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第9巻「仮面の盗賊団の戦い」

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第20章 決戦・2

73.守護

 「フルート!」

 空からポチとルルが舞い下りてきました。犬の姿に戻ると、ポポロやロキと一緒にフルートへ走ります。ゼンとメールも駆け寄ってきます。

「こんちくしょう! 今回はさすがに、やばいかと思ったぞ!」

 とゼンが笑ってフルートに飛びつきます。フルートはいっそう笑顔になると、他の仲間たちを見回しました。

「みんな無事で本当によかった……! ロキも、もう大丈夫かい?」

「まぁね。まだちょっとくらくらするけど、大したことないよ」

 と黒髪の少年は答えて、えへへっ、と笑いました。本当に顔色はずいぶん良くなってきていました。

 禍霧が作った森の空き地に、空から日の光が降りそそいできます。冬の空は晴れ渡り、青空の中で白い雲が輝いています。

 それを見渡して、メールが、あれっと気がつきました。

「盗賊たちがいないよ。あの辺にいたはずなのに」

 まだ十人ほど残っていた盗賊たちが、いつの間にか姿を消していました。霧の怪物が消えると同時に、森の奥へ逃げてしまったのです。禍霧と一緒に彼らを取り囲んでいた闇の怪物も、金の光に追われていなくなっていました。

「やぁれやれ。これでなんとか一段落か?」

 とゼンが言ったときです。少し離れた場所から突然オリバンが呼びました。

「フルート、早く来い! 金の石の様子がおかしいぞ――!」

 

 えっ!? と少年少女たちは驚きました。オリバンの元へ駆けつけると、その足下に金の髪と瞳の少年がうずくまっていました。すぐそばにはペンダントも落ちています。

「金の石!」

 とフルートがかがみ込むと、精霊の少年が顔を上げました。白い肌が色を失って、透き通るように薄くなっています。消えかけているのです。いつもの消え方と違うような気がして、フルートはあわてて手を差し伸べました。

「どうしたんだ、金の石!?」

 すると、精霊は身をよじってその手を避け、にらむように見返してきました。

「心配されるようなことじゃない。ちょっと力を使いすぎただけだ。全然回復していないうちに働かされたからな」

 フルートはことばを失いました。石使いが荒いぞ、と精霊がさっき文句を言ったのは冗談ではなかったのです。その間にも、精霊の姿はどんどん薄れていきます。

 ジャックと一緒に駆けつけてきたユギルが、細い眉をひそめました。

「金の石、お休みください。そのままでは本当に力を失って、二度と輝きを取り戻せなくなりますよ」

 フルートたちはまたびっくりしました。それってどういうこと!? と聞き返します。

「金の石は弱っていたのに力を使いすぎました。それなのに、まだ、わたくしたちの周りに聖なる障壁を張り続けてくれているのです。おそらく、目覚めているだけでもかなりのエネルギーを消費するのでしょう。このままでは力を使い果たして、元に戻れなくなります」

「金の石!」

 とフルートはまたかがみ込みました。黄金の髪の少年を抱きかかえます。精霊はもうそれを振りほどきませんでした。それだけの力もなくしていたのです。皮肉な顔で笑って見せます。

「ぼくが休んだら、せっかく逃げていった闇の怪物たちがまた戻ってくるぞ……。ものすごい数だ。今、眠るわけにはいかないな……」

「だめだ、金の石! 休めったら!」

 フルートは必死で言い続けました。その手の中で、少年の姿はますます薄くなっていきます。精霊は溜息のような声をもらしました。

「もう言い合う力もないか……。しかたない、少し休む。気をつけろよ、フルート……」

 ふぅっと精霊の姿が見えなくなりました。その足下に落ちていたペンダントの真ん中で、金の石が輝きを失って灰色になっていきます。

 

 フルートはペンダントを拾い上げました。それを首にかけると、空を見上げ、耳を澄まします。さわさわと遠くから何かの気配がしていました。次第にこちらへ近づいてきます。闇の怪物たちの気配です……。

