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第6巻「願い石の戦い」

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63.説明

 皇太子の前に再集結したロムド兵たちは、上官の指示で撤収に取りかかりました。戦場の至るところに残されている敵味方の遺体を回収し、傷ついた者を手当てし、生き残った敵兵を捕虜にします。敵兵も手当の対象になります。彼らはこの後、ザカラスと交渉するための人質になるので、できる限り助かってもらわなくてはならないのです。

 味方の遺体は故郷へ帰すために白い布に包まれて荷馬車に乗せられます。敵兵の遺体は集めて火葬されますが、その際に鎧兜や武器などは集められます。これらの遺品も、やがて、国同士の交渉の材料に使われることがあるのでした。

 すべての作業が規律正しく、整然と行われていきました。敗者を相手に略奪したり、暴行を働いたりするようなこともありません。ロムド軍は辺境部隊に至るまで統制がよくとれた軍隊でしたし、そこに皇太子殿下が居合わせているので、兵士たちはなおいっそう規律正しくふるまっているのでした。

 

 ゴーリスと皇太子が子どもたちのところへ戻りました。

 フルートはまだ地面に座りこんだままでいます。自力で立っていることができなかったのです。それを守るように他の子どもたちと犬たちが、すぐ近くに立っていました。

「よくやった」

 とゴーリスが言いました。短いことばですが、その中に力強い賞賛を感じて、子どもたちは思わずほほえみました。大戦闘は終結しました。ほっとした想いがそれぞれの胸を充たします。

 けれども、その中でフルートだけは笑顔がありませんでした。青ざめた顔のまま、剣の師匠を見上げます。

「本当に、どうしてゴーリスたちがここに現れたの……? あれはザカラス軍? どうして、軍隊がぼくたちを襲ったのさ。いくら皇太子殿下の命を狙っているからって、あんまり大げさすぎる気がするよ……」

「まあ、その質問は妥当だな」

 とゴーリスは弟子を見下ろしました。

 そこへ、ロムド軍の隊長がやってきました。皇太子にうやうやしく敬礼してから、ゴーリスに向かって言います。

「生存者の回収はすべて終わりました。ゴーラントス卿のおっしゃるとおり、敵はザカラス軍でした。第四師団に所属する兵士たちです」

「おう。やはりそうだったか」

 とゴーリスが返事をしたので、フルートは驚きました。

「え……! まさか今までわかってなかったの? じゃ、どうしてあれがザカラス軍だって知ってたのさ」

 皇太子は別のことに驚いていました。

「ザカラス軍第四師団と言えば、ザカラス王のお抱え軍隊だ。それが我々の命を狙ってきたというのは、いったいどういうことだ?」

 ゴーリスはそれに答えようとして、すぐに黙りました。馬車の音が高原の下の方から響いてきたのです。そちらを指さして、ちょっと笑って見せます。

「そら、解説者の到着です、殿下――」

 

 高原の下から馬車が駆け上がってきました。四頭立ての馬に引かれた、黒い馬車です。荒れ地も走れるように丈夫な車輪をしています。

 馬車は彼らの目の前に停まると、扉を開けました。中から一人の男が出てきます。

「ご無事で何よりでございました、殿下、勇者殿――他の皆様も」

 丁寧な口調で言って一同に深く頭を下げて見せます。その人物は長い灰色の衣を着て、輝くような長い銀髪をしていました。

「ユギル!!」

 皇太子は一声叫んだきり、それ以上ことばが続かなくなりました。子どもたちも驚いて青年を見つめました。ロムド城にいるはずの国一番の占者が、ジタン高原の戦場に立っていたのです。

 すると、そこに元気の良い老人の声が続きました。

「よう、おまえら、無事だったな! よかったよかった。占い師は絶対に大丈夫だと言っておったが、さすがにちと心配はしとったぞ」

 エスタ王国の鍛冶屋の長のピランでした。小さな体でぴょいと馬車を飛び下り、さっそくフルートに駆け寄ってきました。

「おうおう、かわいそうにのぉ、わしの鎧よ。こんなに傷だらけになって……。安心せい。ちゃんと直してやるからな」

 と愛おしそうに金の鎧をなでさすります。

 子どもたちと皇太子は驚きのあまり本当に声も出せなくなっていました。彼らに不意に襲いかかってきたザカラスの軍隊、それを待ちかまえていたように助けに駆けつけてきたゴーリスとロムドの辺境部隊、さらに、戦闘が終わったのを見計らって馬車でやってきたユギルとピラン……。

