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第9巻「仮面の盗賊団の戦い」

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24.戦闘・3

 オリバンは野原の真ん中で三人の盗賊を相手に戦い続けていました。

 全員が黒い不気味な仮面で顔の上半分をおおっていますが、体つきが違います。細身の男と中肉中背の男、そして、見上げるような大男です。オリバンは人より大柄でしたが、大男は、それよりはるかに大きな体格をしていました。中肉中背の方は、女を殴って最後には殺すのだ、とナイフ男と話していた男です。

 三人が繰り出してくる刀を、オリバンはことごとく跳ね返していました。驚くほどの強さと迫力です。あっという間に盗賊たちが押されていきます。

「あいつを抑え込め!」

 と中背の男がどなると、隣の細身の男が刀を収めました。オリバンに向かって伸ばした細い両腕が急にするすると伸び始めます。まるで細いロープのようです。剣を持つオリバンの腕に絡みついて、動きを封じようとします。その隙に他の二人の盗賊が切りかかっていきます。

 オリバンは絡みつかれた腕を勢いよく引きました。とたんに細身の盗賊が馬の上でつんのめり、片手がオリバンから離れました。

 長年辺境部隊と共に戦ってきた皇太子は、戦いに妥協をしません。自由になった手に剣を握り直すと、ためらいもなく振り下ろします。悲鳴が上がり、腕の盗賊が馬から転がり落ちて絶命します。

 

 とたんに、中背の男がオリバンから離れました。大男に向かって言います。

「これはおまえの出番だぞ、『巨人』! 後は任せた!」

 と自分はさっさと逃げ出していきます。それを追いかけようとしたオリバンの前に、のっそりと大男の馬が立ちふさがりました。

「待て――。おまえの相手は、この『巨人』様だ」

「巨人? そう呼ばれるには少々小さすぎるように見えるがな。子どもの巨人か?」

 とオリバンが冗談とも皮肉ともつかないことを大真面目な顔で言います。大男は、ふん、と笑いました。

「そんなことはこれを見てから言え――!」

 突然、大男はほえるような声を上げました。その体がみるみるうちにふくれあがり、巨大になっていきます。男を乗せていた馬が、耐えきれなくなってどうと倒れ、必死でその下から逃げ出していきます。それでも男は大きくなり続け、やがて、身の丈三メートルもある本当の大男になりました。雷の鳴るような声で、がらがらと笑います。

「どうだぁ! これで貴様などひとひねりだぞ!」

 とオリバンに向かって両腕を振り回します。二人の体格には、大人と子ども以上の差があります。巨人に捕まれば、さすがのオリバンもたちまち引きちぎらてしまいます。

「馬鹿者。ただ大きければ勝てるというのか」

 とオリバンは言うと、馬の腹を蹴りました。巨人になった大男の脇を駆け抜けながら、手にした剣をふるいます。皇太子は、今は愛用の大剣を握っています――。

 ばっと血しぶきが上がり、巨人が天を震わす声でほえました。脇腹を切り裂かれたのです。それを馬の上から振り返ってオリバンが言いました。

「大きければ死角は広がる。さらに動きも鈍くなるのだ、愚か者が」

 馬を返して、また巨人の脇を駆け抜け、今度は反対側の胴をなぎ払います。大きな悲鳴と血しぶきを上げて、巨人がどうっと倒れました。地面が大揺れに揺れます。その体がみるみるうちに縮んで、元の大きさに戻っていきます――。

 

 一方、オリバンを大男に任せて逃げ出した中背の男は、あたりを見回してぶつぶつ言っていました。

「冗談じゃねえぞ。なんだよ、こいつらは。町の連中め、化け物を用心棒に雇いやがったな。こんなの、まともに相手にしていられるか」

 戦っている仲間の盗賊たちを放っておいて、そのまま自分だけ野原から逃亡しようとします。

 すると、その行く手に黒い馬が立ちふさがりました。ぴんと張り詰めた弓弦のような少女の声が響きます。

「お待ち! 逃げるんじゃないよ、卑怯者!」

 鞍の上に毛皮のコートを着た娘が乗っていました。このあたりではちょっとお目にかかれないほど綺麗な顔をしています。

 男はにやりとしました。お楽しみが向こうから転がり込んできた、と考えたのです。無造作に馬で駆け寄って、娘をひっ抱えようとします。。

 すると、男の鼻先を銀の刃先がかすめました。娘が握っていたショートソードで切りつけてきたのです。意外なくらい鋭い攻撃に、男は、ふふん、と笑いました。

「とんだじゃじゃ馬だな? 馴らし甲斐があって楽しみじゃねえか。そぉら、おとなしく俺と一緒に来い!」

 女好きな本性をむき出しにして、また娘へ手を伸ばします。娘がまた剣をふるいます。

 と、男の手が急に短い毛におおわれていきました。太くて堅い獣の毛です。たちまち頭の両脇で耳が尖り、目が鋭くつり上がり、口が裂けて牙がのぞきます。数秒後に姿を現したのは、黒と黄の縞模様の虎男でした。とっさにまた切りつけた娘の剣が、表面をおおう毛に跳ね返されます。

