山脈を最短ルートで突破して、オリバンたちのところへ駆けつけるんだよ」

「山越えだと!?」

 とゼンはさらに驚きました。

「知ってるか、フルート? 春先、雪山は積もった雪が緩んで、ものすごく危険になるんだ。ミコンからの道と違って、魔法使いが道の雪かきをしていてくれるわけでもねえ。いくら最短ルートでも山越えは容易なことじゃねえぞ。命がけだ」

「ワン、ゼンの言うとおりですよ。春山はすぐに雪崩が起きて、とても危険なんです。……ぼくやルルが風の犬になって飛びますよ。知らせるだけなら、ぼくたちが行くのが一番早い」

 すると、フルートは首を振りました。仲間たちを見渡し、確かめるように、こう言います。

「思い出せよ。あのサータマン軍は闇の魔法で隠されているんだ……。彼らに闇魔法をかけているのは誰だ? あれだけの規模の軍隊に。しかも、連中は極秘のはずのジタンの秘密を知っている。どうやって知った? ロムド城は占者のユギルさんや魔法使いたちがいて、守りは堅いのに。強い闇の気配がするぞ」

 そんなフルートのことばに、仲間たちは目を見張りました。全員が思わず口にしたのは、同じ名前でした。

「デビルドラゴン……」

 

 フルートはうなずきました。

「金の石は魔王の復活を知らせてこない。でも、デビルドラゴンは誰かを魔王にせずに妨害を企むことがある。あいつはこのサータマンに来ているのかもしれないんだ」

 彼らがミコンから闇の竜を追い払ったのは、つい二週間足らず前のことです。それでもう次の攻撃を仕掛けようとしているのか、と驚く一同に、フルートは話し続けました。

「金の石は聖なる力でぼくたちを闇の目から隠してくれている。でも、ぼくから離れて別行動すれば、その姿は敵から丸見えになってしまう。ぼくたちは、全員一緒に行動しなくちゃいけないんだよ。デビルドラゴンに動きをつかまれないようにしながら、できるだけ早く、オリバンたちのところへ駆けつけなくちゃいけないんだ」

 仲間たちはさらにことばを失いました。できるだけ早く駆けつける、と言うのは簡単ですが、その前に横たわる現実の困難は、計り知れないものがあります。

 けれども、やがてゼンが言いました。

「ジタンに向かってるのは、俺の故郷の連中だ。親父だって、オリバンだっている。何がなんでも知らせに行かなくちゃならねえな」

 その目はもうジタンがある北西を見つめています。

 メールがうなずきました。

「今までだって、あたいたちは不可能に見えるようなことをやってきたんだからね。今回だって、きっとやりとげられるさ!」

 力強いことばに、ポポロも言いました。

「あたしも魔法をできるだけ上手に使うようにするわ。無事に山を越えられるように……」

「ワン、ぼくとルルだって、いざって言うときには風の犬になりますよ」

「任せてちょうだい」

 と犬たちも尻尾を振ります。

 フルートは大きくまたうなずきました。揺らぐことのない強い声で言います。

「山脈を越えて、サータマン軍より先にオリバンやドワーフたちのところへ。襲撃を知らせて、一緒に敵を迎え撃つぞ」

 おう! といっせいに仲間たちが答えます。

 

 ところが、その時、寺院跡の奥の方から突然騒ぎが聞こえてきました。角笛の音が森に響きます。サータマン軍がいる方向です。ぎょっとそちらを見た一行の耳に、兵士のどなり声が聞こえてきました。

「あそこだ――! 早く捕まえろ――!」

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