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第6巻「願い石の戦い」

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第25章 大広間

98.報告

 ジタン山脈を離れて十日後、フルートたちは王都ディーラのロムド城に戻ってきました。行きは半月かかった道のりでしたが、帰路は大荒野を馬車や馬で飛ばしに飛ばし、西の街道に入ってからは馬車や馬を次々に乗り換え、寝る間も惜しむようにして急いできたのでした。

 翌日、大広間でフルートたちはロムド王と謁見しました。真の目的がなんであったにしろ、彼らの旅の表向きの名目は、金の鎧兜を直すために堅き石を見つけてくることです。その旅の報告をしなくてはなりませんでした。

 大広間は何千本というろうそくに照らされ、そこここに花が飾られ、夏の真昼のように明るく輝いていました。鏡のように磨き上げられた床の上には、正面の入口から玉座まで緋色の絨毯が敷かれています。玉座は一段と高い場所にあって、そこに金の冠をかぶったロムド王が座り、両脇にノームの鍛冶屋の長のピラン、灰色の衣に銀髪のユギル、黒ずくめの服を着たゴーリス、それにもう二、三名の重臣が控えていました。

 金の輪を頭に締めた皇太子が、玉座の隣に置かれた椅子に、父王と並んで座っていました。旅の間のいぶし銀の鎧兜は脱ぎ、立派な服に着替えています。頭の金の輪は、皇太子という彼の身分を示す象徴でした。

 大広間には大勢の貴族たちが詰めかけていました。その数は二百を下りません。これほど多くの貴族が一箇所に集まっている様子を、フルートたちはこれまで見たことがありませんでした。その多くは、今回の謁見に招集されていない貴族たちです。ロムド王が自分の後継者として考えているのは、皇太子か、金の石の勇者か。王宮を真っ二つにして争っている貴族たちにとって、それを見極めるための重大な場面だったのです。どれほど言われても謁見の場から退くつもりはなく、やむを得ず、国王は場所を当初予定していた謁見の間から、城の大広間に変更したのでした。

 

 大勢の貴族たちが見守る中、フルート、ゼン、メール、ポポロ、ポチ、ルルの四人と二匹の子どもたちは、絨毯の上を進んで行って、国王や皇太子の座る玉座の手前でひざまずきました。

 フルートは金の鎧を身につけ、兜を小脇に抱え、背中には二本の剣を背負っています。ゼンも青い防具と弓矢とショートソードを装備したままです。彼らは武器を身につけて王の前に出ることを許されているのです。メールはいつもの袖なしのシャツにウロコ模様の半ズボン姿でしたが、その上から、上等な薄手のマントをはおっていました。城に来てから準備してもらったものです。ポポロはいつものように黒い星空の衣の姿。ポチとルルも、綺麗に毛をくしけずってもらっていましたが、やはりいつもと同じ格好です。

 兜をかたわらに置き、立てた片膝に両手を置いた姿勢で、フルートは顔を上げました。玉座に座る国王を見上げて言います。

「昨日、旅から無事戻りました。道中、皇太子殿下には本当に何度も助けていただきました。心から感謝しております」

 そのことばに、大広間に潮騒のようなざわめきが広がりました。皇太子と金の石の勇者は一つの王座を巡って対立しているのだ、と噂されていました。この旅から無事に戻ってきたことで、金の石の勇者の名声はさらに上がり、また一歩勇者が王座に近づいたように見えていたのです。ところが、そのフルートが口を開くなり皇太子に助けてもらったことを感謝したので、貴族たちはとまどったのでした。

 すると、国王の隣の席で、皇太子も言いました。

「おまえたちに命を救ってもらったのは私も同じだ。感謝している。ありがとう」

 なんの躊躇もない、明確な口調でした。大広間のざわめきが一気に大きくなりました。対立しているはずの二人の王位継承者が互いに感謝し合う。それをどう判断していいのかわからなくなったのです。

 貴族たちは同時にもうひとつのことにもとまどっていました。今まではいつも他の臣下と同じ扱いで、玉座の下の大貴族たちに混じって立っていた皇太子が、今日は玉座のある高みに上がり、父王と椅子を並べているのです。ロムド城でこんな光景を見るのは初めてのことでした。

 

 すると、ロムド王がフルートに言いました。

「道中、様々な危険や困難に出会ったことは、皇太子からも聞いている。まことにご苦労であった。求める堅き石も見つけることができたそうだな。見せるがよい」

 フルートはうなずき、ゼンが荷袋から取り出した堅き石を、両手に載せて捧げました。玉座の隣からピランが下りてきて、石を手に取り、しげしげと眺めてから国王を振り返りました。

「うむ、確かに堅き石だ。これで魔法の鎧兜を修理することができるわい」

 そのもったいぶった言い方に、ゼンは思わず吹き出しそうになって、あわてて顔を伏せました。ノームの鍛冶屋は今初めて堅き石を見たようなことを言っていますが、もちろんこれはお芝居です。ピランもユギルも、皇太子やフルートたちを救いに城を離れてジタン高原まで行ったことを、国王以外の者に秘密にしているのです。

 気がつけば、隣でメールも同じように下を向いて、笑いをかみ殺していました。

「人間って変なことさせるよねぇ、ホントに」

 とゼンにささやいてきます。

 

