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第2巻「風の犬の戦い」

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31.ライオネル

 もうひとりのニセ勇者が現れたのを見て、オーダが身を起こしました。

「おい、まて、ライオネル……! おまえ、今、金の石の勇者が風の犬を倒したと言ったな!? どうして、それを知ってるんだ!?」

「今、君が大声で言っていたではないか」

 と銀の鎧の勇者はすまして答えました。このライオネルという男は、美しい顔をしているのですが、腹の中で何を考えているのか表情から読み取れないところがあります。

 オーダは顔をしかめました。

「ぬかせ、このタヌキめ! この子どもらが本物の勇者だと、どうして知っていたんだと聞いてるんだ! しかも、おまえは、どうして殺人鬼の正体が風の犬だと知っていたんだ!?」

「エラード公から教えられたからな。危険だから、怪物退治は本物の勇者にお任せしておくように、と言われたよ」

 ライオネルは、相変わらずひょうひょうと答えます。

「な、なんだとぉ……!?」

 オーダがあきれかえっていると、それを押さえて、ゼンが出てきました。

「おい、気障なニセ物。俺たちの真似をして、何を狙ってやがる?」

 ゼンは油断のない目でライオネルを見ています。オーダのような男は、直情なので、実際にはあまり危険なことは考えませんし、考えたときには顔にそれが出ます。一番怖いのは、一見礼儀正しく穏やかにふるまいながら、ひそかに腹黒い計画を立てている連中なのです。

 ライオネルは、ふふん、と鼻で笑いました。そんなしぐさひとつまでが、うんざりするほど美しくて絵になります。

「簡単なことだよ。怪物退治は本物にお任せする。みごと退治してもらったら、あとはこの我々の出番になるのさ。金の石の勇者ライオネルと、その一行の凱旋だよ。本物の君たちより、ずっと本物らしいだろう?」

 それを聞くと、ゼンは、いっそう低く身構えました。ほとんどうなるような声で言います。

「つまり……俺たちを殺して、手柄を横取りするって意味だな?」

 フルートも、すでにそれを予想していました。背後にポポロをかばいながら剣を構えます。

 ライオネルが上品な笑い声を立てました。

「その通りだよ! さあ、死んでもらおうか!」

 声と同時に、ライオネルの後ろから、ドワーフとオオカミが飛び出してきました。

 

 細い袋小路の中では、新たな戦闘が始まりました。

 戦斧を振りかざしたドワーフと、大きな黒いオオカミが、子どもたちめがけて襲いかかってきます。

「ちっくしょう!」

 ゼンはいまいましく吐き捨てると、青い盾を構えました。戦斧が盾をまともに叩きつけます。が、盾はびくともしません。ゼンが渾身の力で受け止めたのです。

 ドワーフのバリガンは目を見張って、面白そうな顔をしました。

「案外力があるな、坊主。やるじゃないか」

 どちらもドワーフ、怪力同士の二人です。ゼンはまだ子どもですが、人間の血が入っている分、体が大きいので、体格的には互角でした。

 バリガンは何度も斧を振り下ろし、そのたびにゼンが盾で受け止めます。ギン! ガン! と激しい音が袋小路に響き渡ります。

 すると、今度はゼンが隙を見てショートソードをくり出しました。バリガンの鎧の隙間を狙います。が、バリガンは素早く戦斧でそれを打ち返しました。ガキーン、とまた堅い音が響き渡ります

 力任せに打ち返したのに、ショートソードが刃こぼれひとつしなかったので、バリガンが今度は意外そうな顔をしました。

「丈夫な剣だな。わしの一撃を食らったら、普通は折れるものだぞ」

 ゼンはにこりともせずに答えました。

「俺の洞窟で作られた武器だからな。おまえらの里じゃ作れないような逸品だぜ」

「ふん。上等だ」

 バリガンは憎々しげにうなると、再び戦斧を大きく振り回し始めました。

 

 一方、オオカミは戦うドワーフたちのわきをすり抜け、奥にいる子どもたちめがけて、まっすぐ襲いかかってきました。

 ポチが矢のように駆けだしてきて、激しく吠えたてます。フルートも剣を手に飛び出していきます。

 すると、後ろからオーダの声が上がりました。

「行け、吹雪! 恥知らずどもをかみ殺してやれ!」

 巨大な白いライオンが、フルートたちの頭上を飛び越えて前に出て行きました。黒いオオカミに飛びかかり、喉笛にかみつきます。

 ギャン!

