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第4巻「闇の声の戦い」

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68.光

 「来た!」

 ゼンがデビルドラゴンを振り返りながらどなりました。竜が口から闇の息を吐き出してくるのが見えます。守りの花はもう残っていません。死の霧が広がり、花鳥ごと彼らを包み込もうとします。無駄だとわかっていても、ゼンは思わずメールに飛びつき、自分の体で少女を守ろうとしました――。

 すると、いきなり二人は宙に投げ出されました。彼らの下で花鳥が突然崩れたのです。メールが驚いて悲鳴を上げます。

 ざあっと雨のような音をたてて、花たちが流れ、彼らの後ろで大きく広がりました。花の壁になって空中に広がり、闇の息を受け止めます。みるみるうちに花が色を失い、茶色く枯れていきます。けれどもそのおかげで、ゼンとメールは、闇の息を食らわずにすんだのでした。

 二人は空を落ちていきました。メールが信じられないような顔をしています。

「あ、あたい……花に何にも命じてなかったんだよ。あたいたちを守れだなんて、何にも……」

 身をもって子どもたちをかばった花が、茶色い燃えがらのようになって空から舞い落ち始めました。それは、下から眺めると、無数の小さな鳥たちが空一面に群がっているように見えました。影のドラゴンを、その向こう側に隠してしまいます。命奪われて枯れた後までも、子どもたちをドラゴンの目から隠そうとするように――。

 まっさかさまに落ちながら、ゼンは歓声を上げてメールを抱きしめました。

「すごいぞ、おまえ! 花に自分から守らせるなんて! おまえは本物の花使いだ!」

 メールは、すぐ目の前のゼンの顔を見つめ、思わず真っ赤になりました。絶賛されたのがたまらなく嬉しくて――つい、憎まれ口をたたいてしまいます。

「ホントに、あたいを誰だと思ってんのさ。あったりまえのこと、言ってんじゃないよ!」

 それを聞いて、ゼンが笑いました。楽しそうな笑い声でした。

 

「って、こんな呑気なことしてるばあいじゃないよね」

 とメールは我に返って言いました。

 彼らは空から落ち続けています。ごうごうと風がうなりながら彼らのわきを吹きすぎていきます。ドラゴンの闇の息をかわしたのが嬉しくて、つい安心してしまいましたが、このままでは彼らは地上に激突してしまうのでした。

 彼らの下をフルートが落ちていくのが見えます。金の鎧がきらめきながら、やはり地上に向かっていきます。この高さから落ちたなら、フルートだって助かりません。

「呼べるか?」

 とゼンがメールを抱きながら尋ねました。メールは緑の草におおわれた地上に目をこらしました。そこに花の色は見あたりません。

「わかんない……でも、やってみるしかないよね」

 と言って、メールは地上へ手を伸ばしました。ぴんと張り詰めた声で呼びかけます。

「花たち! 聞こえたら来ておくれ! あたいたちを受け止めて――!」

 とたんに、地上で草原がざわめき、その上に緑の霧がたなびきました。風に乗るように、霧が渦巻き流れます。

 その中を、まっしぐらにこちらへ駆け上がってくるものがありました。白い幻のような、異国の竜です。

「ポチ!」

 とゼンとメールは歓声を上げました。が、次の瞬間に気がつきました。その風の犬は、体のところどころに銀の毛を輝かせているのです。

「ルル!?」

 とゼンが驚きました。

 風の犬のルルは、彼らの下を落ちていたフルートに飛びつくと、その風の体に少年を受け止めました。そのままその場で渦を巻き、風の中に少年の傷ついた体を受け止めます。

 すると、それを包むように、地上から緑の霧がわき上がってきました。ざあぁ……とかすかな音をたてながらさらに上空まで立ち上っていって、ふいに、大きく広がります。その真ん中に、落ちていくゼンとメールを受け止めると、たちまち丸いボールのようになって、二人を包み込んでしまいます――。

