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第9巻「仮面の盗賊団の戦い」

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61.反撃

 フルートは思わず目をつぶりました。自分の顔の周りで空気がどんどん熱くなっていくのを感じます。今、フルートは兜をかぶっていません。むき出しの頭は炎の魔法を防ぐことができないのです。少し癖のある金髪が揺らめき、耐えられないほどに熱くなってきます――。

 ところが、その時、フルートをにらみつけていたジャックが、勢いよく後ろ向きに倒れました。いきなり伸びてきた手に足をすくわれたのです。

 代わりに立ち上がってきたのはゼンでした。大声でジャックをどなりつけます。

「馬鹿野郎! 悪党とぐるになって人殺しして勇者になれるか! 寝ぼけるのもいい加減にしろ!」

 ジャックは倒れたまま、ぽかんとゼンを見上げていました。信じられない顔をしているのが、仮面の上からもわかります。ゼンはジャックの能力で火だるまにされたはずなのです。

 すると、離れた場所から少年の声も言いました。

「そうさ! 勇者ってのは強けりゃなれるってわけじゃないんだからな! 心がなかったら、絶対勇者にはなれないんだ!」

 爆発の跡も生々しい地面から、ロキが身を起こしていました。吹き飛ばされてたたきつけられたはずなのに、かすり傷一つ負っていません。

 ゼンが、にやりとしました。

「いいセリフだな、ロキ。かっこいいじゃねえか」

 ロキも、えへへっと笑い返しました。元気いっぱいで地面から飛び起きてきたので、爆発男がそんな馬鹿な、と声を上げます。

 上空に浮かんだ首領が苦々しく言いました。

「金の石に守られやがったな……。まったく邪魔な石だ」

「俺の方はどんな魔法も効かねえんだよ。残念だったな!」

 とゼンが得意そうに言います。ゼンが着ている青い胸当てには、あらゆる魔法を解除する能力が組み込まれています。エスタ国の名工のピランが改良してくれたのです。ジャックの炎の魔法で一瞬は燃え上がったものの、ゼン自身はまったくダメージを食らっていなかったのでした。

 

 フルートを抑え込む見えない手が緩んでいました。フルートは魔法の盾を掲げて力を断ち切りました。勢いあまって後ろにひっくり返りそうになったところを、ゼンが駆けつけて支えます。

「はい、兄ちゃん!」

 とロキも駆け寄ってきてペンダントをフルートに手渡しました。それを受けとって首にかけたとたん、ジャックに殴られて腫れ上がっていたフルートの顔が元に戻りました。

 フルートが落ちついた表情をしているのを見てゼンが肩をすくめました。

「なんだ。俺たちが無事なのに気づいてやがったな」

「だって、君の火はすぐに消えたし、ロキが金色の光に包まれたのも見えてたからね」

 とフルートが微笑を返します。ロキが、ちぇっ、と言いました。

「無事でよかった! とか感激してくれたら盛り上がるのにさぁ。フルート兄ちゃんって、変なとこ冷静なんだよな」

「ごめんね」

 とフルートがさらにほほえみます。その瞳は無傷な仲間たちを嬉しそうに眺めていました。どんなに大丈夫だとわかっていても、それでもゼンやロキが無事だったことを、心の中では喜んでいたのです――。

 

「さぁて」

 とゼンが取り囲む盗賊たちを見回しました。白い仮面の首領を含めて十五人ほどの男たちがいます。

「こいつらを片づけなくちゃならねえな。フルートと俺で七人ずつ、ロキが一人、ってところか――?」

「えぇ、おいらにもやっつけろって言うのか、ゼン兄ちゃん! それは無理だよ!」

 とロキが文句を言います。ゼンはまた、にやっと笑い返しました。

「冗談だ。隠れてろ。俺が八人倒す」

 すると、それに別の声が答えました。

「いいや、私たちもいる。割り当ての人数はもっと減るぞ」

 オリバンでした。吹雪の中から飛び出すように姿を現し、駆け寄りざま、手を突きつけていた盗賊を切り倒します。吹雪使いの盗賊はばったり倒れ、とたんに雪がやみました。深い地面の裂け目の向こう側が晴れて、寄りかたまって立つメールとポポロと二匹の犬たちが見えてきます。ところが、ユギルの姿は見当たりません。