 虎男に変身した盗賊が笑いました。

「無駄無駄。この恰好の俺を傷つけることはできねえよ。さあ来い。森ン中でたっぷりかわいがってから殺してやるぜ――」

 娘がまた切りつけましたが、やっぱり虎男に跳ね返されてしまいます。虎男は娘を捕まえました。無理やり自分の馬に乗せようとします。

「放せ! 放しなってば!」

 と娘が金切り声を上げます。

 

 すると、そんな虎男に、いきなり何かが激突しました。もんどり打って落馬した虎男の上に、黒い仮面をつけた小柄な男が降ってきます。見えない『力』を使う盗賊です。完全に気を失っていて、虎男の上にぐんにゃりと乗っかります。

 小男を投げつけたのはゼンでした。顔を真っ赤にして虎男をにらみつけています。

「この猫野郎が!! 俺の女にちょっかい出そうなんて、いい度胸してやがるじゃねえか! そのしましまの毛皮を残らずひんむいてやるから覚悟しやがれ!!」

 と虎男に飛びかかって服を引き裂き、本当に毛皮をつかんで毛を引きむしっていきます。虎男はほえるような声で悲鳴を上げましたが、ゼンに組み敷かれたまま、まったく逃げ出すことができません――。

 一方、メールは黒星の鞍の上でやっぱり真っ赤になっていました。

「やだなぁ、ゼンったら。あたいのことを『俺の女だ』なんて、どういう言い方さ」

 と照れたようにつぶやきます。

 

 大男を倒したオリバンは、ざっと野原を見渡しました。

 仮面の盗賊団は大半が気を失ったり殺されたりして倒れていました。ナイフ男が風の犬のルルに追い立てられて、悲鳴を上げながら逃げていくのが見えます。ゼンは虎男を組み敷いて拳で殴りつけています。こちらの男も悲鳴を上げ続けていましたが、その声がふいに聞こえなくなりました。気絶してしまったのです。

 盗賊の中でまともに立っているのは、もう二人だけになっていました。リーダー格の炎使いと、吹雪を繰り出してくる男です。けれども、その目の前にフルートが倒れていました。金の鎧の胸に白い子犬を抱いています。フルートもポチも気を失っているのか、まったく動きません。オリバンは、とっさに助けに駆けつけようとしました。

 すると、その肩を細い手が引き止めました。ユギルです。オリバンに首を振って見せます。

「大丈夫です。このままご覧ください――」

 

 炎使いの盗賊は吹雪使いを引き連れて、倒れている勇者に近づいていきました。

「この野郎、よくも俺様をこけにしてくれたな!」

 と歯ぎしりしながらわめきます。炎を操る自分がもう少しで焼き殺されそうになったことに、どうしようもなくプライドを傷つけられたのです。いきなり腰から剣を抜くと、勇者の顔へ突き立てようとします。

 そのとたん、勇者が目を開けました。青い瞳が盗賊を見据え、次の瞬間には顔をそむけます。盗賊の刀が金の兜に当たって真っ二つに折れます。

 隣で驚く吹雪使いに、フルートの胸からポチが飛びかかっていきました。いきなり顔にかみつきます。油断していた吹雪使いは悲鳴を上げました。あわてて子犬を払いのけて逃げ出しますが、ポチはそれを追いかけて、後ろからまた首筋にかみついていきました。

 フルートは倒れた姿勢から炎使いを蹴り上げました。堅い鎧に包まれた爪先が、まともに男の腹に入ります。男がうめいてよろめいた隙に、フルートは跳ね起きて剣を構えました。

「ちくしょう! 気絶したふりしてやがったな!? あの高さから落ちて、どうして平気でいる!?」

「ぼくの鎧は特別製でね――炎も平気だし衝撃も応えないのさ」

 と言いながら、フルートは炎使いに剣を突きつけました。火の魔力を持たない銀のロングソードです。身動きが取れなくなった男に言います。

「さあ、話してもらおうか。おまえたちの隠れ家はどこにある。おまえたちには親分がいるんだろう? そいつは何者だ」

 見た目は本当に小柄な少年なのに、勇者は驚くほど鋭い声をしていました。数え切れないほどの戦いをくぐり抜け、命のやりとりをしてきた人間に特有の、冷ややかな落ちつきぶりです。突きつける剣の切っ先も少しもぶれることがありません。炎使いの背中を冷たい汗が流れ落ちていきます。

「そ――それは――」

 と言いかけてことばをにごすと、ぐっとまた剣が突きつけられてきました。研ぎ澄まされた刃先が男の顎をつつきます。

「あ、う……そ、その……隠れ家の場所は――」

 炎使いの盗賊は恐怖に目を見開いていました。さらに大量の汗を流しながら、うめくように言い続けます。

「その……お頭がいる隠れ家は――」

 

 その時、オリバンの隣でふいにユギルが身を乗り出しました。

「いけません!」

 同時に、野原に少女の声も響きました。

「危ない、フルート! 逃げて――!!」

 ポポロの声です。その響きが消えないうちに、いきなり爆発が起きました。とっさに身を引いていたフルートが、吹き飛ばされて地面にたたきつけられます。その上に真紅の雨と赤い破片がぼたぼたと降りかかってきます。

 フルートは目を見張ったまま動けませんでした。声も出せません。降ってきたのは血しぶきと肉片です。フルートの目の前で、炎使いの盗賊が突然爆発したのでした――。

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