 皇太子が、ふいに、はっとした表情になりました。みるみるうちに顔を真っ赤に染めると、握った拳をふるわせて声を上げます。

「おまえたち――私たちを利用したな!? ザカラスに兵を動かさせるために、私たちをおとりにつかったのだ! そうだな、ユギル!?」

 まるで雷のような勢いでどなりつけますが、銀髪の占い師は表情を変えませんでした。

「おっしゃるとおりでございます、殿下。まことに、ご無事で何よりでございました」

 とまた深々と頭を下げます。

 フルートたちは、呆気にとられるばかりでした……。

 

 「今回、お命を狙われていたのは、皇太子殿下と勇者殿のお二人でした」

 とユギルは一同を前に話し出しました。皇太子はすっかり腹を立ててユギルをにらみつけていましたが、動じることもなく続けます。

「勇者殿を狙うものは二種類ありました。どちらも、金の石の勇者が王座につくことを警戒する者たちですが、その敵は国内と国外の両方にいました。国内の方は、正当な王位継承者である殿下を擁護しようと考える、言ってみれば皇太子派の者たちです」

「私はそのようなことを望んだ覚えはない」

 と皇太子が不機嫌そのものの声で口をはさんできました。それは、フルートたちも充分承知しているところでした。皇太子派の貴族たちは、勝手にフルートが王位を狙っていると警戒して、フルートを殺そうとしたのです。

 ユギルはうなずいて続けました。

「彼らは勇者殿を暗殺しようと企みました。皆様方が堅き石を探す旅に出発してからは、なおのこと執拗につけねらうようになりました。ところが、その中に、ザカラスと通じている者があったのです」

 フルートたちは、はっとしました。皇太子が思わずまた声を上げました。

「誰だ! その裏切り者は!?」

「シーラ子爵という人物です。殿下はご存知ありますまい。最近代替わりをして、子爵の位を受け継いだのですが、自分の立場に不満を抱いておりました。母方の遠い親戚にザカラス出身の者がいて、そちらからの接触で国内の情報――特に、殿下の動向をザカラスに伝えておりました」

 皇太子は顔をしかめました。なにも言いません。

 ユギルは続けました。

「ザカラスは昔から殿下のお命を狙い続けていました。他の国々や、時には国内にも、殿下を疎ましく思う者は確かにありましたが、暗殺まで企てていたのはザカラスです。あの国は古くから暗殺をお国芸にしていて、様々な刺客集団を抱えております。目的は、殿下を亡き者にした後、ザカラスゆかりの皇女メーレーン様を女王にして、ロムドをのっとることです。ダメ押しに、自国の王子とメーレーン様を縁組みさせようとも考えました。まだたった二歳の王子なのですが。ところが、そこでもまた、彼らにとって金の石の勇者が邪魔になってきました。メーレーン様と勇者殿が結婚するかもしれなかったからです」

 

 それを聞いて、少女たちはびっくりしました。フルートとロムドの王女の間に結婚の話が持ち上がっていたなど、彼女たちには初耳だったのです。特に、ポポロは緑の瞳をいっぱいに見開いて、声も出せずにフルートを見つめてしまいました。

 フルートは渋い顔になって手を振りました。

「だから……そんなこと、あるわけないでしょう……。ぼくは王女様と会ったことさえないんですよ」

 フルートは地面に座りこんだまま、隣に座るゼンに寄りかかっていました。相変わらず顔色は悪いままで、疲れ切った表情が色濃く浮かんでいます。

 ユギルはそんなフルートを見つめました。

「話を手早く進めた方が良さそうですね。勇者殿はお休みにならなければ……。とにかく、ザカラスは殿下と勇者殿の両方の命を狙っておりました。道中、何度もザカラスの刺客集団に襲われたことと思います。ですが、皆様はお強かった。差し向ける刺客たちを次々と破られたザカラスは、業を煮やして、ついに軍隊を出動させたのです」

「それにしても、あの人数ったらなにさ!」

 とメールが腹を立てたように口をはさみました。

「あたいたちはたった四人だったんだよ! ポチを入れても五人さ! それにあんな大軍で襲いかかって来るだなんて、常識じゃ考えらんないよ!」

 ユギルはわずかにほほえむような表情をしました。それには答えません。

 すると、皇太子が言いました。

「私たちを襲ったのは、ザカラスの第四師団の兵士だった。ザカラス王直轄の部隊だ。ということは――私の命を狙っていた張本人というのは、つまり、ザカラス王自身だったということなのだな? ロムドと和平を越えて同盟を結び、我が国とザカラスは兄弟の国なのだと言っていた、義母上の父親が、私の命をずっとつけねらっていたわけだ」

 ユギルは色違いの瞳を細めると、静かにまた頭を下げて見せました。

「左様でございます、殿下……その男こそが、殿下の死神でございました」

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