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第9巻「仮面の盗賊団の戦い」

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75.障壁

 怪物たちは、ついにロムド軍にすっかり追い払われました。逃げ損ねた怪物たちは、首を切り落とされ、油をかけられて体を焼かれます。もう復活してくることはできません。ロムド兵たちがさらに周囲の森の木の一本一本まで調べて回り、怪物がまったくいなくなったことを確かめて、また鬨の声を上げました。大歓声が再び森を揺るがせます。

「仮面の盗賊団の隠れ家もこの近くにあるはずです。探し出して、残党を残らず退治いたします」

 とワルラ将軍が言い、オリバンとフルートはうなずきました。盗賊たちはもう仮面をつけていません。闇の魔法が使えなくなった盗賊たちが、ロムド軍にかなうはずはありませんでした。これでやっと全部解決するんだ、という安堵感が全員の胸をよぎります。

 

「ああ、腹減った!」

 とゼンが声を上げました。森の上に広がる空を夕焼けが染めていました。いつの間にか一日が終わろうとしていたのです。

「もう夕飯の時間だぞ! それに、俺たちはめいっぱい戦ったんだ。今度はめいっぱい食って元気になる番だぞ!」

「それ、賛成! おいらも腹減ったな。なんか作ってよ、ゼン兄ちゃん」

 とロキが言います。ゼンが、お? と言って顔をしかめました。

「このうえ俺に飯まで作れって言うのかよ? 俺自身が死ぬほど腹ぺこなんだぞ」

「だぁって、ゼン兄ちゃんの豆シチューは最高においしいんだもん。また食べたいんだよ」

「おまえなぁ。豆が煮えるのにどのくらい時間がかかると思ってんだよ。簡単に言うんじゃねえや」

 ゼンは怒ったように文句を言い続けますが、まんざらでもない顔をしています。ちゃっかりした甘えん坊の少年が、本当はかわいくてしかたないのです。

 ワルラ将軍が笑いながら言いました。

「ゼン殿の料理ほど上出来ではありませんが、今は軍の調理人が作った食事を召し上がってください。皆様方はまずは食べて充分休まなければなりませんからな」

「そうだ。まずは食え、だ。エンドウ豆のシチューは明日の朝作ってやるよ。それまで待ってろ」

 とゼンが大きな手でロキの髪の毛をくしゃくしゃにします。いかにも子どもっぽい扱いをされて、やめろよ! とロキが抗議しました。他の者たちがそれを見て笑います。フルートも笑いながら地面に転がっていた金の兜を拾い上げました。またそれをかぶります――。

 

 やがて、ガスト副官が勇者の一行に言いました。

「お待たせしました、食事の用意ができました。あちらの天幕へおいでください」

 森の空き地の外れにワルラ将軍の天幕が張られていました。夕闇が迫って、あたりは薄暗くなっていましたが、天幕とその近くで調理する料理人たちの姿は、かがり火の光に浮き上がって見えます。もっと小さな火が、森のあちこちに見えています。ロムド兵たちが松明を掲げて、盗賊の残党を捜し回っているのです。

 ロキが歓声を上げて真っ先に駆け出しました。

「いい匂いがするよ! 何ができたのか確かめてくる――!」

「行きゃすぐにわかるだろうが。落ちつけったら」

 ゼンが文句を言いながらそれを追いかけます。他の者たちも天幕に向かって歩き出します。ロキとゼン以外の全員はのんびりした足取りになっています。

 

 すると。

 

 突然、猛烈な風と雪が巻き起こりました。だしぬけに吹雪が始まったのです。大粒の雪が痛いくらいに体をたたき、あっという間に視界を奪ってしまいます。

「な、なんだこりゃ!?」

 とゼンは驚きました。先を走っていたロキの姿がもう見えません。後に続いていた仲間たちも見えなくなっています。ごうごうという風の音があたりをいっぱいに充たしています。

 すると、その中から声が聞こえました。

「お気をつけください! 闇の気配です――!」

 ユギルです。それに続くように、ルルの声も響きました。

「この吹雪は闇の匂いがするわ! 闇の魔法よ!」

 全員がぎょっとしていると、行く手で悲鳴が上がりました。ロキです。激しい雪の中、声が遠ざかっていきます。誰かに連れ去られようとしているのです。

「ロキ!!」

 フルートたちはいっせいに声の方へ走り出しました。

「ちっきしょう、どういうことだよ!? 盗賊どもはもう闇魔法は使えねえはずだろう!」

 とゼンがわめきます。すると、突然何かにぶつかりました。壁のようなものが吹雪の中に立ちはだかっていたのです。ゼンはあわててそれを探りました。堅い手応えがします。それなのに、いくら目をこらしても、そこに何があるのか見ることができないのです。

 

