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第9巻「仮面の盗賊団の戦い」

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57.窮地

 特殊能力を受け渡せる――? とフルートたちは驚きました。自分たちを取り囲み、襲いかかってくる盗賊たちを見回してしまいます。

 すると、鼻の大きな盗賊が、黒い仮面の下からにやりと笑いました。

「ご名答だ。俺たちはお頭から力をいただくが、お頭の判断で自由にその力を持ち変えることができるのさ。おまえらは仲間をずいぶん殺してくれたからな。その中でも強力なのを、俺たちが持ち替えたのよ」

 思わず青ざめた一行を見て、他の盗賊たちもいっせいに笑い出します。黒い仮面をつけた男たちが声を上げて笑う様は、なんとも言えず不気味です。

 けれども、すぐにメールが負けず嫌いな顔になりました。鼻の盗賊をにらみつけて言い返します。

「それじゃ、あんたも何か別な能力になったのかい!? あんたは確か、匂いで何でも見つける盗賊だったはずだろ?」

 よせ、メール! とゼンがあわてて声をかけたときには手遅れでした。鼻の盗賊はまた、にやりと残酷な笑いを浮かべると、メールに向かって両手を突きつけてきました。

「見たいか? じゃァ、見せてやろうな――!」

 とたんに、メールの体の内側で何かが猛烈な勢いでふくれ始めました。一瞬で息が詰まり、声が出せなくなります。後ろにしがみついていたロキも自分の胸を押さえて身をよじります。二人が乗っている馬までが、奇妙な声を上げて鼻面を上げ、蹄で激しく地面を蹴り始めました。

 ゼンは両手を伸ばすと、メールとロキを勢いよく馬から引きずり下ろしました。二人を抱きかかえて大きく飛びのき、後ろ向きに倒れます。そのとたん、メールとロキはまた息ができるようになりました。内側でふくれあがっていたものが、急速にしぼんでいったのです。

 ところが、後に残された馬だけは地面を蹴り続けていました。メールが乗っていたのは大きなたくましい軍馬です。少々のことでは動じないはずの馬が、頭を上げ、長い首をねじって苦しそうに暴れ続けています。

 すると、そこへポポロの悲鳴が聞こえました。

「三人とも、伏せて――!!」

 ゼンがとっさにメールとロキの上におおいかぶさります。その瞬間、ばぁん! と激しい音が響き渡り、何かが飛び散りました。暖かく湿ったものが、ばらばらとゼンたちの上に降りかかってきます。それは無数の紅い肉片と血の雨でした。メールたちが乗っていた軍馬が、音を立てて破裂したのです。

「爆発男――!」

 とフルートたちは真っ青になりました。

「ご名答。さあ、今度は馬じゃなくおまえらの番だな」

 と鼻の大きな盗賊がにやにやしながら両手を彼らに向けようとします。

 

 とたんに、ルルとポチがウォン! とほえて飛び出しました。吹雪はやんでいます。一瞬で風の犬に変身すると、爆発男に飛びかかっていきます。

 爆発男がルルに両手を向けました。ルルの白い霧のような全身が爆発してばらばらに飛び散ります。

「ルル!!」

 仲間たちが思わず叫びます。

 が、次の瞬間、飛び散ったルルの体がまた一カ所に集まっていきました。たちまちつながり合って、異国の竜のような長い姿に戻ります。

「無駄よ。私は風だもの。破裂させたりできないわ」

 とルルが渦を巻いて笑います。

 その間にポチが迫っていました。上空から爆発男に飛びかかろうとします。

 すると、その前に吹雪使いの盗賊が飛び出してきました。

「キャン!」

 ポチは雪に体を吹き散らされそうになって悲鳴を上げました。たちまち元の子犬に戻って空から落ちていきます。

「ポチ!」

 ルルは身をひるがえしました。吹きつけてくる雪を避けるようにして急降下し、ポチを地面の寸前で拾い上げます。

 そこへまた猛烈な吹雪が襲いかかってきました。ルルも犬の姿に戻って、ポチと一緒に地面に転がりました。そこへまた爆発男が手を突きつけます。

 