 すると、地割れの中から声がしました。

「殿下、お避けください!」

 オリバンが飛びのいたとたん、足下の地面が爆発しました。爆発男が手を向けた恰好で舌打ちします。

 地面の裂け目から細身の男が現れました。長い銀の髪を風に流しながら立ち、色違いの瞳で盗賊たちを眺め回します。

「離れた場所から攻撃できるのは、爆発の力と、見えない手、それにジャックの炎の力だけですね――。ならば、わたくしたちにも充分勝算があるでしょう」

 オリバンとユギルは、深さ十メートル以上もある大きな地割れを、一度底に下り、よじ登って越えてきたのです。崩れやすく足場の悪い地割れの壁を越えることができたのは、ユギルの先読みの力のおかげでした。

 オリバンが振り向いて呼びかけました。

「来い!」

 即座に、ごうっと音を立ててポチとルルが風の犬に変身しました。メールとポポロを乗せて空に飛び立ち、地割れを越えてフルートたちの元へやってきます。

「おいで、ロキ!」

 とメールが舞い下りて黒髪の少年をポチの背中に引き上げました。

 オリバンもユギルと駆けつけてきました。

「さあ、これでまたこちらも勢揃いだぞ。覚悟するがいい、盗賊団!」

 と大剣をかざして宣言します。

 

 フルートが叫びました。

「ジャックを返せ! 彼はぼくらの仲間だ!」

 揺らぐことのない口調です。しりもちをついたままでいたジャックが、ぎょっとしたように後ずさりました。後ろに控える他の盗賊たちをおびえた目で振り返り、冷ややかな視線に出会って、夢中でフルートにどなり返します。

「黙れ、フルート! お、俺はおまえらの仲間なんかじゃねえ――!!」

 なんだか悲鳴のように聞こえる声でした。

 ゼンが肩をすくめました。馬鹿野郎、と小さな声でつぶやいてから、改めて言います。

「あいつの仮面を取って壊せ、フルート。そうすりゃ、あいつはもう闇の魔法が使えなくなるんだ。他の盗賊どもも同じだぞ」

 とたんに、盗賊たちがぎくりとした様子になりました。自分たちの弱点を見抜かれて、思わずたじろいだのです。

 ふん、と首領が空中で鼻を鳴らしました。

「そこまでお見通しか――。では、悠長なこともやってられねえな。貴様らの後からはロムド軍もやってくる。ここで一気に決めておくぞ」

 それだけを言うと、首領は大きく片手を振りました。なにかを呼び寄せるようなしぐさです。

 とたんに、フルートの胸の上が暗くなりました。金の石の輝きがいきなり薄れたのです。

「金の石!」

 と叫ぶフルートにユギルが言いました。

「首領はまた周囲の闇を濃くしております! 金の石の力が弱まります!」

「金の石! こらえろ――!」

 フルートは必死で叫び続けました。まるで生きている人間に呼びかけるような口調です。金の石が弱々しくまたたき、ふっと消えるように暗くなりましたが、次の瞬間、また光り始めました。ぼんやりとした暗い輝きですが、それでも光は失いません。

「よぉし! がんばれ、金の石!」

 とゼンもどなりました。本当に、そこに生きた人間の仲間がいるような調子です。金の石が、またほんの少し明るくなったように見えます――。

「無駄だ。石の聖なる光の障壁はもう消えているぞ」

 と盗賊の首領が冷ややかに笑いました。それが意味することを、フルートたちは承知していました。一カ所に寄り集まって身構えます。

 その耳に、予想していたものが聞こえてきました。地の底から響くような、不気味な声です。

「見えタ、見えタ――」

「見つけタ、金の石ノ勇者」

「願い石ヲ持ってイル」

「勇者を食えバ、願い石はオレのモノ……!」

 黒い影のようなものが、森の木陰や地面の中から次々と姿を現してきます。フルートは炎の剣を引き抜いて叫びました。

「闇の怪物だ! 気をつけろ――!」

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