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第9巻「仮面の盗賊団の戦い」

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第10章 森・2

34.対面

 森の上空に突然現れた男は、梢と同じくらいの高さの空中に、まるで地面に立つように二本足で立ち、腕組みして地上の戦いを見下ろしていました。その顔は白い仮面をつけています。

 とたんに黒い仮面の盗賊たちから歓声が上がりました。

「お頭!」

 白い仮面の男がそれに応えるように口を歪めて、にやりと笑い返します。なんとも不気味で迫力のある笑いです。

 馬に乗ったオリバンがどなりました。

「貴様が盗賊団の首領だな! 何者だ!」

 そのかたわらの馬上から、フルートも声を上げました。

「おまえが魔王か!?」

 フルートと仲間たちは全身を緊張させていました。宙に浮かんで勇者たちを見下ろす男の姿が、これまでに戦ってきた魔王を連想させたのです。まがまがしい闇の気配も強くなっています。

 すると、盗賊の首領が口を開きました。

「さあな? 答える筋合いはねえな」

 口調は盗賊そのものなのですが、どことなく貴族めいた雰囲気が漂っていて、妙な違和感があります。

 

 すると、ゼンがいきなり矢を放ちました。白い矢が盗賊の首領の胸めがけてまっすぐ飛んでいきます。

 とたんに黒い壁のようなものが空中に現れ、矢が粉々に砕けました。壁はすぐにまた見えなくなります。

 ゼンは舌打ちしました。

「ち、闇の障壁かよ――。やっぱり魔王なんじゃねえのか!?」

 けれども、首領はそれには答えません。足下の森の間に散らばる手下たちを眺めます。傷を負った者は多く、死体になって転がっている者もあります。ふん、と首領は鼻を鳴らしました。

「なさけねえな、てめえら。自慢の能力はどうした。それっぽっちの人数にやられて、尻尾を巻いて逃げるつもりか?」

「でも、お頭!」

「こいつら、ガキのくせしてべらぼうに強くて――!」

「ただ者じゃありやせんぜ!」

 いっせいに弁解を始める手下たちに、首領は冷ややかに言いました。

「当然だ。そいつらは金の石の勇者たちとロムドの皇太子だからな」

 とたんに、盗賊たちはどよめきました。フルートたちを見る目がたちまち変わります。

「金の石の勇者!?」

「皇太子ですかい! こりゃまた大した獲物だ! 国王からがっぽり身代金をいただきだ!」

「私を捕らえることができたらな」

 とオリバンが言って、飛びかかってきた盗賊に剣をふるいました。たちまち盗賊が切り伏せられます。

 

 フルートは素早くロングソードを背中に戻して炎の剣を引き抜きました。空に向かって力一杯振ります。

 とたんに切っ先から炎の弾が飛び出し、首領めがけて飛んでいきました。が、それも黒く光る闇の障壁に弾かれます。空中の男には届きません。

「無駄だな」

 と首領が笑った隙に、フルートは鎧の胸当てからペンダントを引き出しました。空に向けてかざしながら叫びます。

「金の石!!」

 すると、ペンダントの真ん中で守りの石が輝きました。澄んだ金の光であたり一面を照らします。暗い森の中が真昼のように明るくなり、盗賊たちがまぶしさに驚きの声を上げます。

 首領も顔をそむけ、腕で光をさえぎりました。――けれども、たじろぐ様子はありません。強い光を浴びながら、平然と宙に浮いています。

「あいつ、金の石が平気だよ!」

「闇の障壁で防いでんのか!?」

 メールとゼンが驚きます。

 すると、そこへユギルがポポロと一緒に馬で駆けつけてきました。色違いの目を細め、空中の敵を見定めながら言います。

「あの男の周りに今は障壁はございません……。あの者は聖なる光が平気なようです」

 まさか! とフルートも驚きました。歴代の魔王たちは金の石が放つ聖なる光が苦手でした。直接その身に光を浴びれば、他の闇の怪物たちと同じようにダメージを受けてしまうので、決まって闇の障壁で光を防いでいたのです。聖なる光に平然としている首領は、魔王ではないということになります――。

 

 金の光が吸い込まれるように、すうっとおさまっていきました。

 盗賊の首領は腕を下ろすと、頭上からまたフルートたちを見下ろしました。白い仮面の下からのぞいている口元は、にやにやと笑い続けています。

「そいつがご自慢の金の石ってヤツか。俺に効き目がなくて残念だったな。――残念ついでに、こういうのはどうだ? 面白い見ものが始まるぞ」

 盗賊の首領が、さあっと片腕を振りました。とたんにその姿が空中から消えます。

 手下の盗賊たちがまた騒ぎ出しました。

「お頭!?」

「お頭、どこですかい――!?」

 フルートたちは身構えていました。目に見えなくなった首領が、どこかから突然襲いかかってくるのではないかと緊張します。

 すると、ユギルがまた言いました。

「あの男はまた闇の中へ隠れました。どうやら闇を操る魔力が使えるようですね。何を仕掛けるつもりなのか……」

 とたんに、ポポロが息を呑みました。フルートの胸を指さして叫びます。

「フルート、見て――!」

 金の鎧の胸の上で、突然金の石がまたたき始めていました。金の輝きが暗くなったり明るくなったり、まるで風に吹かれたろうそくの炎のように揺らめき出したのです。驚いて見つめる勇者たちの目の前で、みるみる輝きが弱まっていきます。

「金の石! 金の石!!」

 フルートはペンダントをつかみました。薄れていく光を引き止めようと必死で呼びかけます。メールやゼンも叫びます。

「どうしたのさ、金の石!?」

「おい、陰険魔石! しっかりしやがれ!!」

 けれども、金の石はますます暗くなっていくばかりです。

 ユギルが言いました。

「周囲の闇が非常に濃くなってきて、金の石を力で押しているのです。石が張っている聖なる障壁が闇に食い破られております」

 オリバンは聞き返しました。

「障壁を破られたらどうなるのだ?」

「我々の姿を闇から隠してくれていた障壁です。それがなくなれば、我々の姿は闇の目から丸見えになります」

 占者の声は冷ややかなほど冷静ですが、顔は真剣そのものでした。

「闇の目から丸見えに……?」

 と思わず考え込んだフルートは、次の瞬間、真っ青になりました。それがどういうことを引き起こすのか、思い当たったのです。

「来るんだ――! 闇の怪物たちが! ぼくの中の願い石を狙って、ここに押し寄せてくる――!!」

 仲間たちもいっせいに顔色を変えました。

 フルートの胸の上で、金の石がちかちかといっそう激しくまたたきます。金の輝きがまたぐっと暗くなり、石はくすんだ金の輝きをわずかに帯びるだけになってしまいます。

「闇が聖なる障壁を食らいつくしました――」

 とユギルが低く言いました。そのまま奥歯をかみしめます。

 

 すると、そこへ森の向こうからポチとルルがやってきました。風の犬の姿で飛んできて、彼らの周りで渦を巻きながら叫びます。

「ワン、大変です! 新しい敵が現れました――!」

「闇の怪物よ! ロムド兵たちを襲い始めたの!!」

 一行は声が出ませんでした。フルートがいっそう蒼白になります。

 けれども、次の瞬間、フルートは叫びました。

「行くぞ! ロムド軍を助けるんだ!」

 勇者たちの一行は我に返ると、風の犬たちの後をいっせいに馬で駆け出しました。

 森の暗い梢は風に大きく揺れ、渦巻くようにしなりながら、ごうごうと音を立てていました――。

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