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第9巻「仮面の盗賊団の戦い」

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21.襲撃

 コネルアの町が夜空を赤く染めながら燃え上がっていました。パチパチとはじけるような音が、木立を通して森の中まで聞こえてきます。

 住人の隠れ家になっている洞窟の前に、ゼンとオリバンとユギルが立っていました。敵に備えて見張っていたのです。

「町から火の手が上がる直前に馬の蹄の音が聞こえた! きっと例の奴らだぞ!」

 とゼンがフルートたちにどなると、ユギルも言いました。

「直前までわたくしには襲撃が読めませんでした。闇の中から突然姿を現したのです。間違いなく闇のしわざです。仮面の盗賊団でございましょう」

 フルートたちに続いて、洞窟の中から住人たちも飛び出してきました。炎上する自分たちの町を見て悲鳴を上げます。

「家が……!」

「ついに来た! 奴らだ!」

「戦え! 町を守るんだ!!」

 恐怖とパニックが一同を襲います。大騒ぎをしながら武器を取り上げて町へ殺到しようとする人々を、オリバンがどなりつけました。

「静かにしろ! 盗賊に聞きつけられるぞ!」

 住人たちはもう、そこにいるのがロムドの皇太子と一番占者、そしてあの金の石の勇者の一行だと知っていました。その中でも、皇太子のオリバンには有無を言わせず人々を従わせる威厳と迫力があります。人々は、男も女も皆たちまち静かになりました。不安と期待の入り混じった目で若い勇者たちを眺めます。

 すると、フルートが人々の目の前ですらりと背中の剣を抜いて見せました。木立を通して見える炎に、金の鎧兜も銀の剣も赤く染まって輝きます。その剣を構えてフルートは言いました。

「ぼくらが戦います。皆さんは洞窟に隠れていてください。大丈夫、皆さんはぼくらが必ず守ります」

 小柄で少女のように優しい顔立ちのフルートですが、その表情がこれまでとがらりと変わっていました。百戦錬磨の戦士の顔つきです。怖いくらい厳しいまなざしに、人々はさらに何も言えなくなります。

 すると、その隣でユギルが続けました。

「勇者殿たちと殿下が盗賊団を撃退いたします。皆様方は勇者殿を信じて、決して洞窟の外にお出になりませんように――」

 燃え上がる町、聞こえてくる炎の音。恐ろしい気配の中だというのに、占者の声はとても静かです。表情の読めない整った顔を人々に向け、色違いの瞳でじっと見つめます。

 コネルアの住人たちはついにそれに従いました。フルートやオリバンたちに頭を下げると、ぞろぞろとまた洞窟の中に戻っていきます。住人が隠れている洞窟はいくつもあります。その後も不安げにざわめく声はしばらく続いていましたが、やがて洞窟の入り口が板の扉でぴったりふさがれ、声はまったく聞こえなくなりました。

 

「やれやれ。やっと足手まといがいなくなった」

 とゼンは肩をすくめると、ピイ、と森の中に向かって口笛を吹きました。すぐに蹄の音がして、ゼンの馬が駆けつけてきます。フルートとオリバン、ユギルの馬も続いてやってきます。

「あれ、あたいとポポロの馬が来ないよ」

 とメールが目を丸くしました。

「ワン、ゴマザメとクレラは軍馬じゃないし、フルートたちの馬みたいに戦いの経験もまだないですからね。火事を怖がって動けなくなってるんですよ」

 とポチが言います。

 ゼンが黒星にまたがりながら呼びかけました。

「ぐずぐずしてらんねえ。こっちに来い、メール」

「ポポロはこっちに」

 とフルートもコリンの上から手を伸ばします。少女たちはすぐに少年たちの馬に同乗しました。

「行くぞ」

 と自分の馬の上からオリバンが言いました。手にはもう抜き身の剣を握っています。ユギルも手綱を握りながら言います。

「わたくしの後をおいでください。盗賊たちのいる場所へお連れします」

 そこで、一行は駆け出しました。ユギルの馬の後について、オリバン、フルートとポポロ、ゼンとメールの馬が続き、さらに自分の足で走るルルとポチがそれに続きます。

 