 オオカミはのけぞって倒れ、脚でライオンを蹴り飛ばしました。どちらも大きな獣です。狭い路地に体をぶつけ合いながら、組んずほぐれつの戦いを繰り広げます。

 フルートは後ろを振り返りました。黒い鎧の戦士は怒りに顔を真っ赤に染めて、路地の入り口に立つライオネルをにらみつけていました。

「最初から、おまえはいけ好かなかったぞ!」

 とオーダがどなります。

「そんな格好をしているくせに、戦士らしい匂いが全然しなかったからな! おまえは何者なんだ!?」

「私はライオネル。エラード公の遠縁に当たる貴族だ」

 と銀の鎧の男が答えます。目の前で仲間たちが激しく戦っていても、自分ひとり安全な場所で悠々と構えています。

 ほほぅ、とオーダは皮肉っぽい声を上げました。

「おまえが金の石の勇者になりすませば、その親戚に当たるエラード公の人気が上がって、エラード公に王冠が近づいていくるという筋書きか。そして、それを俺にも聞かせると言うことは、俺のこともここで一緒に始末しようっていう計算のわけだな」

「ご名答」

 ライオネルが笑いました。ぞっとするほど冷ややかな微笑が広がります。

 オーダは歯ぎしりをしました。

「このペテン師め! 俺と勝負しろ!」

「私と戦いたければ、君のほうでここまで来たまえ」

 自分たちの間で獣とドワーフたちが戦っているのを承知で、ライオネルが答えました。どちらの戦いも激しくて、とても通り抜けられないと読んでいるのです。

 オーダがさらに歯ぎしりをしていると、こんな声が聞こえてきました。

「オーダさん、ポポロをお願いします。……ポチ、行くよ!」

 フルートでした。

 オーダが、なに? と驚いている間に、フルートはポチを連れて駆け出し、戦う獣たちの間をすり抜け、ドワーフたちのわきを走り抜けて、袋小路の外に飛び出していきました。小柄な体ならではの機敏さです。

 すぐ目の前にフルートたちが迫ってきたので、ライオネルが、ぎょっとしたように大きく飛びのきました。腰のロングソードを抜いて構えます。

 フルートも剣を構えながら言いました。

「金の石の勇者を名乗るだけなら、別に構わないと思ってた……。でも、あなたはそれを利用して、人をおとしいれ、殺そうとしている。そんな人間には、金の石の勇者はかたらせない!」

 すると、ライオネルが、また、ぞっとするような笑いを浮かべました。

「言いたいことは、それだけかね? では、行くぞ!」

 ライオネルの剣がくり出されてきました。フルートが剣でそれを受け止めます。カキン、カキーン、と鋭い音が響き渡ります。

 が、二、三度打ち合っただけで、彼らは互いに相手を見直すことになりました。フルートはもとより、ライオネルも相当の剣の使い手だったのです。金の鎧のフルートと、銀の鎧のライオネル。二人の剣士は口を真横に引き結び、お互いの剣を振り、飛びつき飛びのいて、激しく戦い始めました。

 

 ポポロはオーダのかたわらに立って、三カ所で同時に繰り広げられている戦いをおろおろと眺めていました。ポポロたちから近い順に、白いライオンと黒いオオカミ、ゼンとドワーフのバリガン、そして、大通りでフルートとライオネルが激しく戦っています。魔法で援護しようにも、どのグループに、どんな魔法を使ったらいいのかわからないのです。

 獣の声と武器をたたき合う音が道に響き渡っていました。戦う者たちを月の光が照らし出し、くっきりと落ちた影が、彼らの動きに合わせて石畳の上を踊っています。影は人の死と不幸を願って踊り狂う黒い魔女のようでした。

 

 そのとき、バリガンがゼンのショートソードを打ち飛ばしました。剣が小路の壁にぶつかり、音を立てて落ちます。

「あ、この……!」

 思わずゼンが声を上げると、突然バリガンが足払いをかけてきました。ゼンが仰向けに倒れます。その頭を狙って、大きな戦斧が振り下ろされてきます。

「……!」

 ゼンは青い盾をまた構えて、斧を受け止めました。戦場では敵の盾や鎧を砕いて、その命を奪ってきた一撃ですが、やはり、青い盾を打ち砕くことはできません。斧はガキッと音を立てて止まり、それ以上、一ミリもゼンに近づくことができませんでした。

 ゼンはバリガンの腹を蹴飛ばすと、盾で押し返しました。今度はバリガンが路上に倒れます。ゼンは素早く跳ね起きると、敵の右腕に膝落としをかけました。バリガンが、うめき声を上げて戦斧を手放します。

 斧を遠くに蹴飛ばして、ゼンが笑いました。

「さあ、これでお互い武器はなくなった。また五分と五分だぜ」

 バリガンがうなりながら立ち上がりました。怒りのあまり、すさまじい形相になっています。

「クソ生意気な小僧め……! きさまなど、ひねりつぶしてやる!」

 獣が吠えるような声を上げながら、ドワーフの戦士が飛びかかってきます。ゼンは盾を路上に放り出すと、両手で突撃を受け止めました。そして、そのまま二人はがっぷりと組み合い、力任せの戦いを始めました――。

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