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第5巻「北の大地の戦い」

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52.仲間

 行く手の白ツノクマが、ぐんぐん近づいてきました。十四、五頭の群れです。横一列に並んで、四つ足でまっしぐらにこちらへ走ってきます。

 風の犬に変身したポチに乗って熊に向かいながら、フルートが言いました。

「大きいね……普通の熊の倍近くあるみたいだ」

「ワン、北の大地には大きい動物が多いですね」

 とポチも答えました。これは実は当然のことで、寒い場所に住む獣たちは、外気に体温を奪われないために大型に進化していくことが多いのです。

 熊たちがフルートたちに気がつきました。駆ける速度をゆるめ、頭を上げて吠え立てます。また咆哮が白夜の空に響き渡りました。

「間を抜けて!」

 と言いながら、フルートは体を低くして、剣を横に構えました。白ツノクマの間をポチと一緒に飛び抜けざまに、一頭の熊に切りつけます。熊は血の代わりに炎を吹き上げると、たちまち火だるまになって雪の上に転がりました。絶叫が空と大地を揺るがします。

 ポチが素早くUターンして、また熊の群れに迫りました。フルートが右へ左へ剣をふるいます。二頭の熊が、また炎に包まれて倒れます。

 白ツノクマたちは立ち止まりました。得体の知れない生き物に乗って空を飛びながら襲ってくる小さな人間――それが非常な強敵だと言うことに気がついたのです。後足で立ち上がると、歯をむきだして、フルートたちに吠えかかってきます。その一頭にポチは突進していきました。フルートがまた剣をふるいます。

 ところが、熊はひらりと身をかわすと、大きく雪の上で飛びのきました。巨体からは想像もつかないほど軽い身のこなしです。フルートは返す刀で別の熊に切りつけましたが、それにも簡単によけられてしまいました。

「ワン、意外と素早いですよ! 気をつけて!」

 と言いながら、ポチがまた引き返しました。いっそう速く飛びながら、フルートと一緒にまた攻撃をしかけます。炎の剣の先が熊の毛皮をかすめ、熊の背中に火がつきました。

 グァァーーッ……!!

 怒りくるった熊が、突然ポチに殴りかかってきました。けれども、ポチは風の犬です。熊の腕はポチの体をすり抜け、その背に乗ったフルートを殴りつけそうになりました。

 とっさに身をひいたフルートの体が、大きく傾ぎました。フルートは今、右腕一本だけで闘っています。その手に炎の剣を握っているので、ポチにまたがっていただけで、どこにもつかまっていなかったのです。

「ワン、フルート!」

 ポチがはっとして叫んだときには、フルートの小柄な体はもんどり打って雪原の上に落ちていました。

 

 北の大地の厳しい寒さに、雪原は氷のように凍りついていました。とっさに体を丸めたフルートは、雪の上を転がると、素早くまた起き上がりました。魔法の鎧のおかげで怪我や痛みはまったくありません。ただ、片腕を体に縛りつけていて使えないので、立ち上がるのにもバランスが取りにくくて、何とも不自由でした。やっと体制を整えて剣を構えたとたん、熊が飛びかかってきました。背中に火がついています。

 フルートは大きく後ろに飛びのき、またバランスを崩しかけて、とっさに右手を地面につきました。炎の剣の刃先が雪に触れて、一瞬、ジュッと白い湯気を上げます。

「フルート!」

 ポチが引き返してきて、猛烈なスピードで飛び込んできました。今にもフルートに殴りかかろうとしていた熊を、風の勢いで吹き飛ばしてしまいます。

 すると、他の熊たちがフルートを取り囲んで襲いかかってきました。一頭が少年を地面に殴り倒し、押さえ込んでしまいます。とたんにフルートは悲鳴を上げました。剣帯で押さえた左腕が、変な具合に地面に押しつけられて、肩に激痛が走ったのです。

「ワンワン! フルート!」

 ポチがまた引き返してきて、熊をフルートの上から吹き飛ばそうとしました。ところが、ポチが全身の力と勢いで激突しても、熊はびくともしません。驚いてよく見ると、熊は鋭い爪を凍った雪に突き立てて自分の体を固定していました。他の熊たちも同じように爪を立て、ポチが起こす風に逆らって立ち続けています。

 ポチの白い風の体が動揺して大きく揺らぎました。一瞬、フルートを助けられないような気がしたのです。けれども、次の瞬間、自分には牙があることを思い出すと、身をひるがえし、またまっしぐらに熊へ突撃しました。

 フルートは、自分にのしかかっている熊に剣を突き立てようとしました。頭めがけて剣を振り上げます。ところが、とたんに熊の牙が、がっきとフルートの腕をくわえました。剣を持つフルートの手を止めてしまいます。