 馬を走らせながらオリバンがユギルに尋ねました。

「敵の居場所は見えるのか?」

 闇をまとう敵です。闇が濃くなっている北の街道では、占者の目でもなかなかその姿をつかむことはできないのです。

 すると、ユギルが落ちついた声で答えました。

「このくらい近い場所になれば、居場所程度は見えます。占盤を使うわけにはまいりませんので、あまり先読みはできませんが――」

 フルートの後ろではポポロが遠いまなざしで行く手を見ていました。

「敵は十人……町に誰もいないものだから、片っ端から建物に火をつけているのよ。みんな真っ黒い仮面をかぶってるわ」

「やっぱり仮面の盗賊団だね。他には何か見える? 魔王のような影とか闇の怪物とか――」

 とフルートが尋ねると、ううん、とポポロは首を振りました。

「盗賊たちだけよ。ただ……ものすごい闇の気配がするの。絶対に、普通の盗賊なんかじゃないわ」

「上等! あたいたちでたたきのめして、大ボスを引っ張り出してやろう!」

 とメールが言って、自分の前にいるゼンの腰からショートソードを引き抜きました。

「お、おい、メール――!?」

 とゼンが驚きます。

「いいから貸しなよ、ゼン。今は冬であたいに使える花が咲いてないんだからさ。あんたには弓矢があるし、怪力もあるんだからいいだろ?」

「ったく。この跳ねっ返りが!」

 口喧嘩をしながらも、一行は町に近づいていました。燃える町が真昼のようにあたりを照らし出しています――。

 

 町の門から馬に乗った盗賊たちが次々と出てきました。黒い仮面をつけた男たちです。

「ちくしょう、町の連中め、どこに行きやがった!? 人っ子ひとりいなかったじゃねえか!」

 とわめきながら、周囲を見回しています。

 痩せた盗賊が先頭に立って、くんくん、と空気をかぐような恰好をしました。

「匂う、匂うな……。大勢の人間の匂いだ。森の奥に隠れているようだぞ」

「よし『鼻』、案内しろ。行くぞ」

 と言ったのは、炎使いの盗賊でした。他の仲間たちを引き連れ、痩せた盗賊の後について駆け出します。

 すると、別の盗賊が言いました。

「よう、かわいこちゃんがいたら絶対に俺によこせよ。泣き叫ぶ小娘を細切れに刻むのは何より楽しいからなぁ」

 と、マントを跳ね上げ、にやにやしながらベルトに刺した大小のナイフを見せます。隣の盗賊があきれたように言いました。

「相変わらず変態趣味だな、おまえは。やることもやらねえってのか。俺はまともで行くぞ。おびえる女をぶん殴って――で、最後には絞め殺すか、刀でぐさりだ」

 どちらの盗賊も言っていることにあまり変わりはありません。

「いいか、てめえら! 町の連中は一人残らず殺せ! ただし、小さな子どもだけは絶対に殺さずに連れてくるんだぞ。お頭のご命令だ!」

 と炎使いの盗賊が一同にどなり、おう、がってん、と仲間たちがどなり返します。黒い仮面の横に走る赤い模様が、流れる血のように赤く光っています――。

 

 すると、先頭を走っていた鼻の盗賊が、突然馬を止めました。町の周りのブドウ畑を抜け、狭い小川をはさんだ野原に差しかかった場所です。その向こうに針葉樹の森が黒々と広がっています。

 燃える町の炎に照らされて、森の手前に四頭の馬が立っていました。それぞれに人が乗り、刀や弓矢を構えています。

 その中に鎧兜を着た人間が混じっているのを見て、盗賊が言いました。

「町の連中、護衛を雇ったようだぞ」

 あざ笑う声です。自分たちが十人の集団なのに相手の馬はたったの四頭です。しかも、こちらは特殊な能力を持っています。相手がいくら武装していても負けるはずはない、と余裕でいます。

「どぉれ、まずはあいつらを血祭りだ! 町の連中に見せつけてやれ!」

 炎使いの盗賊がどなります。

 すると、行く手に並ぶ馬の上からも声が上がりました。

「あれが仮面の盗賊団だ。行くぞ、みんな――!」

 盗賊たちは驚きました。少しかすれた少年の声だったのです。

「なんだ、ガキだぞ!?」

「生意気な連中だ! 思い知らせてやろうぜ!」

 笑いながらいっせいに馬を走らせ始めます。

 森の手前からも馬が駆け出しました。鎧兜や剣を光らせながら、まっすぐ盗賊たちに向かってきます。

 炎に明々と照らし出された野原の中。盗賊たちと守るものたちの戦闘が始まりました――。

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