 フルートは二匹の犬を助けに駆け出しました。それをゼンの矢が追い越していきます。その鋭い先端はまっすぐ爆発男の胸を狙っています。

 ところが、そこにまた激しい雪と風が巻き起こり、矢を吹き飛ばしてしまいました。吹雪使いのしわざです。さらに吹雪は広がり、うなりながら森全体を包んでいきます。

「ちくしょう!」

 矢が使えなくなったゼンは、弓を背中に戻して駆け出しました。その行く手では、フルートが爆発男と戦い始めていました。自分よりずっと背の高い男と、真っ正面から斬り合っています。剣と刀がぶつかり合う音が響き渡り渡ります。

 けれども、ゼンは気がついていました。フルートが握っているのは銀のロングソードです。いつの間にか炎の剣から持ち替えていたのです。この馬鹿野郎! とゼンは心で叫びました。相手は残酷な盗賊です。手加減などしてやる相手ではないのに――。

 

 吹雪が森の中の視界をかすませていく中、そこここで激しい戦いが始まっていました。オリバンとユギルが毒蛇の男と戦い、ポチとルルが虎男と戦っています。メールもロキを守りながら数人の盗賊相手に槍を振り回しています。

 フルートに駆けつけようとするゼンにも、見上げるような盗賊が襲いかかってきました。巨人の盗賊です。ゼンめがけて振り下ろした拳が地面にめり込みます。

「なろぉ! おまえなんか相手にしてる暇はねえんだよ!」

 とゼンはまたわめくと、再び振り下ろされてきた拳を避けて、思いきり腕を振り上げました。まったく手加減なしの一撃を敵の腹にたたき込みます。

 けれども、敵は大きすぎました。熊さえ殴り殺すゼンの拳ですが、巨人はちょっとうめいただけで、またすぐに襲いかかってきたのです。ゼンは巨人の両手をがっしと受け止めました。フルートのところへ駆けつけることができません。

 

 カシーン、と高い音がして、爆発男の刀が宙を飛びました。フルートの剣の勢いを止めきれなくて、弾き飛ばされたのです。思わず体勢を崩してよろめいた爆発男にフルートが剣を振り上げました。がら空きになった男の背中に切りつけようとします。

 が、そのとたん、フルートの動きが凍りついたように止まりました。剣を振り上げたまま、目の前で膝をついた男を見つめてしまいます。その優しい顔は苦悩に大きく歪んでいました――。

 爆発男が体勢を立て直しました。振り向きざま、フルートの腹を蹴り上げてきます。フルートの小柄な体が吹っ飛び、ガシャン、と派手な音を立てて地面に倒れます。

「フルート!」

 とゼンは叫びました。組み合っている巨人の力はゼンとほとんど互角です。助けに駆けつけたいのに、どうしてもその場から動くことができません。

 フルートが起き上がろうとして、また地面に倒れました。まるで抑え込まれたような動きです。ゼンは、はっとしました。目で追った先に、もう一人の盗賊がいました。両手をフルートに突きつけています。力使いの盗賊が見えない手でフルートを押さえ込んだのでした。

 爆発男がにやりと笑いました。

「以前おまえを爆発させようとしたときにァ、不思議な金の光が守っていたようだったな。やっぱりこっちの方が確実か」

 とかたわらに落ちていたフルートの剣を拾い上げ、鋭い切っ先をフルートの顔に突き立てようとします。

「フルート!!」

 とゼンはまた叫びました。巨人を放り出して駆けつけようとします。

 とたんに、ゼンは大きな手に後ろから体をつかまれました。高々と持ち上げられ、そのまま地面にたたき付けられてしまいます。全身に激痛が走り、一瞬息が止まります。口の中いっぱいに血の味があふれます。

「ゼン!」

 と叫ぶフルートの声が聞こえました。今にも殺されそうな状況で、それでも親友の方を心配しているのです。馬鹿野郎! とゼンはどなろうとしました。人のことなんか気にしてねえで、早く逃げろ……! けれども、激痛がゼンの全身を襲い続けます。どうしても声が出てきません――。