 緑の霧のボールの中で、ゼンとメールはきょろきょろ見回してしまいました。もう、落下は止まっています。巨大なシャボン玉の中にでも入りこんでしまったように、ゆっくりとゆっくりと下へ向かい始めます。それは霧ではありませんでした。まるで虫のようにちっぽけな、緑色の草の花たちでした。花びらさえない、本当に麦か米の粒のような花です。

「これでも……花なのか」

 とゼンは驚きました。緑の草原にいつの間にか穀物に似た草の実が実っていくのは知っていましたが、そんなものにさえ、ちゃんと花が咲いているのだとは、今まで思ったこともなかったのでした。

「花はけっこうどこにでも咲いているもんなんだよ。人の目には見えなくたって、ちゃんと咲いているものなんだ」

 とメールは言って、緑の花の霧に身を寄せるようにして笑いました。その笑顔が何故かまた、まぶしく見えて、ゼンは思わず目を細めました――。

 

「草の花がゼンたちを受け止めたわ」

 と風の犬のルルが言いました。背中には傷つき血にまみれたフルートが乗っています。ぐったりとルルの大きな頭に寄りかかったまま、それでも、フルートは小さくうなずきました。ルルは目の前を通り過ぎていく緑のボールを見つめ続けました。ボールはゼンたちを包み込んだまま、静かに地上に向かっています。二人のことは、このまま草の花たちに任せておいて大丈夫そうでした。

 すると、フルートがかすかに何かをつぶやきました。

「え、何、フルート?」

 思わずルルが聞き返すと、フルートが先より少しはっきりした声で繰り返しました。

「風の……犬になっても……ぼくを、乗せられるように……なったんだね……」

 そう。あれほどフルートが必死でつかもうとしても、手をすり抜けていた風の犬のルルが、今はしっかりした実体となってフルートを乗せていました。ありがとう……とフルートがつぶやいたように聞こえて、ルルは思わず泣き出しそうになりました。ありがとうと言うのはルルのほうです。助け出してもらって、また光の中につれ戻してもらえたのは、自分のほうなのです――。

 フルートが咳きこみました。口からまた血を大量の血を吐きます。闇の触手は、少年の体の内側を深く激しく傷つけていたのです。

「フルート!」

 ルルは必死で呼びましたが、フルートはもう返事ができません。ルルの風の体にすがりついたまま、弱り切った自分の命を必死でつなぎ止めています。

 ルルは涙でにじむ目を上げて、頭上に浮かぶ黒雲のようなデビルドラゴンを見上げました。フルートの金の石は、ドラゴンに奪われています。あれを取り返す以外、フルートを助ける方法はありませんでした。

 ルルは強い声でフルートに話しかけました。

「金の石を取り戻しにいくわ。しっかりつかまっていてね」 フルートはかすかに息をし続けています。返事はありません。それでも、少年がわずかにうなずいたように、ルルには感じられました。

 ルルは傷ついた少年を乗せたまま、闇の竜に向かってまっしぐらに上昇を始めました――。

 

 地上に緑色のボールが舞い下りました。ざあっとまた音をたてて、緑の霧が崩れ、草原の中に消えていきます。また草の花に戻ったのです。

 中から現れたゼンとメールに、ポポロが駆け寄ってきました。少女は二人が着陸してくる場所を見極めて、必死でそこまで走ってきたのでした。真っ青になりながら二人に飛びつきます。

「ルルが……ルルとフルートが金の石を取り返しに向かったわ……!」

 と泣き出しそうになりながら言います。ゼンたちも思わず青ざめて空を見上げました。黒い影の竜に向かっていく風の犬が見えます。巨大な闇のドラゴンの前では、それはあまりにも小さく弱々しく見えます。

「花たち――!」

 メールがもう一度呼びかけます。が、今度は緑の霧は動きませんでした。小さな花たちは、二人の子どもを受け止め、地上まで無事に連れてきただけで、力を使い果たして疲れ切ってしまったのでした。

 子どもたちは唇をかんで空を見上げました。ルルたちが金の石を取り戻すことを、ただ祈るしかありませんでした。

 ポポロは涙ぐみながら、右の手首を押さえ続けていました。どうしようもなく痛くて、どうしようもなく悲しくて、手首も心も引きちぎられてしまいそうでした――。

 