 そこへ、他の仲間たちも次々にやってきました。同じように見えない壁に阻まれて、先に進めなくなります。

「これはなんだ!?」

 とオリバンがどなると、ユギルが答えました。

「闇の障壁です。行く手をさえぎっております」

「ロキ! 大丈夫かい!? 返事をしなよ!!」

 メールが見えない壁をたたいて呼びました。ワルラ将軍とガスト副官が体当たりをしますが、魔法の壁はびくともしません。ロキの声ももう聞こえてきません。

 ワンワンワン、とポチとルルはほえました。風の犬になれば見えない障壁を越えることができるのかもしれませんが、こんな猛吹雪の中では変身ができません。

 ゼンはどなるように呼びかけました。

「どうする、フルート!? ロキがやべえぞ!」

 ところが、親友の返事がありませんでした。あたりは風の音でいっぱいです。それに逆らいながら、ゼンはさらに声を張り上げました。

「フルート!!」

 やっぱり返事は聞こえません。ゼンは焦りました。吹雪の荒れ狂う夕闇の中へ必死で目をこらします。夜目の利くゼンですが、どこにもフルートの金の鎧兜は見つかりません。

 すると、ユギルとポポロの声が同時に響きました。

「皆様方、敵襲です!」

「盗賊たちよ! 戦って――!」

 夜と吹雪の中、刀で斬りかかってくる男たちがいました。オリバンが即座に大剣を引き抜いて、それを受け止めます。

「やはりあきらめてはいなかったか! ロキをさらったのも貴様らだな!?」

 オリバンと剣を合わせていた盗賊が笑いました。

「あったりめえよ。特にお頭はな。蛇みたいに執念深く恨みを忘れねえ人なのさ」

 ギン、と音を立ててオリバンと盗賊が離れました。吹雪の中、再び武器を構え合います。

「わしたちの後ろへ、皆様方!」

 とワルラ将軍がガスト副官と剣を抜いて言いました。自分たちの後ろに武器を持たない少女たちやユギルをかばいます。近くには部下のロムド兵たちが大勢いるはずですが、猛吹雪に視界を阻まれて、ここで何が起きているのか周囲にはまったくわからないのです。自分たちを盗賊が取り囲むのを感じながら、剣を構え続けます。

 ウゥゥーッとポチはうなり続けていました。隣からルルが尋ねます。

「ポチ、何人いるかわかる?」

「八、九人ですね……。みんな武器を持ってます。殺意の匂いをぷんぷんさせてる」

 とポチは答えました。ルルと一緒に、どの敵に襲いかかろうかと身構えます。

 ゼンはショートソードを抜いていました。ゼンにも盗賊が切りかかってきます。それを受け止めながら、ゼンは呼び続けました。

「フルート! フルート――!?」

 夜の吹雪の中から、やっぱりフルートの返事はありませんでした……。

 

「えっ……?」

 突然吹雪がやんだので、フルートは驚いて立ち止まりました。急に視界が晴れていきます。

 そこは野原の真ん中でした。赤みを帯びたほの暗さが漂っていますが、見通しがきかないほどではありません。それなのに、たった今まで自分たちがいた森が見当たりませんでした。まったく別の場所へ来てしまったのだ、とフルートは直感的に悟りました。

「な、なんだこりゃ! どこだよ、ここ!?」

 すぐそばでわめき声が上がります。ふてぶてしい顔に大きな体の青年が、見覚えのない景色に驚いてきょろきょろしていました。

「ジャック」

 とフルートは言って、さらに見回し続けました。夕暮れの野原にいるのはフルートとジャックだけです。他の仲間たちの姿は、どこにもありません。

 フルートの全身を言いようのないものが包んでいきます。危険と殺意の気配です。敵が潜んで、こちらを狙っているのです。ゼン! と親友の名を呼びましたが、どこからも返事は聞こえてきませんでした。

 

 すると、彼らの目の前で暗いものが渦巻き、そこから男が姿を現しました。盗賊の首領です。その顔にもう仮面はないのに、闇の中から姿を現したのでした。

 とたんに、子どもの金切り声も響きました。

「離せ! 離せったら!!」

 ロキが盗賊の首領に腕をつかまれて身をよじっていました。どんなに暴れても首領はロキを離しません。

「ロキ!!」

 青ざめたフルートに向かって、首領はにやりと笑って見せました。

「何を驚いてやがる。まさかこれで終わりだなんて思っていなかったんだろう? 仮面の魔王がいなくなったって、そんなことはどうでもいい。俺は貴様から受けた恨みを晴らせれば、それで充分なのよ。来い、勇者の坊主。最後の戦いと行こうぜ」

 そう言って、盗賊の首領は刀を抜きました。立ちすくむフルートの目の前で、冷たく光る刃がロキの首筋に押し当てられました――。

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