 

 その時、少女が叫びました。

「セエカ!!」

 澄んだ響きが森の中に鋭くこだまします。とたんに、その場にいる全員がはじき飛ばされました。盗賊たちもオリバンもユギルもメールもロキも犬たちも、勢いよく地面に倒れます。

 その中心にポポロだけが立っていました。涙をにじませた目で爆発男をにらみつけ、片手を突きつけています。その指先から淡い緑の星が消えていきます。魔法で男の剣を跳ね返したのですが、例によって力が強すぎて、周り中の全員を跳ね飛ばしてしまったのです。

 ただ、初めから倒れていたフルートとゼンだけは、魔法に巻き込まれませんでした。フルートが跳ね起きて走り出します。駆けつけたのは、血を吐いて倒れているゼンの元でした。首から外した金の石を押し当てて、ゼンの怪我を治そうとします。

「馬鹿……! こんなことしてる場合か! 逃げろよ!」

 声が出るようになったとたん、ゼンはどなりました。フルートの手を振り払おうとしましたが、フルートは頑として動きません。唇を血がにじむほどかみしめたまま、治っていくゼンの傷を見守ります。

 その後ろに爆発男が忍び寄ってきました。気配に振り向いたフルートに飛びつき、力ずくで兜を引きむしってしまいます。むき出しになった金髪の頭へまた剣を振り上げます。

 とたんに、何かが空を切って飛んできて、爆発男の右肩を貫きました。槍です。メールが地面から跳ね起きて投げつけたのでした。

「卑怯なことしてんじゃないよ! やるんなら、正々堂々いきなよ!」

 と渦王の鬼姫は盗賊に向かってどなりました。すっげぇ、メール姉ちゃん、と隣でロキが目を丸くしています。

 

 ゼンの傷が完全に治りました。それを確かめるや、フルートは落ちていた自分の剣を拾い上げました。後ろにゼンをかばうようにして身構えます。

 その前に集まってきたのは、力使いを初めとする盗賊たちでした。爆発男が肩から槍を引き抜きながらわめきます。

「てめえら、絶対に生かしておかねえぞ! 絶対に、跡形もなく吹っ飛ばしてやる――!」

 けれども、爆発男は負傷した右腕を上げることができませんでした。手が上げられなければ爆発の力を使うことはできません。爆発男は歯ぎしりをすると、一人の盗賊を振り向きました。

「おい。やれ、『炎』――!」

 大柄な男が進み出てきました。他の盗賊たちと同じように、顔の上半分を黒い仮面でおおっています。両手をフルートとゼン、そしてさらにその後ろにいるメールとロキに向けてきます。

「危ない! よけて!」

 とルルとポポロが叫びました。

 とっさにゼンが飛びのき、メールもロキを抱えて横に転がります。

 けれども、フルートは動きませんでした。フルートは今、兜をかぶっていません。炎の魔法を使われたらまともに食らってしまうというのに、盗賊が両手を突きつけてくるのを茫然と見つめています。

 フルート!? とポチは言おうとして、ふいに、はっとしました。くんくん、と急いで空気をかぎます。敵の方からよく知っている匂いが漂ってきたのです。匂いの元をたどって、ポチは目を丸くしました。フルートと同じくらい、茫然とした顔になってしまいます。

「馬鹿者! 逃げろ!」

 とオリバンが駆け出しました。フルート!! と仲間たちも悲鳴のように叫びます。それでもフルートは動きません。

 大柄な盗賊がフルートに両手をむけました。仮面の奥からにらみつけてきます。フルートの周囲で、急に空気が熱を帯び始めたような気がします。

 フルートは炎使いの盗賊見つめ続けました。黒い仮面をつけた男――けれども、いくら仮面をしていても、フルートにはその背恰好だけでわかってしまったのです。

 フルートの唇が動き、確かめるように、一つの名前を呼びました。

「……ジャック……?」

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