 ルルは、デビルドラゴンの真っ正面に飛び出しました。ドラゴンは何の攻撃もしかけてきません。ただ、風の犬を静かに見つめながら、音もなく羽ばたきを繰り返しているだけです。

 ルルはドラゴンに向かって叫びました。

「金の石を返しなさい!」

 もちろん、言えば返してもらえるとは思っていません。ただ、そう言うことで、ドラゴンがどこに石を隠しているのかわかるのではないかと思ったのです。

 すると、ルルとフルートの頭の中に声が響いてきました。地の底から這い上がるような闇の声でした。

「無駄ダ、小サナ犬ヨ。ふるーとヲ救ウ方法ナド残サレテハイナイ。ふるーとハ、モウ間モナク死ヌ。私ニ助ケヲ求メル以外、方法ハナイノダ」

 ルルは必死で竜の影の体に目をこらしました。金の石の輝きを、その中に見つけ出そうとします――。

 すると、背中の上で、わずかにフルートが身動きしました。低い声がつぶやきます。

「誰が……おまえなんかに……助けてもらうか……」

 死にかけてもなお、自分の意志を決して曲げないフルートでした。

 デビルドラゴンの影の体が、ゆらりとかげろうのように揺らめきました。相手が自分から心を差し出すのを待ちかまえる闇の竜が、焦り怒り始めているように、ルルの目には見えました。と、その体から、突然また黒い触手が飛んできました。フルートをルルごと突き刺そうとします。

 ルルはとっさに大きく身をかわしました。急激な加速に背中のフルートがうめきましたが、しかたがありません。なおも彼らを追いかけ、フルートを傷つけようとする触手を避けながら、ルルは空を飛び、ドラゴンのかたわらを飛びすぎていきました。金の石……金の石はどこに隠されているのでしょう……!?

 すると、突然、思いがけない方向から、また別の触手が襲いかかってきました。鋭い鞭のように飛んできます。ルルは体をひねり、自分の体で少年をかばいました。触手の先が槍になってルルを貫き、ばっと血が吹き出します。その色は黒ではなく、正真正銘風の犬の、青い霧の血の色でした。

 

「キャン!」

 ルルが悲鳴を上げたとたん、それまでぐったりとしていたフルートが、ふいに頭を上げました。血にまみれた顔で、それでもドラゴンに向かって叫びます。

「やめろ――!!」

 死にかけている人間とは思えない、強いはっきりした声です。

 とたんに、デビルドラゴンの声がまた響いてきました。驚き、そして、低くほくそ笑むような口調に変わっていきます。

「ナルホド――金ノ石ノ勇者ニハ、コチラノホウガ有効ダッタノダナ。デハ、目標変更ダ。るるヲ殺シテヤルコトニシヨウ」

 無数の触手がいっせいに襲いかかってきました。ルルは必死で飛び回り、身をかわします。が、触手はどこまでも追いかけてきます。ついに、何本もの闇の槍が、ルルの風の体を貫き通しました。そのまま空中に風の犬を縫い止めてしまいます。