 フルートはポチを振り向きました。怪物が迫ってきているというのに、なぜだか微笑んでいるように見えて、ポチはとまどいました。フルートは声に出さずにひとつの想いを伝えてきています。ポチ、ぼくと一緒に行こう、と――。ポチを見る目を上に向けて、空へ誘って見せます。

 とたんに、ポポロがフルートの腕に飛びつきました。驚くフルートに真剣な顔と声で言います。

「フルート、約束よ! 一人だけで戦ったりしないで。行ってしまってはだめ!」

 ゼンもすぐさま太い腕を親友の首に回して、ポポロ一緒にフルートを抑え込みました。

「ったく。またかよ、この馬鹿野郎は……! 一人で無茶するんじゃねえって言ってんだろうが!」

 フルートが風の犬のポチで飛び立って自分に怪物を惹きつけようとしたのを察したのです。

 でも、とフルートは焦りました。周りにいる仲間たちを見回します。ポポロはもう今日の魔法を二つとも使い切ってしまいました。迫ってくる怪物の大群を倒す方法がありません。

 すると、オリバンが聖なる剣を抜きました。禍霧で一度黒く染まった刀身が、また銀色に戻っていました。

「聖なる剣は力を取り戻した。心配するな。これでまた怪物を撃退してやる」

「ジャック殿はこれをお使いください」

 とユギルが落ちていた魔法の戦棍を拾い上げて渡してきました。

「まだ何発か光の弾を撃ち出すことができます。かなりの反動があるのですが、ジャック殿なら大丈夫でございましょう」

 メールはロキを引き寄せました。あたいのそばにいなよ、と話しかけます。二匹の犬たちが再び風の犬に変身して、一行の周りに風の壁を作ります。全員が怪物の襲撃に備え、フルートを守ろうとしています。

 フルートはまた何も言えなくなりました。なんだか胸がいっぱいになってしまいます……。

 

 ざわざわと近づく気配が大きくなってきました。

 ポチとルルが渦を巻く外側の地面が盛り上がり、長い爪のはえた手や黒い触手が土中から現れてきます。

「勇者、ユウシャ」

「金の石ノ勇者……」

「ドコだ? ドコにいる?」

「願い石をヨコセ」

 たちまち何十匹という怪物が彼らを囲みます。

 森の奥からも怪物たちがぞろぞろと這いだしてきました。こちらは百匹を超える数です。青空の彼方からは空飛ぶ怪物が近づいてくるのも見えていました。

 ゼンが周囲の敵へ矢を放ち始めました。怪物を倒すことはできなくても、足止めにはなります。ポチとルルが激しい風で怪物を吹き飛ばします。隙を突いて飛んでくる触手をユギルが先読みし、オリバンが聖なる剣で霧散させます。

 空から怪物が襲ってきました。

「見つけタ! 金の石の勇者ダァァァ!」

 金切り声を上げながら急降下してきます。フルートはとっさに身構えました。まだ腕にしがみついていたポポロを体でかばおうとします。

 すると、怪物に光が激突しました。そのまま破裂して、あたりをまぶしく照らし出します。ジャックが戦棍から光の信号弾を撃ち出したのです。空飛ぶ怪物が悲鳴を上げて消え、他の怪物たちもざーっと光から下がっていきます。

「ジャック」

 と見つめたフルートに、ジャックは顔をしかめて見せました。何も言わずに戦棍を空に向け、また次の光を撃ち出します――。

 

 フルートはポポロの手から自分の腕を引き抜きました。まだ心配そうな顔をしている少女にうなずいて見せます。

「大丈夫。みんなと戦うから」

 背中から黒い剣を引き抜き、光が消えた瞬間に飛び込んできた怪物を切り払います。怪物が燃えながら地面に落ちます。

 いくら切り払っても、光の弾を撃ち出しても、周囲に怪物は集まり続けます。空の彼方からも、続々と怪物が飛んできます。それでも彼らは戦い続けました。フルートを中心に、一歩も退こうとはしません。

 そんな仲間たちの姿にフルートは戦いながら笑いました。その笑顔は今にも泣き出してしまいそうに見えました――。

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