「我が国が、エスタから贈られた鎧兜をおろそかに思っていたわけではないことが、これでわかっていただけたであろうか、エスタ国の鍛冶屋の長よ」

 とロムド王に問われて、ピランは肩をすくめました。

「まあな。魔石は見つけるのが非常に困難なものだ。それをこうして探し出してきたんだから、これがロムドの真意と思って良さそうだ。エスタ王にもよしなに伝えておいてやる」

 ああ、そう言えばそんな話になっていたんだっけ、と子どもたちは心の中で思い出しました。フルートが王座を狙っていると思われている中、表だって堅き石を探しに行けるようにするための、苦肉の策だったのです。

 

 堅き石を手に、嬉しそうに玉座の隣へ戻っていった鍛冶屋の長へ、フルートは尋ねました。

「ピランさん、鎧兜の修理には、どのくらいの時間がかかるんでしょうか?」

 ふむ、と長はうなりました。

「早くて半年。順調にいって一年というところだな」

 この答えに、子どもたちは本気で驚きました。まさかそんなに時間がかかるとは思っていなかったのです。

「おい、ピランじいちゃん! フルートがそんなに長いこと鎧なしでいられるかよ! もっと早くなんねえのか!?」 とゼンが声を上げます。――どれほど偉い人の前でも、どれほど身分高い人たちが居並ぶ中でも、ゼンはいつもの口調をまったく変えません。

 ピランは、じろりとゼンを見下ろしました。

「きさまもドワーフならわからんか。魔法の道具というものは、作るのに非常に手間暇がかかるものだ。勇者の鎧兜は度重なる戦いですっかり傷ついて弱っておる。これを根本から組み直して、さらに堅き石を組み込み、様々な魔法を編み込んでいくんだ。包丁を研ぎ直すようなわけにはいかんわい」

 本気で機嫌を損ね始めたような声でした。それがお芝居なのか本気なのか。自分の仕事や作品に限りないプライドを持つ鍛冶屋の長だけに、子どもたちにもちょっと判断がつきませんでした。

 フルートは、あわてて頭を下げました。

「それでけっこうです。どうか鎧を直してください」

 すると、ピランはまたゼンに目を向けました。

「おい、ドワーフの坊主。その青い水の防具も一緒にわしに預けるんじゃぞ。そいつもすっかり傷だらけだ。とても見るに耐えん。ついでに直してやる」

「って……俺のも修理に半年以上かかるのか?」

 とゼンがうろたえて聞き返します。

「見たところ、そいつにももう少し魔法を組み込んだ方が良さそうだからな。ま、勇者の鎧と仕上がり時期は一緒だ」

 ゼンは何とも返事ができなくなって、苦虫をかみつぶしたような表情になりました。隣のフルートに、そっとささやきます。

「防具が直ってくるまで、魔王が復活してこないように祈ってるしかねえな」

 フルートも、困惑した顔でうなずきました。

 

 すると、ロムド王が口調を変えて子どもたちに話しかけました。

「もうすでに話は聞いているであろうが、そなたたちや皇太子の命を狙うものが、刺客を差し向けておった。そなたたちが無事であったことは、本当に喜ばしいことだ。だが、事態は考えていた以上に深刻であった。狙っていたのは、友邦ザカラスであったのだ。我が国の貴族の中にもザカラスと通じている者がいた。まことに遺憾きわまりない――」

 ひどく思い悩むような口調ですが、これももちろんお芝居です。国王は最初の最初から、ユギルの占いを通じて、裏で動く国や貴族たちをしっかり把握していたのですから。

「大ダヌキ」

 とメールがつぶやいたのをゼンが聞きつけて、危なく爆笑しそうになりました。

 ロムド王が皇太子と子どもたちに向かってことばを続けていました。

「そなたたちとしては怒りおさまらない気持ちでいると思う。だが、ザカラスは我が后の出身国、ザカラス王は后の父だ。様々なことを考え合わせながら、ザカラスには最もふさわしい補償を求めていくつもりでいる。この件に関しては、この王の裁量に任せてもらいたいのだ」

 ザカラスはまだジタン山脈の魔金のことを白状していないのです、と前の晩、ユギルは皇太子と子どもたちに話していました。あまり大騒ぎをして、ロムドとザカラスの間で戦争が始まってしまえば、やがて魔金のことがばれて、周辺諸国を巻き込んでの大戦争に発展していきます。慎重に事を進めなくてはならないので、ザカラスについては国王陛下にお任せください、と。

 子どもたちとしても、それに異存はありませんでした。どうであろうか、と尋ねてくる国王にフルートは「それでけっこうです」と答え、皇太子もうなずき返しました。

 

 大広間にはずっと潮騒のようなざわめきが続いていました。国王は皇太子にも金の石の勇者にも平等に対応しています。場所こそ皇太子の方が高い位置にいますが、二人がまったく同じように扱われていることに、貴族たちは動揺していたのでした。王がどちらを王位継承者と考えているのか――それを判断するための材料を見つけようと、誰もが目を皿のようにしています。

 すると、王がまた口調を変えました。今度は一段低い場所に並ぶ子どもたちだけにこう言います。

「実は、そなたたちに会ってもらいたい者たちを呼んであるのだ。そなたたちにはあまり嬉しくない人物だろうと思うが……。メンデオ公爵とキーレン伯爵だ」

 とたんに、大広間を揺るがすほどに、人々がいっせいにどよめきました。皇太子やフルートたちも思わず目を見張ってしまいました。

 メンデオ公爵とキーレン伯爵。それは、金の石の勇者を暗殺しようと、次々と刺客を送り込んできた張本人たちでした――。

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