 悲鳴を上げるルルを、フルートは必死で抱きしめ、叫びました。

「ルル……! ルル、ルル……!!」

 闇の声が頭の中に響き続けます。

「るるヲ救イタケレバ、私ニ頭ヲ下ゲロ、ふるーと。助ケテクレ、ト私ヲ呼ブノダ。サモナケレバ、るるハ死ヌゾ」

 触手が次々に襲いかかり、ルルを串刺しにしていきます。霧の血があたり一面を青くかすませていきます。

「……ルル……!」

 フルートは今にも息が止まりそうになりながら、ルルを抱きしめ続けました。その腕の中で、風の犬は激しく震え続けています。闇の笑い声がずっと聞こえ続けています。

 すると、ふいにルルが言いました。痛みに震えながら、それでもはっきりとこう言います。

「私はもう、闇には戻らない……。フルートだって、あなたのものには決してならない……! 例え死んだって……私たちの魂は……闇に力を貸したりはしないのよ……!」

 遠いどこかで、黒い闇のドラゴンが血のような目を見開き、憎々しく彼らをにらみつけたように感じました。

 恨みを込めた声が低くつぶやきます。

「闇ノスグソバマデ来タ者ガ、生意気ナ口ヲ聞クモノダ」

 すると、ルルがまた言い返します。

「闇の近くまで、行ったからよ……闇の怖さを思い知ったから……。だから……私はもう、そっちには戻らないの。例え殺されたって、絶対に、戻らないの……!」

 闇の竜が、一瞬沈黙しました。

 じいっと、目の前から、遠くから、彼らを見つめ、それから静かに宣言します。

「ソレナラバ、望ミ通リ死ネ、るる、ふるーと」

 数え切れないほどの黒い触手が、いっせいにドラゴンの体から突きだし、風の犬と少年目がけて襲いかかってきました。その奥に、ちらりと、金に輝くものが見えます。

「金の石!」

 ルルは思わず叫び声を上げると、フルートを背に乗せたまま、襲ってくる触手に向かって、真っ正面から飛び込んでいきました――

 

「フルート!!」

「フルート……ルル!!」

 地上から彼らの戦いを見上げていたゼンとメールが悲鳴を上げました。

 闇の触手に串刺しにされていたルルが、自分の体を引きちぎり、ぼろぼろになりながらドラゴンへ突撃していきます。青い霧の血が吹き出しているのが、そこからでもはっきり見えます。そんな彼らの行く手には、今までとは比べものにならないほどたくさんの、闇の触手がうごめいているのです。

 ポポロは悲鳴さえ上げることができませんでした。彼女の魔法使いの目は、空の上の戦いを、まるで目の前の出来事のようにありありと見てしまいます。

 血を吹き出し、今にも薄れて消滅しそうになりながら、ルルは飛び続けていました。闇の竜の奥に見えた金の光に向かって、必死で飛び続けています。

 血まみれのフルートが、そんなルルにしがみついています。自分自身が死にかけているのに、巨大な風の犬をかばいきれるはずはないのに、それでも、ルルを守ろうとするように、その首を抱きしめ続けています。

 やめて、やめて! とポポロは心の中で泣き叫び続けていました。恐怖と衝撃で、本物の涙をこぼすことさえできませんでした。もうやめて……! もう戦わないで……! 心の中で大泣きに泣きながら、声にならない声で繰り返します。

 けれども、ぼろぼろの風の犬と少年は、最後の最後まで闇の竜に立ち向かい続けるのです。もう戦う術は何もないのに。戦える力など、何も残っていないのに、それでも敵に向かい続けるのです。

 ポポロは心の中で泣き続けました。力が欲しい、と全身全霊で思います。あの人たちを救う力が――あの優しく勇敢な仲間たちを、恐ろしい闇の敵から救い出せるくらい、強く大きな力が自分のこの手に欲しい! と。手首は痛み続けます。痛みが激しすぎて、今にも気を失ってしまいそうなほどです。

 すると、ふいにオーダの声が記憶の中から響いてきました。あきれたように、感心したように、黒い鎧の戦士はこう言ったのです。

「お嬢ちゃんは記憶喪失だと言ってたか? だが、お嬢ちゃんは前と全然変わってないぞ。言ってることもなにもかも、まったく前と同じだ――」

 同じ? とポポロは心で繰り返しました。まったく同じ? 前と何も変わっていない……?

 すると、上空から、ふいにフルートが振り向きました。少年のいる場所から、地上は遠い彼方です。それなのに、ポポロにはフルートが自分を見たのを、はっきりと感じました。青い瞳が、まっすぐにポポロの緑の瞳を見つめます。

 フルートの唇が動きました。

「ポポロ――助けて」

 少年は、確かに、そう言いました。

 

 ポポロはガラスの砕け散るような音を聞きました。すべてがきらめきに変わり、緑色の輝きに染まっていく中で、風のように力が戻ってきます。その華奢な右の手に力が集まり、星に似た淡い輝きを放ち始めます。