 完全に押さえ込まれ、剣さえふるえなくなったフルートに、他の熊たちがいっせいに襲いかかってきました。鎧におおわれた場所ならば心配はありませんが、むき出しになっている顔だけは唯一の弱点です。そこに一頭がかみついてきました。フルートが思わず顔をそむけます。

 その熊へ、後ろからポチが飛びかかりました。白い分厚い毛皮へ風の牙を突き立てます。真っ赤な血が飛び散り、熊は悲鳴を上げて飛びのきました。そのまま、ポチを振り払おうと雪の上を転げます。

 けれども、その間にまた他の熊が襲いかかってきました。やはり、唯一鎧から見えている生身の顔へ食らいついてこようとします。フルートには避けられません――。

 

 そのとたん、目の前で熊が倒れました。首の後ろ突き刺さった矢が、ちらりと見えたような気がします。

 続いて、フルートを押さえ込んでいた熊が崩れるように倒れてきました。何百キロもある熊の巨体がまともにのしかかってきて、フルートはまったく身動きできなくなりました。顔の上にまで毛の生えた体がぐんにゃりと乗ってきて、息が詰まります。フルートは必死で熊の体を押し返そうとしましたが、腕を動かすことさえできませんでした。

 すると、ふいに体の上が軽くなりました。熊が体の上から消えたのです。目を開けると、すぐ目の前にゼンが立っていて、巨大な熊の死体を他の熊たち目がけて投げつけているところでした。続けて、もう一頭の熊の死体も放り投げます。周りでは、風の犬のポチがぐるぐると飛び回って、熊をフルートから払いのけていました。熊たちは飛ばされないように爪を氷に立てると、そのままその場から動けなくなってしまいました。

 フルートは驚いて跳ね起きました。

「ゼン! どうして逃げなかったのさ!?」

 フルートはゼンとロキが逃げるための時間かせぎに、熊へ向かったつもりだったのです。すると、ゼンが肩をすくめて見せました。

「文句ならロキに言えよ。途中でいきなりグーリーを引き返させたのは、こいつだからな」

 フルートはますます驚いて、すぐ近くに立っていた大トナカイを見上げました。トジー族の少年はトナカイの背で息をはずませていました。これまでなかったほど激しくグーリーを走らせてきたのです。フルートに見上げられると、顔を真っ赤にして言い返します。

「だって、フルート兄ちゃんは言ったじゃないか! 左側はおいらたちに任せる、って! 近くにいなくちゃ、兄ちゃんの左は守れないよ!」

 フルートは呆気にとられました。小さなロキ。フルートたちと違って、戦うための力も特殊な技もありません。それなのに、ロキはフルートと一緒に戦うと言っているのです。

 そんな、危険だよ! と思わず言いそうになったフルートに、それより早くゼンが言いました。

「いいから左は俺たちに任せろ。そら、さっさとお客さんたちを片付けるぞ」

 あっという間にグーリーの背中に上っていくと、またエルフの弓矢を構えます。

「ポチ、もういいぞ! そいつらから離れろ! ロキ、行け!」

「うんっ!」

 ロキが真っ赤な顔のまま返事をして、グーリーを走らせ始めました。熊の群れに向かって突進を始めます。その背中からゼンが次々に矢を放ちます。

 フルートは剣を握ったままの右手で、思わず反対の腕を抱きました。凍りつき、剣帯で押さえつけられて動かせない左腕。その不利を補い助けようと、仲間たちが戦ってくれているのです。

 そんなフルートの目の前に、風の犬のポチが飛んできました。

「乗ってください、フルート! ぼくたちも行きましょう!」

 フルートは即座にポチに飛び乗りました。炎の剣を改めて強く握り直します。ロキが巧みにグーリーを走らせて、ゼンが矢で狙いやすい場所につけているのが見えます。グーリーにもロキにも、敵を恐れる様子は見られません。

 すると、ゼンが矢を放った瞬間に横から熊が襲いかかってくるのが見えました。次の矢が間に合いません。ロキがとっさにグーリーを飛びのかせようとします。

 フルートはポチとその前に飛び込むと、一気に熊を切り捨てました。炎を吹き上げて熊が倒れます。

 振り向いたフルートの目に、ゼンとロキの視線が合いました。一瞬、ほほえみが行きかいます――。

「ワン、次が来ましたよ!」

 というポチの声に、少年たちは再び身構え、敵に立ち向かっていきました。

 彼らはひとつでした。

 同じ敵と戦い合う、ひとつの仲間でした。

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