 ポポロは右手を高く差し上げて、まっすぐにデビルドラゴンを指さしました。澄んだ声で叫びます。

「レターキヨリカヒ――セラテオミーヤ!」

 その瞬間、空がまばゆく輝きました。目も開けていられないほど強い光が、あたり一面を充たし、空も地上も、あらゆるものを白く照らし出していきます。

 その光にデビルドラゴンが叫び声を上げました。影で作られた体から伸びる触手が、光の中でちぎれて消えていきます。黒い体が、まばゆさの中で薄れていきます。

 と、その体の奥で、別の輝きがわき起こりました。空の白い光に応えるように、澄んだ金の光が輝き渡り、内側から、デビルドラゴンを照らします。

 ドラゴンはまた吠えました。闇の声がすさまじい叫びを上げます。

 そして――

 黒い竜の影は空から消え去りました。

 

 白い光と金の光が薄れて消えて、後にはまた、よく晴れた青空が現れました。

 空の上には、風の犬のルルとフルートだけが残されていました。信じられないようにあたりを見回します。光が輝いた瞬間、彼らは目を閉じていました。心の中に、「みんな、目をつぶって!」というポポロの声が響いたからです。目を開けたとき、そこにはもう、デビルドラゴンの姿はありませんでした。

 すると、突然ルルが空から落ち始めました。力をなくしたように、みるみる地上へ落ちていきます。フルートは必死でルルを抱き、呼びかけました。

「ルル! ルル、しっかり! 気を確かに持って――!」

 フルート自身、今にも気を失ってしまいそうなほど激しい傷の痛みに襲われ続けています。それでも、懸命にルルを呼び続けます。

 すると、ルルが目を開けました。我に返ったように頭を上げます。とたんに墜落が止まり、彼らはふわりと宙に浮きました。

 と、そのフルートの膝の上に、空から何かが落ちてきました。とたんに、フルートの全身から痛みが引き、みるみるうちに傷が治っていきます。金の石のペンダントがまたフルートの元に戻ってきたのでした。

 フルートはあわててそれをルルに押し当てました。傷つきちぎれて、ぼろぼろになっていた風の犬の体が、また元のように美しい長い姿を取り戻します――。

 

 フルートとルルは地上に舞い下りました。そこではゼンとメールが立ちすくんで、ことばもなくポポロを見つめていました。

 ポポロは右手を高く空にかざしたままでした。空から降りてくるフルートたちを見つめ、地上に降り立ったのを確かめると、初めてようやく腕を下ろします。

「ポポロ……」

 フルートは黒衣の少女を見ました。ルルが元の犬の姿に戻って、確かめるように少女の顔を見上げます。

 すると、ポポロがにっこり笑いました。その緑の瞳に、みるみるうちに大粒の涙があふれて、頬の上を次々に転がり落ちていきます。喜びの涙は、止まることがありません。

 それを見て、ゼンが肩をすくめました。

「あーあ、記憶を取り戻したとたんに、またこれかよ。ホントにおまえは泣き虫だなぁ、ポポロ」

「ちょっと! もう少しマシな言い方ってないのかい?」

 とメールがそんなゼンを肘でつつきます。けれども、憎まれ口を言いながら、ゼンは、これ以上ないというほど嬉しそうな表情をしています。そんな彼を見て、メールも思わず笑顔になりました。やっぱり、嬉しそうなゼンを見るほうがメールも幸せでした……。

 フルートが静かにほほえみかけました。

「おかえり、ポポロ」

「……ただいま」

 少女は泣きながらそう言うと、また、にっこりと笑いました。その足下へ、茶色の犬が駆け寄っていきます。

「ポポロ! ポポロ、ポポロ……!」

「ルル!!」

 少女はかがみ込むと、再び取り戻した魔法と記憶と一緒に、大切な自分の姉を腕の中に抱きしめました。もう二度と放さない、と言うように、強くしっかりと。そして――ポポロは声を上げて泣き出しました。

 そんな少女と犬を、仲間たちは見守りました。ただ笑顔で、黙って見守り続けました。

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